2007年1月、浜松町に新しい落語会が誕生しました。
その名も『浜松町かもめ亭』。

駅と直結する文化放送メディアプラスホールの立地を生かし、毎月一回定期開催する落語会です。
文化放送と小学館の共催で、新進気鋭の若手落語家から人気実力共に揃ったベテラン落語家まで、バラエティに富んだ出演者を予定しています。
これまで落語を聴きに行ったことのない人も、 耳の肥えた落語ファンも満足すること間違いなし!
入場料金も、週末のお仕事帰りに気軽に寄れる料金設定です。
是非、週末の楽しいいひとときをお過ごしください。
また小学館は、『らくだ亭』の名前で、 2007年夏から神田・神保町界隈に新たな落語会の開催してます。
こちらも2社の共催という形で実施運営していきます。
この二つの落語会を是非、ご贔屓に。

『浜松町かもめ亭』はチケット絶賛発売中です!
詳しくは、下記までお問い合わせください。。








第45回かもめ亭レポート

文化放送主催第45回『浜松町かもめ亭』公演が4月22日(金)、文化放送12階の「メディアプラスホール」で開かれました。
今回の番組は「映画『落語物語』公開記念」と命名されたもの!話題の映画『落語物語』の監督・出演落語家さんばかりの登場です!

番組は
『つる』          立川こはる
『湯屋番』         柳家わさび
『鬼の面』         林家しん平
仲入り
『弟子の赤飯』       春風亭百栄
『柳田格之進』       隅田川馬石
といった内容でした。

立川こはる
<立川こはるさん>
こはるの 小ネタは サラサラ行くよ

開口一番は『かもめ亭』の看板娘!?立川談春師匠門下の前座・こはるさん。
東日本大震災で仕事激減の四月、まだ二回目の仕事だったとか!皆さん、こはるさんにお仕事をヨロシク!
「『落語物語』の主人公・小春と紛らわしくて」と挨拶をすると本題の“爆発の老人がみた悪夢の風景とは?!落語”『つる』へ。今は、東京でも演者の多い前座噺になっていますが、この噺を東京で初めて演じた桂小南師匠から聞いた所によると、元々は序盤に「隠居が絵を画くのが趣味で千鶴を描いているのを、八五郎が下ネタと間違える」という件があったそうです。
さて、髪結床の大将とダベッていた八五郎が隠居さんの下に「つるは日本の名鳥ですか?」と問題を持ち込みます。ここで隠居が冗談半分、「鶴は元々首長鳥といった。それが何故、鶴と呼ばれるようになったかというと」と話しだすと、八五郎、「なんで隠居さん、(俺の質問と)違う噺をするわけ?」と疑問を持ちます。しかし、直ぐ隠居の「唐土の浜辺で一人の老人が海をな眺めていると、雄の首長鳥がツー、後から雌の首長鳥がルーと飛んできて、鶴になった」という話に乗ります。普通は「浜辺に白髪の老人が立っていると唐土の方から雄の首長鳥が」という話なんですが、老人が唐土にいる設定は珍しい。「鶴の由来があんなくだらない噺だとは」とボヤきながら、早速、友達の辰の所へ、「余裕を持って喋ると頭が良く見える」という隠居の話も参考に、この話を強制的に聞かせて「物知り」ぶろうとしますが、些か健忘症気味の八五郎、それがなかなか上手く行かない、という展開へ。「鶴は一度番いになると生涯別れない」と受け売り話を聞かされた辰が「嫌がらせか!俺はかみさんと別れたばかりだ」と怒り出すのも珍しい演出です(因みに×1の私も辰さんに共感)。
そこから、話が分からなくなった八五郎が泣きべそをかいてオチがつくまで、
トントンと勧めて、見事に高座を温めてくれました。

