第10回かもめ亭レポート
快楽亭ブラック師匠
<快楽亭ブラック師匠>

小学館・文化放送共催の『浜松町かもめ亭』第10回公演が10月19日(金)、文化放送メディアプラスホールで開かれました。

今回の番組は
『転失気』     立川らく里 
『羽織の遊び』  三遊亭司 
『まめた』     桂吉坊 
『英国密航』   快楽亭ブラック 
『二番煎じ』   三遊亭圓橘 
という出演順。

開口一番は、かつて快楽亭ブラック師匠門下でブラ汁を名乗り、現在は立川志らく師匠門下の二つ目・らく里さん。「たまたま今日、開演前にブラック師匠に稽古をつけて貰う予定だったのですが、主催者の方から昨日、そんならついでに出て!と言われました。こんなに簡単に仕事が入ったのは初めて」と苦笑しながら、「オナラ」の漢方医学名を巡って、和尚さんを小僧坊主がウソの解釈でからかう『転失気』へ。らく里さん、ちょっとアニメ声っぽい高い調子と、分かりやすい口調でキッチリと座を固めてくれました。

二番手はかもめ亭2度目の登場、歌司師匠門下の二つ目・三遊亭司さん。俳優・尾身としのりさんと演出家・鴻上尚史さんを足して割ったようなホンワカ顔で、「芸人は遊ばなくちゃいけない。ボクも勉強のため後輩を誘って、よくキャバクラへ行きますが、“ワンセットじゃ勉強不足だ”と、ついつい延長しちゃうけど、“三遊亭だけに圓朝は当然でしょ”」と笑わせながら、懐の寂しい男が若旦那のお伴で吉原へ行くため、必須条件の羽織を探して四苦八苦する『羽織の遊び』へ。最近、演者の少ない噺ですが、登場する若旦那像は『酢豆腐』ソックリ。また、司さん演じる若旦那はキザな仕科こそやや不安定ながら、「ハァハァ」って笑い方が実にキビ悪くオカシイ!「昔のビージーフォーの物真似みたいな」というクスグリも珍無類でしたゾ。

三番目は故・桂吉朝門下、童顔の俊英・桂吉坊さんが上方より遠征! 「一昨日、“謎の旅人”という、ストーリーと無縁な役で映画に初めて出たんですが、そこで気づきました。大阪人は他人の話を聞く表情を持ってませんね。撮影中も相手のセリフをどんな顔で聞いていいか分からんのです」と撮影秘話(?)を語り、故・三田純一氏作の『まめだ』へ。二代目実川延若の芸談にも登場する、道頓堀の芝居町に古くから伝わるまめだ(子狸)と下回りの歌舞伎役者、その出会いと別れを描いた感動の名作。かつては内弟子もして、“今は飲み友達”という(ホンマかいな)吉坊さんの大師匠・桂米朝師匠の十八番です。笑いの少ない噺ながら、浪花の秋を背景に、優れた短編小説のような味わいを吉坊さんがジンワリと語ると、子狸の化けた「絣の着物を着た、色の黒い陰気な子供」という描写が、いつか吉坊さんの童顔とダブリ、自分がさせた怪我が元で死んだ子狸に墓を作る、明治時代の下回りの役者の風情に、芝居が大好きだった故・吉朝師匠の姿がダブリ、筆者はちょっと泣いてしまいました。子狸が銅貨に化けさせていた銀杏の葉が、風に舞って子狸の墓の前に集まる。「おかん見てみい、狸の仲間からぎょうさん香典が届いたがな」。すべての落語を通じて、これ以上、美しいサゲはありません。

続いても、かもめ亭初登場の快楽亭ブラック師匠。元弟子のらく里さんも「2000万円の借金があっても平気」とマクラで暴露した程、「西の可朝、東のブラック」と称される落語界のバンスキングは、悠然と「日本の歴史について学んで行きたい」と硬いマクラを振って、落語界では他に演じ手のいない『英国密航』の一席へ。幕末動乱期、毛利の殿様の命令で、伊藤俊介(後の初代総理大臣・伊藤博文)、井上聞太(後に外務卿・大蔵卿を歴任した井上馨)など5人の若者が、藩の大物や在日の英国商人を説得。ついに英国に密航する、壮大かつ痛快な青春ストーリー。浪曲界の異才、故・広沢瓢右衛門師匠の十八番ネタに、真山青果と花登筐の雰囲気を混ぜ、落語化した見事な台本は上方の天才・小佐田定雄氏の手によるものです。

しかも、物語の合間では、「尊皇攘夷の攘夷は“在日の外国人をやっつけろ!”って事で今も流行らせたいですね。第一にデイブ・スペクターに天誅を与える!」とか、「モリヨシローという、ノミみたいな脳味噌の藩士に英語を教えたら“ハウ・アー・ユー”と言うべき所を“フー・アー・ユー”と言っちゃった」など(某夫人をからかうヤバイギャグも山盛り!)、ブラック師ならではのアイロニーが爆笑を巻き起こします。最後はロンドンに着いた5人がテームズ河畔で『白浪五人男』の「稲瀬川」の場もどきに、下座の三味線、柝の音をバックにセリフをつらね、傘を振って大きく見得をするという大パロディに爆笑炸裂!それはまさに“歌舞伎大好き”で知られるブラック師匠のパロティ精神と小佐田さんの才能が合致した、超エンタテインメント芝居噺!中村勘三郎丈の『てれすこ』よりオモチロイぞ!と、50分を超える熱演に毛利の殿様もきっと大満足じゃ!

仲入り後、本日の主任も、かもめ亭初登場の三遊亭圓橘師匠。「借金のない圓橘でございます。ブラックさんというステーキの後はお茶漬けで」と軽〜くジャブを放ってから、「火事と喧嘩は江戸の華」と枕を振って名作『二番煎じ』へ。寒〜い冬の夜、町の見回りに出た旦那衆が、火の番の小屋で持参した酒とシシ鍋で小宴会を始めた。するとそこへ見回りの役人が来ちゃって、さあ困った!という、笑いと冬の寒さ満載の一席は圓橘師の最初の師である先代三遊亭小圓朝師匠譲り。町を回る間の遣り取りには圓橘師も色々と工夫を凝らし、一般的な『二番煎じ』より、さらに滋味溢れる名品にグレードアップ! 町の見回りから帰った旦那衆が火鉢の火で耳や鼻を温める仕科には凍てつく冬の寒さが見え、入れ歯でイノシシの肉や熱〜い葱を食べる仕科や、酔って都々逸をブツける表情には、男だけの密やかな宴会の楽しさが漂います。中でも、持参の酒を飲む嬉しそうな表情には、酒豪・圓橘師のご料簡が如実に現れて、名作落語に池波正太郎的な男の味わいをプラスしてくれました。あ〜、美味そうな噺だったなぁ・・・・

という訳で第10回の『浜松町かもめ亭』。「女遊び」の憂い目辛い目の珍騒動に始まり、浪花芝居町の哀切極まりなき晩秋の名作から幕末維新の歴史秘話的超エンタメ芝居噺、そして池波正太郎的魅力の世界満喫と、かもめ亭としても、かつてないヴァラエティに富んだラインナップでお客様にお楽しみ戴けた次第・・・
では次回、11月公演も御多数ご来場あらん事を。
高座講釈・石井徹也

今回の高座は、近日、落語音源ダウンロードサイト『落語の蔵』で配信予定です。どうぞご期待下さい。



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