8月13日(金)  オリンピック開幕の日
 一日の取材を終えてホテルに戻ると、スニーカーが真っ白になっています。夏、ほとんど雨の降らないアテネでは、石畳やアスファルトがうっすらと白いほこりでおおわれています。抜けるような青い空の下、まっすぐに続く白い道。その両側にたたずむクリーム色やレンガ色、あるいは白い建物群。ガイドブックでもよく見かける典型的なアテネの街角の光景ですが、きょうはなにかが違う!人がいないのです。暑いから?いや、そうではありません。
 昨夜のアテネは喧騒に包まれていました。アテネのシンボル、パルテノン神殿にむけて聖火が運ばれたのです。聖火リレーにはあのカール・ルイスも登場!アクロポリスの丘には何万人という市民が集まり、何台もの青いギリシア国旗を掲げた車が通りを行き来していました。オリンピックの前夜祭は朝まで続きました。
 アテネに入って意外だったのが、オリンピックの興奮や緊張感があまり市民のあいだから伝わってこなかったこと。しかしそれは間違いでした。アテネの人たちはやっぱり!オリンピックの開幕を待ち焦がれていたのです!!
一夜明けて開会式当日。お昼になっても街には昨夜の余韻が漂っている感じです。人々はきっとまだ寝ているのでしょう。

午後になって、街なかでは早くも交通規制が敷かれはじめました。取材で得た情報では、開会式に参加する各国大使に対して、アテネ警察はテロの標的にされる恐れがあるということで、公用車の使用を禁止したそうです。また、タクシーの運転手に扮した警察官も大量に投入して警戒にあたるそうです。

間もなく開会式がスタートします。スタジアムに近いメトロ1号線のイリニー駅からは、目を輝かせたアテネ市民、そしておそらく全世界からやってきたであろう観客たちが続々とやってきます。凄い!凄い数です!蟹瀬さんもゲートを抜けてスタジアムのなかに入っていきました。

上空には見たこともない数のヘリコプターが飛んでいます。空がうなりをあげています。
カメラのフラッシュでスタジアム全体が発光しています。
カウントダウンが聞こえてきました。
なぜか涙が出てきます。
花火があがりました。
さぁ!アテネ・オリンピックの開幕です!!

8月12日(木) 西へ東へ
 アテネの太陽はきょうも肌を刺すように熱い!湿気の多い日本はベトベトした暑さですが、アテネはヒリヒリした暑さです。きっと紫外線も強いのでしょう。コンタクトレンズはすぐ乾くし、唇もひび割れてきます。目薬とリップクリームは取材の際の必需品。
 さて、僕たちは午前3時(日本では午前9時。時差は6時間です)に放送を終えると、3時間ほど寝て、取材に出ていくというスケジュールです。一日中アテネの街を駆けずり回って、放送の3時間ほど前にホテルに戻り、本番に向けた準備をするという毎日。 しかしアテネは広い!地理に不案内なせいもあって、感覚的には東京よりも広く感じます。特設スタジオがあるホテルが四谷だとしましょうか。すると僕たちが一日の最初に足を運ぶメディア・センター(いろんな行事や記者会見予定などがここでわかります)は、吉祥寺にある感じです。オリンピック選手村はこの例えでいけば八王子。
八王子の選手村であった記者会見を取材したあと、街の取材をするためにプラカという旧市街に向かうとします。プラカは石畳の路地に小さなお店がひしめきあっていて、いつもたくさんの人でごった返しています。有名な古い教会もあります。これらの雰囲気が仲見世と浅草寺に似ているので、僕らはここをアテネの浅草と呼んでいます。
プラカで取材を終えたら次はシンタグマ広場へ向かいましょう。ここは銀座・丸の内です。お次は柔道の会場を取材。一路埼玉の川越に向かいます。おーっと!!今度はバレーボール会場を取材しなくてはなりません。横浜山下公園に向かわねば!!次はどこに行けばいいの?えっ?カヌーの取材?・・・・・・わかりました。千葉ですね・・・。こんな感じですから毎日大変です。
現地で聞いた話では、1996年のオリンピックの開催地を決めるとき、アテネは僅差でアトランタに敗れたそうです。理由は交通網が整っていなかったからとか。そんなこともあって、オリンピックを前にギリシアは交通網の整備に力を入れました。その努力の成果は、僕たちも十二分に感じ取れます。しかし慢性的な交通渋滞の解消にまでは至っていないというのが正直なところ。
ですから、一日のうちに僕たちがもっとも頻繁に利用する移動手段は徒歩、「歩き」です!
「渋滞ひどいからさ、ここでタクシー降りちゃおうよ。あの丘を越えたところにメトロの駅があるから、それでファリロ(横浜港、もといエーゲ海をのぞむ場所にあるバレーボール会場やサッカー競技場)に行っちゃおうぜ!」
「蟹瀬さぁ〜ん(泣き)5キロはありますって。やめときましょうよ。死にますよ」
「大丈夫だって。今日だって20キロ(!)くらいしか歩いてないだろう。日ごろ不摂生してるからすぐバテちゃうんだよ」
「!!!???・・・(絶句)」
汗にまみれたTシャツを見ると、塩を吹いてうっすら白くなっています。体重90キロの身にこの坂はキツイ!「チキショー!54歳の親父に負けてたまるかーーーっ!!」 前を行く蟹瀬さんの背中に向かって「殺気光線」を発しながら必死で後を追う僕。でも蟹瀬さん、気づいてないみたい。20メートルくらい差をつけられてるから殺気も届かないのかも・・・。
チキショー!チキショー!チキショー!