柳家わさび
<柳家わさびさん>
侘び寂と 無縁な山葵の刺激かな

 続いては『かもめ亭』初登場、『落語物語』の主役・小春を演じた、柳家さん生師匠門下の二ツ目・柳家わさびさんの高座。
まずは「上映館が増える」という映画宣伝から、なぜ、自分が小春役に選ばれたのか?という話へ。「頼りなくて素人っぽい」という持ち味が小春役にピッタリと林家しん平監督の抜擢を受けて出演とのこと。前座の生ねん時代からひたすら頼りな〜い、というか、独特の震える発声のわさびさんを選んだ監督の眼力が素晴らしいという事でしょうか。

そこから、「内弟子と居候、どちらも他人の家に住むのは大変です」と話を続けて、“こういう人が番台にいる銭湯に娘は絶対に連れて行けない落語”『湯屋番』へ。わさびさんの主人公である若旦那は「居候先の熊さんのおかみさんが装った釣天井飯(中がギャランドウ)を見ても最初は嬉々として喜ぶなど、猪武者的な異常キャラクター。果たして、何処までか演技なのか、イマイチ、観客としては判断しかねるという状態で、噺は若旦那が居候している熊さんの家から、奉公に出される銭湯へと展開します。

何というか、もし銭湯で犯罪を犯したとしても「自己認識能力欠如」で無罪放免になりそうな若旦那ってのは一寸類がありません。
銭湯に到着してからも、銭湯主「最初は外回りかな」⇒若旦那「待ってました外廻り!」⇒銭湯主「待ってた人は初めてだ」と主人に呆れられたり、「そこに上がるのが少年の頃からの夢!」と言いながら番台に昇ったりという具合。まして、「年齢なんて関係ない。女だったら」と女性客を熱望する辺り、能天気というより異常なキャラクターは、故・志ん五師匠の怪与太郎を思い起こさせます。映画『コレクター』の主人公に近いかも、

更に番台に上って、いよいよ若旦那の妄想が暴走しだすと、そこで「洗い場で年増が転んで股を広げてくれないかな」というのが入るのは先代圜遊師匠から故・文朝師匠に伝わった演出デス。
やたらキャアキャア叫んでいたかと思うと、年増の妾を誘おうとする突然、重い声になったりするという、遊雀師匠や一之輔さんの分裂系キャラクターの凄い奴で、「口から口へ口移し」の妄想で興奮する様子なんて、多重人格みたいな印象。終始、近年、色々な落語家さんの出現している落語界でも「珍しいもの観たぁ」と驚かせてくれる一席でありました。

林家しん平師匠
<林家しん平師匠>
天才は 忘れた頃に蘇る

 仲入り前には遂に『落語物語』の監督、東京落語界の大林宣彦、林家しん平師匠が『かもめ亭』初登場。最近、漫談に飽きて『癇癪』『笑い茸』『宗漢』など、次々と珍し気な噺を演じているしん平師匠ですが、果たして今夜は!?

 まずはいきなり、わさびさんの高座について「なんかの映画に出てるそうですけど、あの下手さがいいんです。今夜は映画のキャラクターになりきって落語を演ってました」と解説、などあって、“民話落語も天才・しん平師匠だとこうなる落語”『鬼の面』へ。
元々民話から出た上方落語の古典に同じ題名の作品があり(明治時代には大物扱いされた時期もあるようです)、桂雀三郎さんが30年くらい前に復活。東京では今の林家正蔵師匠が、春風亭小朝師匠と私のシンクロニシティみたいな勧めが元で一度「六人の会」で演じた事のある、という珍しい噺と、タイトルや、基本的な人物設定はすっごく似ていますが、内容はあくまでもしん平師匠の創作、だそうです。

