7月31日 ゲスト:金田一秀穂さん
◆テーマ:『金田一秀穂先生の夏休み特別!“日本語講座”』◆
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いつの頃からか、日本語の誤った使われ方が定着し
“言葉の乱れ”が指摘される昨今、
今あらためて“日本語”について学ぶ
夏休み特別 日本語講座!
講師の先生としてお招きしたのは、
杏林大学外国語学部教授で、言語学者、
日本語研究の第一人者の金田一
「言葉」は“乱れた”のではなく“変わった”と語る金田一さんが指摘する
“日本語を変えた”世代とは・・・?
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■金田一秀穂先生の夏休み特別 日本語講座
◆1時限目:音が伝える言葉
言語学の大原則では「音」と「意味」は無関係――。
でも、音がなんらかの意味をあらわすことはないの??と考えた場合・・・
金田一秀穂さんは、さまざまな国の人に“日本語”を教える際、
次の質問をすると「だいたい答えは一致する」そうです。
“イピピ”と“オポポ”が――
【兄弟】【夫婦】【正義の味方と悪役】【太っている・やせている】だったら・・・
イピピとオポポは、それぞれどっち?
■イピピ・・・弟、妻、正義の味方、やせている
■オポポ・・・兄、夫、悪役、太っている
(ほぼ一致する回答例)
金田一 「“言葉”は“意味”から離れて“音”だけが面白いのでは?」
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金田一秀穂さんが挙げた2つの例・・・
●映画(字幕版)
・・・日本語吹き替えよりも字幕が好きなのは、声を聴きたいから。
意味はどうでもよく“音”が大切。
●B-DASH(アーティスト)
・・・“英語にしか聴こえないけど、英語ではない曲”がヒットする。
なんとなく気持ちが通じる。
弘兼 「サザンの桑田さんの歌詞も前後のつじつまがなくて、
曲の流れに言葉を当てはめてるような感じですよね」
金田一 「音とかリズムが重要になって、意味は捨てているわけです。
そういうのが “面白いな”と思ってるんです」
◆2時限目:言葉・言い回しの微妙な違い
このパートでは、外国人の教え子から多く寄せられる質問を例に授業を展開。
とりわけ“日本語”と“外来語”を日常の会話で使い分ける方法は・・・?
(例1)【牛乳】と【ミルク】
【投手】と【ピッチャー】
金田一 「“投手”と“ピッチャー”は同じですけど、
使われ方が違うんです」
■ポイント…“例文に入れて、使えるかどうか”
○牛乳瓶・粉ミルク ×粉牛乳
○桑田投手 ×桑田ピッチャー
(例2)【ご飯】と【ライス】
■ポイント…ご飯は「朝ご飯」のように、主食に副食を含めることができる
金田一 「“朝ご飯”にパンを食べてもいいわけです」
(例3)【トイレへ行く】と【トイレに行く】
■ポイント…「へ」「に」の違いは、本来は方言の違い
「へ」…九州、「に」…京都、「さ」…東京(東日本)
金田一 「東日本の方は『東京さ 行く』と言っていたんです」
石川 「秋田もそうです」
金田一 「明治の頃に『へ』と『に』が共通語になったんです」
弘兼 「『トイレへ行く』というと“場所”に、
『トイレに行く』というと“行為”というイメージがあります」
◆3時限目:『ゴミ』はなぜカタカナで書かれるのか?
漢字、ひらがな、カタカナを使いわける日本語――。
カタカナは、外来語、動植物名(サンマ・サクラなど)、擬音語・擬態語に使用します。
では『ゴミ』は外来語なのでしょうか――??
