2017/6/09

欧州中銀、利下げ打ち切り 景気拡大、緩和策に転機

【パリ共同】欧州中央銀行(ECB)は8日、金融政策の運営指針を見直し、追加利下げを打ち切る方針を示した。ユーロ圏の景気拡大に対応した。民間銀行がECBに資金を預ける際に手数料を課すマイナス金利を導入した2014年6月以降、本格化したECBの緩和策は転機を迎えた。主要先進国では米国が既に利上げに動いており、大規模な緩和を続ける日銀の存在が一段と際立ってきた。
 エストニアの首都タリンで開いた理事会で決めた。ECBは8日に公表した声明文で、指針について「長期にわたり政策金利を今の水準に据え置く」と明記。マイナス金利の幅を今の0・4%から広げることを排除した。

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みずほ証券チーフクレジットストラテジスト
大橋英敏
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この記事が取り上げられるということは、市場では一種のサプライズと捉えているということでしょうか。

しかし、①2016年2月26-27日開催の上海G20において既に金融緩和依存からの脱却と財政支出による経済成長へと舵が取られていること、②ECBについては既に昨年12月に資産買入プログラムの微修正を通じて実質的なテーパリングが始まっていること、③日銀においても昨年10月のイールド・カーブ・コントロール(10年金利をゼロパーセント付近に固定する等)導入後は量的緩和策へのこだわりが無くなりつつあること、等に鑑みれば、全く当然の結果と言えると思います。


しかし、市場はまだECBがなぜ、マイナス金利策や量的緩和策からの出口に向かっているかの「本質」を理解していないように思います。昨年7月28日にECBのクーレ専務理事(スーパー頭の良い人)が「マイナス金利の限界に関する論点整理」と題した講演をしたのですが、この中で、マイナス金利策の限界の一つとして「副作用が効果を上回る臨界金利(経済的限界)」を指摘しました。「副作用」とは、「マイナス金利策を続けることで金融機関の収益性が低下し、貸し渋り等を誘発することにより、予期せぬ金融引締めが生じること」であり、「効果」とは「マイナス金利策を続けることでインフレ率が高まり、経済が活性化されること」です。日銀の黒田総裁も、2016年1月29日にマイナス金利策を発表した際に、「マイナス金利策の導入することによる副作用よりも効果の方が大きいと判断した」との趣旨のコメントを残しています。


確かに、量的緩和策やマイナス金利策により、企業倒産は減少し、株価・不動産価格も上昇しており、金融システムの安定性に大きく寄与しています。一方、国民の生活実態が改善しているわけではなく、かつGDPも力強い成長を遂げているわけでもありません。むしろ、マイナス金利策を続けることにより、金融機関収益がジワリと低下するなか、昨年来、「いつまでこの政策を続けるのか」という疑問の方が大きくなってきたわけです。つまり、「副作用」が「効果」を上回る状況が近づいているということです。
ECBは12月までに、具体的な「マイナス金利策や量的緩和策からの出口戦略」に向けた市場との対話とアクションを行うと思います。そして、日銀は、このECBの動きを見て、来年以降自らの出口戦略を実行に移すのではないかと考えています。依然として、日銀のマイナス金利策は「当面続く」と考える人が多いのですが、私はそのように思いません。

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