第12回かもめ亭レポート

<立川文都師匠>

小学館・文化放送共催の『浜松町かもめ亭』第12回公演が12月19日(水曜)、文化放送メディアプラスホールで開かれました。
今回の番組は“立川流忘年会”と命名されております。談春師匠は「忘年会ってのは内輪話なのに、いつの間にかタイトルにされちゃった」と、高座でボヤいてましたけどね。

今回の番組は
『反対俥』 立川志ら乃
『金明竹』 立川談笑
『壷算』  立川文都
仲入り
『除夜の雪』 立川談春
という出演順。

開口一番は、立川流の二つ目・志ら乃さん。いきなり、「ヤクルト志ら乃です。血糖値より自分の尿酸値」と、かもめ亭に協賛するヤクルト蛮爽冷茶に因んだカマシをかけてから、幼稚園児270人を相手に前座噺の『つる』を演じるハメになってしまったマクラへ。 高座の雰囲気が何となく、快楽亭ブラック師匠に似てる志ら乃さん、洒落の分からない幼稚園児(当たり前です!)270人全員に、オチを先に言われてしまい、噺家になって初めて「そうです」と言って高座を降りたというエピソードから、悪夢のような人力俥の車引きたちに次々と遭遇。翻弄されて地獄を見る哀れな客を描く乗り物狂騒落語『反対俥』。
師匠の立川談志家元が見事に新たな息吹を与え、若い頃盛んに演った噺であり、また、その演出を受け継いだ古今亭志ん五師匠が超与太郎ヴァージョンで一時期売り物にしていた噺。
いきなり、客も乗せず、無茶苦茶なスピードで走り回る俥を見て、「走る姿を人に見せて祝儀を取って暮らしてんのかな?」と、客のボヤク科白がオカシイ! 次に、柳の陰で手招きしてる幽霊みたいな車引きの俥に乗ると、これが病持ちで病院帰りの老人で、全く力がないため俥も全然進まずに四苦八苦の有り様!
再び、最初の無茶苦茶に速い暴走俥を捕まえて乗ると、今度は行く先も分からず、無鉄砲に走り回って、芸者を池に落としたり、何だか分からないけど3辺飛び跳ねたりと大騒ぎ。「体力の要る噺」と言われるのも無理ありません。最後、遂に俥を降りて、急行列車に乗った客が青森駅につくと、暴走俥が取り忘れた車賃を貰いに青森まで追っかけてくる!という破天荒なオチまで、パワーで押し切って、座を固めてくれました。

二番手は、朝のワイドショーのレポーターとしてもお馴染みの立川談笑師匠。
人間の公徳心を計るため、乗り物の中で携帯電話に出る奴がいると、いきなり心臓をお耐えて苦しんでみせるけれど、誰も電話は止めませんね、というオカシナ話や、立川流が集まった仕事帰り、「師匠が死んだらどうする?」というシリアスな話で盛り上がった(?)という話など、シニカルなマクラを振って、言葉の分からない使いに、道具屋一家が苦しめられる、言語認識不能落語『金明竹』へ。談笑師の豪快にトボけた高座ぶりは、鈴々舎馬風師匠に一寸似てます。
前半は店の使用人である与太郎が主役で、隣の赤ん坊に踵の皮を食べさせて、「アレは大人のオツな味だよね」と言ってのけたり、掃除の前に2階座敷に水を撒いたりと大暴れ。
特に、猫を借りに来た近所の人相手に、教わった貸し傘の口上そのまま、「うちにも貸し猫がいましたが」と言う時、与太郎の目が妖しく輝く辺りが強烈にオカシイ!
中盤は店にやってきた「加賀屋佐吉方から参りました」という使いの男が主人公。普通は関西弁で早口という設定なのですが、談笑師は何と東北弁。この東北弁で『金明竹』を演るスタイルは、確か、談笑師と柳家小袁治師匠と2人だけの筈デス。談笑師の東北弁はそんなに早口ではないけれど、フランス語を聞いているような柔らかさが微妙なオカシサを生みます。与太郎に代わって登場した店の内儀さんが東北弁が分からず、メモをトの始めるのには大笑い。
使いの男が帰ってから、店の主人に報告しようとしても、全然、話がまとまらずに困った内儀さん。思わずガッツポーズや胴上げのポーズをするのも矢鱈とおかしいけれど、その挙句に、「先立つ不幸をお許し下さい」と自殺しかけたりと、古典のパロディでありながら、「笑い」のセンスに溢れた高座で、本日一番の大爆笑は、お見事お見事!

