|

第9回かもめ亭レポート

<柳家花緑師匠>
小学館・文化放送共催の『浜松町かもめ亭』第9回公演が9月21日(金)、文化放送メディアプラスホールで開かれました。
番組は
『狸の札』 柳家緑君
『紀州』 林家たけ平
『目黒の秋刀魚』 立川談修
『鼓ケ瀧』 三遊亭圓窓
『二階素見』 柳家花緑
という出演順
開口一番は本日の主任・柳家花緑師匠門下の童顔前座・柳家緑君さん。狸が命を助けて貰った御礼に五円札に化ける『狸の札』へ。クリクリと目の可愛らしい狸ぶりで座を固めます。
次は林家正蔵師門下の二ツ目・林家たけ平さんが袴姿で登場。「私は足立区出身ですが、なんですか、“足立区”と聞いた途端の冷たい視線は!」と笑わせながら、徳川幕府八代将軍選びを茶化した『紀州』へ。“地噺”という漫談性の強いジャンルの噺だけに、ストーリー展開にダジャレを織り交ぜた、ちょっと皮肉な楽しさのある高座です。「鶏は中国では“東天紅”と鳴くのですが、東京・上野の山の鶏は“東天紅”とは鳴きません」と小噺を始めたら、客席から「上野の鶏は“精養軒”と鳴く」とサゲを先に言われちゃった!それでもへこたれず、「開き直ってやります」と軽快に噺を進める辺りは故・三平師の孫弟子らしい、アッパレな家の芸発揮でした!
次の高座で、これまた侍物地噺の『目黒の秋刀魚』を演じたのは立川談志家元門下の二ツ目・立川談修さん。「学力・スポーツ・知名度、全てにおいて中途半端な専修大学出身なので談修と名づけられました」と笑わせてから、『星めら』『三河島菜』『桜鯛』と殿様物の小噺を型通り繋げて、季節感を早取りした『目黒の秋刀魚』へ。前の『紀州』と噺が付く弱みも省みず、野駆けに出た先で秋刀魚の美味しさを知った殿様が、秋刀魚に恋焦がれるお馴染みの噺を端正に描いて行きました。中で、野駆けに出た目黒で、弁当がないと知った殿様が「何処ぞにオリジン弁当はないか?炙りトントロ弁当は美味いぞ」と言うギャグはオリジナルかな?
仲入り前の登場はベテランの三遊亭圓窓師匠。鬼子母神の逸話から、「生涯学習講座」と称して、20世紀の末から師匠が凝っている日本語ウンチク漫談で客席を啓蒙。そこから更に講釈ダネの和歌噺『鼓ケ瀧』へと40分の熱演です。名勝・鼓ケ瀧を訪れた西行法師が、「伝え聞く鼓ケ瀧にきてみれば 岸辺に咲きしたんぽぽの花」と詠んだ歌を、夢に現れた和歌三神が“鼓”に因んだ言葉に添削。「音に聞く鼓ケ瀧をうちみれば 川辺に咲きしたんぽぽの花」という名歌に直してくれだ事を西行法師が感謝する地味な内容ですが、終盤、和歌三神が次々歌を直す件、西行の驚く表情で大きな笑いの取れる辺り、流石にベテランの腕の冴えでした。
仲入り後は、先代小さん師の孫として“音に聞く若手真打”柳家花緑師匠がかもめ亭初登場。冒頭、「今晩は」と挨拶したら、客席からも「今晩は」と返され、ちょっとビックリ!それでも、「かもめ亭の9回目という、半端な回に呼んで戴いて」と、仲入り後でやや硬かった客席を軽くほぐすと、「僕にとって落語は仕事じゃありません。生涯を賭けてやる遊びです。皆さんも噺家の高座を見て、“この男は今、仕事をしてるんだ”と思ったら、興醒めしません?」と笑わせ、さらにレストランでデザートを選んでいたら、「ウェイターから“ハイ、イイヨ”とタメ口を利かれた実話」で客席をひきつけ、「今日は廓噺をします」と、廓通いの好きな若旦那のため、大店の二階に広大な吉原レプリカを作る破天荒な『二階素見』へ。花緑師演じる主人公の若旦那が実にオカシイ!「オレが好きなのは吉原の雰囲気、気分、みたいなァ」「毎夜、吉原を冷やかすのに命を賭けてる!」というテンションの高さが妙に楽しい。二階のレプリカ吉原を1人で歩きながら、若旦那がお茶を引いた安女郎の芝居を始めると、安女郎にざっかけない色気があるもの見もの。確かに「遊びの気分」の堪能出来る楽しい高座で本日を締めくくりました。
かくして、第9回の『浜松町かもめ亭』、武士の堅苦しい生活さをからかった庶民の皮肉さ溢れる殿様地噺2題に、生涯学習の名に相応しい和歌ウンチク噺、さらに「遊びの神髄は壮大な無駄にあり!」という大人の粋な哲学を実感出来る廓噺というラインナップで、お客様にお楽しみ戴けた次第・・・
では次回、10月公演も御多数ご来場あらん事を。
高座講釈・石井徹也
今回の高座は、近日、落語音源ダウンロードサイト『落語の蔵』で配信予定です。どうぞご期待下さい。
|
|
|
|
 |
Copyrightc2006,Nippon Cultural Broadcasting Inc. All right reserved.
|
|  |