 田舎から街の店へと口べらしで奉公に出された子守娘が、降る道具屋で自分の母親にクリソツな御亀の面を見つけて譲って貰い、それを大切にしまっては、何か哀しい事があるとそのお面に語りかけている、というのが始まり。ここに登場するのが滅茶苦茶乱暴というか、訳の分からないキャラクターの番頭で、子守娘を苛めようと、おかめの面を、自分の故郷・秋田から送ってくる(そんな奴いるかァ!というのがしん平師匠らしい可笑しさ)ナマハゲの面に変えておきます。これをみた子守娘は「何か母親にあったに違いない」と店を出奔。自宅へと山越しの旅に。子守娘出奔の責任を取らされて異常なキャラクターの番頭も娘を連れ戻す旅に出ます。子守娘は途中、街で三百金を盗んだ泥棒と出くわし、鬼の面で脅かすと、その金を乗せた大八車ごと懐かしい実家へ。こちらも辿りついた番頭と二人、大八車も一緒に街へと却ってきます。そこでは盗まれた三百金の件で騒動の最中。そこへ子守娘と番頭、大八車の三百金が戻ってきたので・・・というのがおもな展開。

実に40分近い長演で、それをしん平師匠以外では考えられない、とっちらかったようで妙に可笑しく、噺としても、いつの間にかまとまっている、不思議な愉しさがあります。30年くらい昔、「実験落語」の初期に、三遊亭圜丈師匠が「しん平さんは天才だから」と言っていたのを思い出させる高座でありました。しん平師匠は映画を撮る時も、こういう不思議な過程を経て、作品を完成させるのでしょうか?そういうとこは、北野たけし監督みたいなとこがあるんですよねェ、

春風亭百栄師匠
<春風亭百栄師匠>
本当にいたら、“小朝以来”と評価されけり

 仲入り後は、『かもめ亭』へは度々出演されている春風亭百栄師匠。あれっ?百栄師匠、『落語物語』、出てましたっけ?
「私はエキストラで、映画を観た人でも何処に出ていたか分からない人が多いという役ですが、落語マニア役の五街道雲助師匠に“流石、山ちゃん”と言える役、というので出演したのですが、雲助師匠が当日、休んでしまったので私が山ちゃんになってしまいました」。「東劇へ公開された映画を観に行って、帰りがけ、お客さんに分からないようにエレベーターに乗っていたら、カップルの女性の方が、“エンドロールで百栄は犬の隣だったわね”と笑っていました。エンドロールは出演順で、そうなったんです」とまず力説。
そこから、「落語家の師弟の話で、観ていてグッと来ました。ぼくも入門については」と、ここから入門話。アメリカで知り合った春風亭栄枝師匠に、色々な師匠方を紹介して貰い、入門志願をしましたが全滅。栄枝師匠に「仕方ない。落語家になりたいんならおれの所へくるか」と言われて、栄枝師匠に入門した、というのは、一種の偶然ロマンのある「エー話」で私も一寸感動しました。本当、落語家さんの弟子・師匠は「縁」の最たるものでございますね。

という所から“前代未聞の新人落語家スカウト新作落語”『弟子の赤飯』へ。ネタ卸しをされた時から大評判になっており、『かもめ亭』でも「是非、この演目を」とお願いした一作です。
いきなり圜生師匠みたいな口調で話す人物が登場するので「誰かいな?」と思っていると、これが「落語家として将来期待度トリプルA」の評価を与えた落語協会から派遣されたスカウト役の師匠に入門依頼を受けている都内の高校二年生、という設定が既に大爆笑。
圜生師匠の口調で「少しは入門する側の気持ちも」とか「聞こえていたらごめんなさいよ」と言ったりする可笑しさ、「コメの虫が天辺に上ったとは気さまのことだ」なんて発言する馬鹿馬鹿しさには脱帽。「今時の高校生とは思えない枯れた洒落」を言ったり、小学校時代から飛び六法で下校したり、鬼ごっこの鬼は藤八拳で決めていたという、ウルトラレトロな設定は、ある意味、春風亭昇太師匠の『力士の春』の落語家版でもありますが、高校二年生と分かるのが割と後半になってから、というのは喬太郎師匠の『午後の保健室』系の可笑しさ。でも、その大半がトロトロと圜生師匠ソックリの口調で語られるのがナイス!近年、作られたパロディー落語中、屈指の作品でしょうね。兎に角、私は最初から最後まで笑っていたのでありマス。凄いわ。