8月11日(水) 幻のスクープ写真??
  きょうもアテネは猛烈に暑いです!でも東京と違って湿気がほとんどないため、木陰や家のなかに入るととっても過ごしやすい。そんな気候風土が生んだ生活習慣が「シエスタ」(お昼寝)です。
最近でこそビジネスマンたちにはシエスタの習慣はないそうですが、最も気温が高くなる午後2時から4時あたりは、やっぱり街のカフェからも人が消えます。
 きょうは蟹瀬さんと一緒に開会式を目前に控えたオリンピック・スタジアムを取材しました。
 おそらく警備は厳重になっているのではと思いながら行ったのですが、「あれれ??誰もいない」
 僕たちはするするとスタジアムのスタンドに入り、誰もいないので、ついにはフィールドにまで下りてしまいました。
 熱心にメモをとり、ICレコーダーに自分の感想を吹き込んでいる蟹瀬さんの横で、僕は写真を撮り放題。
 「あっ!蟹瀬さん、こんなところにこんなものがあります!!開会式の隠し玉ですよ!」
 「あれーっ!ここにもこんなものがーっ!よくこんな演出を考えますね〜スクープ写真ですよこれは!!」
 きゃあきゃあいいながら写真を撮っていると「コラっ!お前何やってんだ(たぶんそう言われた)」
 振り返ると自動小銃を持った兵士が立っているではありませんか!
 結局僕は事務所に連行され、デジカメの証拠写真をその場ですべて消去させられました。
 取材経験豊富な蟹瀬さんが「まぁまぁ彼も若いんだし、知らなかったんだから許してやってよ」みたいなことを言ってくれたので事なきを得ましたが・・・・。いやぁ〜自動小銃を持った人間に怒られるとやっぱり怖いっすね。
 でも助けてくれたから黙ってましたけど、蟹瀬さん、しっかり自分のカメラで記念写真は撮ってましたよね・・・?
 なにはともあれ開会式はもうすぐです。さらに熱い夏が始まろうとしています。
 あ、そうそう、開会式を楽しみにされている皆さんに。「鐘」と「ギリシア彫刻」と「海」と「聖火台」。
 これが注目のキーワードですぞ。