金田一 「こう聞かれた時に、どう答えるかによって
日本語教師の“腕”がわかるんです」
このような質問に対して“強調”の意味――と答える教師が多いようですが・・・
金田一秀穂さんは、否定的。
金田一 「ゴミ!と大きな声で言う、大きな字で書く、
赤く書けば、それは“強調”になるけど
日本語の文法には“強調”はないんです」
「“強調”で片づけてしまえば、教師として“思考停止”になってしまう」
「“漢字が難しいから”というと、今度は“眼鏡”“飴”は?――となる」
■ポイント…“耳で聴く”話し言葉はカタカナで書かれる
金田一 「外国人が話す“フジヤマ”とか
“オジサン”“(人名+)サン”“アホ”とか、
軽い感じ、話し言葉的になります」
弘兼 「漫画の中のセリフで“君”と“キミ”を使い分けたりしますね」
金田一 「それで、なんとなく“ニュアンス”が伝わってくるわけですね」
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石川 「“ゴミ”というのは、文章で表記されるものではない――と
思っておいた方がいいですね」
金田一 「ゴミは…『新聞』がゴミ捨て場にいけば『ゴミ』になる――
状態が変われば『ゴミ』になる――“話し言葉”的、
“耳で聴けばすぐ消えてしまう”ような言葉――と考えたらいいかな」
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■団塊世代が変えた?!正しい日本語の使い方とは
若い世代を中心に、日本語の使い方に関して“言葉の乱れ”が指摘されて久しい現在。
金田一秀穂さんのお考えを伺うと、返ってきたのは意外な答え!
「『凄く嬉しい』も本当は間違い。団塊の世代が変えたんです!」
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金田一 「僕らは『変化する・変わってきた』と言っています。
“変わってきた”ことに対して、価値が低い――というのが
『乱れる』という考え方。
でも価値が高いか低いかは、誰も決めることはできない。
だから『変わったんだ』というのが日本語学者の考え方です」
『凄く 嬉しい』を『凄い 嬉しい』というのも
「もう しょうがない」こと。(『凄い 嬉しさ』と言えば問題なし)
また、本来『凄い』『凄く』は
『凄く暑い』『凄くつらい』など“悪いこと”に使うべきもの。
同じように『酷く』も“悪いこと”を強める言葉。
『凄い楽しい』『酷く美味しい』は、本来 間違いなのです。
金田一 「でも、そうしたのは“団塊の世代”です!
あの人たちが日本語を乱したんです。
大学に入って“ナンセンス”と“異議なし”の
二つの言葉しか言わなかったんです!
今の若者たちに対して“語彙が少ない”とか言うのは、冗談じゃないですよ!」
弘兼 「そうか…(苦笑)
僕と(プロデューサーの)塚本さん、二人が団塊世代ですから…(笑)」
石川 「(二人が)ちっちゃくなってます(笑)」
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■『全然いい』は全然OK!
『全然』は【否定・打消し】の意味を持つ語にかかる副詞とされ、
『全然美味しい』『全然平気』などの使われ方に対して
“言葉の乱れ”と指摘される向きがありますが、
【肯定】的な使われ方も、間違いではありません。
弘兼 「美空ひばりさんとか雪村いづみさんとか三人娘の映画でも
『全然美味しい』といういい方をしていました」
金田一 「夏目漱石なんかは『全然平大丈夫』『全然平気』だとか
使ってます。だから“全然いいんです”(笑)」
弘兼 「明治の文豪は、そうやって使ってるんです」
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■ありそうで、ない言葉~“怒る”の形容詞表現
『喜怒哀楽』の感情は、
「嬉しい」「哀しい」「楽しい」――と「い」で終わる形容詞表現がありますが
「怒」は「怒る(おこる・いかる)」の動詞はあっても、形容詞表現がありません。
金田一 「“腹立たしい”が一番近いけど“比喩”で言ってる感じがする」
弘兼 「日本人は本来“怒る人種”ではなかったんでしょうか?」
石川 「気持ちを表に出さないんですかね?」
これはいったい なぜなのか、その答えに注目が集まりましたが・・・
金田一 「あんまり簡単に“答え”を出しちゃいけないんです」
弘兼 「『なぜか?』でおいといて、永久の課題で 時々 酒飲みながら
『なんでやろ?』と考える・・・」
金田一 「そうそう、お風呂入りながら、とか(笑)
結論が出ないのが楽しいんです」
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■お送りした曲目
◇ウィズアウト・ユー ~ トレス・パラブラス / 東京キューバンボーイズ
(弘兼セレクション)
◇暑い夏をぶっとばせ / ナット・キング・コール
(弘兼セレクション)
◇真夏の果実 / サザンオールスターズ
(金田一秀穂さんのリクエスト)
◇LET IT BE / ザ・ビートルズ
(RN・“セイ!ヤング”さんが初めて買ったレコード)
◇バン・バン・バン / ザ・スパイダース
(金田一秀穂さんが初めて買ったレコード=ベストアルバムから)
◇花 / 森山直太朗
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金田一秀穂さんの名言・好きな言葉はこちらをご覧ください。