隅田川馬石師匠
<隅田川馬石師匠>
本当にいたら、“小朝以来”と評価されけり

トリは隅田川馬石師匠。『落語物語』の中では、若くして芸自慢で、ちと傲慢気味の落語家さん役。まずは馬石師匠、出演依頼から、この演目を覚えるまでの苦心談の物語から。
「“高座で『柳田格之進』を演じて欲しい”としん平監督に言われたけれど、自分では持っていなかった。そこで撮影する部分だけ覚えたら、撮影終了後、しん平監督から“全部覚えなきゃダメだよ。映画のイベントで口演出来るじゃないか”と言われ、師匠の雲助師匠に稽古をお願いしたら、“オレはこの噺、嫌いだから演らない”と言われて、最初は途方に暮れ、“師匠が覚えて、私に稽古をして下さい”と言ったりしました。結局、師匠と二人で色々と検討をして、なんとか覚えました。そしたら、しん平監督に“エッ、本当に覚えたの”と言われちゃって」
結果的に、御自分の会でネタ卸しをされて、この夜が二度目の口演とのこと。
後に、ある方から「大阪の講釈師、旭堂南湖先生の『柳田格之進』は、娘を吉原へ売るのではなく、柳田家伝来の頼国俊の名刀を売る事で五十両の金を作り、盗みの嫌疑をかけられた金を用立てていますよ」と聞いたのが参考になっていると、馬石師匠にアドバイスをされたという方からもうかがいました。

 『柳田格之進』という講釈ダネのこの噺は、一席物人情噺の中では大物であり、古今亭志ん生⇒先代金原亭馬生&古今亭志ん朝という名人親子の持ちネタという、古今亭・金原亭のお家芸。おまけに、盗みの汚名を晴らすために、娘吉原に売り、盗みの嫌疑が晴れてからも、嫌疑に絡んだ大0店の主人と番頭を殺さずに堪忍するという、物凄く転回も言葉も難しい噺でありマス。現代でも、柳家小満ん師匠、柳家さん喬師匠、柳家喜多八師匠、金原亭馬生師匠、古今亭志ん輔師匠などのベテランが試行錯誤を繰り返している大物です。

 馬石師匠の『柳田』は演出面では、五十両の金が分実するのが「月見の宴」の夜ではなく、普通の日である事と、娘でなく頼国俊の刀を売るのが大きな変更点。口調の端々に雲助師匠が覗くのは、噺の用語が雲助師匠のボキャブラリーに立脚しているので当然ですが、近年、軽い噺に抜群の面白さを発揮する馬石師匠とは思えぬ、適度な重さと切れ味で噺を勧めて行きます。
特に、師走の煤払いの日、萬屋の主が額の裏に金包みを置いたと気付き、膝を打った時の気組・息組みの良さに、私は一番関心致しました。また、柳田の人物造型も良いけれど、それ以上に柳田の娘・絹、萬屋主人、番頭徳兵衛の造型が優れているのを感じました。更に近年、50分は掛かるのが当たり前になっているこの噺で、本題33分は寄席の主任でも十分演じられるサイズであり、「噺は意味なく長くする必要はない」が持論の雲助師匠のお弟子さんらしい、古今亭・金原亭系らしい「程の良い長さ」でししょう。
しん平師匠のお願いから生まれた「新たな柳田」ですが、これから馬石師匠が更に磨きを掛けて、「家の芸」を守って行かれるというのも、一つの「落語物語」ですね。

という訳で第45回浜松町かもめ亭〜映画『落語物語』公開記念。若旦那が一寸ルナティックなキャラクターを発揮する『湯屋番』に始まり、番頭の乱暴なキャラクターが炸裂する『鬼の面』、仲入りを挟んで、摩訶不思議な圜生キャラの高校生がプロの落語家さんを翻弄する『弟子の赤飯』、そして江戸前の人情噺らしいキャラクターが一堂に会する新たな『柳田格之進』というラインナップでお客様に御堪能を戴けた次第・・・・・次回のかもめ亭も、何卒御多数ご来場あらん事を。


高座講釈:石井徹也(放送作家)



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