三番目の登場は、関西出身の立川文都師匠。「立川流かると集会へようこそ」と、いきなり笑わせてから、出身地・大阪人のおかしな感覚のエピソードへ。「警察官募集でも、東京とは違いますなァ。"ホンマにエエ人、来てくれるかな?"と書いてあります」、「痴漢を戒めるポスターも、"チカン、アカン"やて」と語る雰囲気が、家元よりも桂米朝師匠に似てまんねん。
そこから、米朝師型の買い物上手錯乱落語『壷算』へ。これがまた米朝師の十八番ネタ。
文都師の演出もほとんど源流の米朝師そのまま、知的でシニカルな演出で噺を運びます。違うのは、瀬戸物屋に出かけた男が3円50銭の水壷を3円に値切ろうと「お好み焼き屋の鉄板で、手をゴジューと火傷してから、50という半端な数字が嫌いなんや」というギャグくらい。淡々と、寧ろ滋味溢れる高座ぶりでした。

仲入りを挟んで主任は、かもめ亭2度目の出演、立川談春師匠の登場。
「元ヤクルトの池山選手に、戸田競艇場で会って、ヤクルトの正しい飲み方を教わった」というつかみから、前の日に聞いた談志家元の『芝浜』に圧倒されてしまい、「立川流にいる限り、家元の巣後を目にするから、どんなに腕が上がっても、決して天狗にはなれない、という志の輔アニさんの話は本当ですね」と話し、「昨日のショックが大きくて、普通の落語をする気になりません。だから、笑わせなくても良い噺をやります」と、雪の夜の人情怪談噺『除夜の雪』へ。
永瀧五郎氏原作の新作ですが、これも『壷算』に続いて桂米朝師の十八番。東京でも近年、談春師や林家正蔵師匠が米朝師に習って演じています。そういえば先月のかもめ亭の主任も正蔵師が米朝師から教わった『一文笛』でしたね。因みに、この噺に登場する、「生臭物を食べてると檀家の人に分からないよう、和紙に撒いて水に濡らし、火鉢の熾き火で焼くと匂いが出ないから、」という、寺の魚の焼き方情報が私は大好きです。
閑話休題(それはさておき)、噺の舞台は大晦日、雪の積もった寺。
前半は、寺に入ったばかりの小坊主珍念が、兄弟子を凌ぐ知恵を発揮。和尚さんの使う炭やお茶を次々と手に入れ、除夜の鐘を突くまでの寒さ凌ぎをするのが聞かせ所。談春師の珍念は、コ末社くれているのを隠している雰囲気が楽しく、兄弟子がそんな珍念の頭の回り方に呆れて、「怖い弟弟子だね〜、談笑みたいだ」というギャグが微笑ましくオカシかったデス。
後半になり、檀家の若女将さんが寺から借りた堤燈を返しにくる辺りからがミステリー。
若女将の去った後、鐘突き堂の釣り鐘が勝手に鳴る。「ああいう時は、檀家で誰かが死んだんだ」と兄弟子が教えると、弟弟子ず若女将の歩いた足跡が、積もった雪に残っていない!と気づいて、一同がシンと静まり返った寺で怯える辺りの情景が目に見えます。そこに檀家から、若女将が姑に苛められ、首をくくって死んだという報せが来て、ミステリーは最高潮に。
そこから、貧しい暮らしから大店に嫁いだために、姑から苛められ通した若女将の哀れ境遇が語られる人情噺的展開を経て、「堤燈に釣鐘、釣り合わぬは不縁のもと」というオチまで、人情味はあっても、何処かキリッとして、ベタなシンミリにならない辺りが談春師の腕ですねェ。

という訳で、第12回の『浜松町かもめ亭』。立川流の精鋭4人により、破天荒な暴走人力俥を巡る躍動する高座に始まり、笑いのセンス溢れるパロディックな東北弁落語、渋い味わいの買い物風景、そして江戸前に移植された人情怪談と、立川流の多彩な才能で、お客様にはお楽しみ戴けた次第・・・では次回、1月のかもめ亭1周年記念公演も御多数ご来場あらん事を。
高座講釈・石井徹也


今回の高座は、近日、落語音源ダウンロードサイト『落語の蔵』で配信予定です。どうぞご期待下さい。



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