8月10日(火) ギリシア人の働きぶり
 アテネに到着して二日目。蟹瀬誠一さんもこの日合流しました!
オリンピック開幕を間近にひかえたアテネの街は、そこかしこに水色やオレンジ、黄色などのカラフルな旗や横断幕が飾られています。
 ギリシアの典型的な風景は、赤茶けた土に背の低い草木がどこまでも連なっていて、その先に白い石灰石や大理石でできた遺跡が見えるというもの。もともと景観保護のためにネオンサインや看板などが制限されていることもあって、景色は単調です。
 そこに突如現れたカラフルな旗や横断幕。これが実に映えるんです。工事現場の囲いもオリンピック・カラーの装いだったりします。
 ところで、日本のメディアでも盛んに伝えられている「工事の遅れ」ですが、うーん・・・どうなんでしょう。彼らの仕事ぶりを見ていると、知り合いが通りかかると挨拶をして、仕事の手を休めて話をしています。そこに誰かの知り合いのお年寄りがやってきて話の輪に加わり、そこにまた誰かの家の子どもが通りかかって声をかけ・・・というふうに、いちど作業が中断するとなかなか再開されないという有様。でも・・・みんなほんとうに楽しそうなんですよねぇ。
 蟹瀬さんいわく「日本人はさ、時間を守って仕事をきっちりこなして偉いんだけど、もしかしたら人間はそんなふうに出来てないのかもしれないよ。だってあいつらあんなに楽しそうじゃん!」
 う〜ん・・・確かにそうかも。
「でも蟹瀬さん、僕たちが契約した現地の携帯電話、約束の時間を2時間もすぎてんのにまだ届けにこないんですよ!いったいどやって連絡とりあうんですかっ!!」  のんびりしたギリシア人の横で、非ラテン民族である僕たちは胃をきりきりさせながら右往左往しています。

8月9日 晴れ
日本からパリを経由して20時間あまり。とうとうアテネにやってきました。
「エレフテリオス・ヴェニゼロス空港」という、舌をかみそうな名前の空港が、アテネの玄関口になります。この日は取材や中継を担当するメディア関係者の入国ラッシュだったらしく、みんなぞろぞろとIDカード取得の手続きをするカウンターに向かっていました。
しかしメディア関係者以上に目につくのがボランティアの人々!立ち止まってきょろきょろあたりを見回したり、ちょっとでも目が泳いだりした人には、すぐさま満面の笑みで声をかけてきます。
「なんて親切なんだ。ギリシア人はひとなつっこいとガイドブックに書いてあったけどその通りだなぁ」といたく感激してしまいました。
 しかし!その感動は長くは続かなかった。なぜかといえば・・・ボランティアはみな一様に、満面の笑みを浮かべながら、懇切丁寧に、これでもかというくらいに親切に、「違うことを言う」のです!
「まぁ、日本からいらっしゃったの?遠いところからわざわざ。こんなに大汗かいちゃって。大変だったでしょう。○○ホテルに行きたいの?それなら12番乗り場からバスが出てるわ。間違いないわよ(たぶんそう言っていた)」
「やぁ、お兄さん。日本から来たの?日本ってクールな国だよね。ひとりなの?こんなに大汗かいちゃって。○○ホテルに行きたい。オーケーオーケーそこに行くなら18番乗り場だよ。間違いないね(たぶんそう言っていた)」
「こらーーーーーっ!!!!!にこにこしながらいい加減なこと言うなーーーーーー!!!!!」
もちろんこれは心の叫びです。実際はこちらもにこにこしながら「サンキュー、サンキュー」とうなづくばかり。焦りまっくてますます汗は出てくるし・・・ただでさえ汗かきなのに・・・。
結局、誰が本当のことを言っているのかわからないので、キレイな女の子が多く乗っているバスに乗り込むことにしました。ドアが閉まる後ろで、さきほどのボランティアのおばさんが手足をバタバタさせながら叫んでいました。「ちょっとあなた!そのバスは違うのよ!!それに乗っちゃだめだって!!(たぶんそう言っていた)」
さぁ、大会開幕前のアテネ市街にいよいよ突入します!
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