過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分 2007 10月27日 放送分
「ゆで卵を速く回すと、なぜ立つのか」(2)
コーチャー/下村裕(慶應義塾大学法学部教授、理学博士)
大村正樹&下村裕
大村正樹
ゆで卵を速く回すと立ち上がる。これは普通やらないから初めて知ったキッズも多かったと思うんだけれど、何と先週、サイコーがより速く回してよーく見るとジャンプするというような話をしていました。みんな、実際ジャンプしたかな? 今日はそのナゾに迫っていきましょう。さぁ、今週のサイコーも慶応義塾大学法学部教授で理学博士の下村裕(ユタカ)さんです。よろしくお願いします。こんにちは。
下村裕 よろしくお願いします。
大村正樹
先週のナゾめいたメッセージ、ゆで卵を高速で回転させるとジャンプする!?
  下村裕 そうですね。これは本当にもうびっくりするような現象で、私が最初に見つけたんですけれど、モファット先生も最初は信じてくれなくて。
大村正樹
ということは、昔からゆで卵をクルクル高速で回転させると立つことは有名だったけど、ジャンプするのを見つけたのは下村先生が初めてってことですか?
下村裕 ええ、たぶんそう思います。
大村正樹
すごい!! じゃあ早速、ジャンプをこのラボで見せていただきましょう。
  下村裕 とりあえず思いっきり速く回してみますね。
大村正樹
ラボでゆで卵が…。立ちました! ここでジャンプが!?
  下村裕 見えないですね(笑)。
大村正樹
ジャンプしてないじゃないですか。
  下村裕 そう。実はジャンプは非常に小さなジャンプなので、肉眼では見えないと思います。
大村正樹
ちょっと待ってください。それをジャンプって呼べるんですか?
  下村裕 まぁ、そこら辺は微妙ですけれど、ただ実際にテーブルとの接触を失っている時間があるので。大体0.1ミリぐらいの高さまで上がります。
大村正樹
0.1ミリ!? 1ミリの10分の1。1センチの100分の1。
  下村裕 そうですね。それで滞空時間が100分の1秒ぐらい。
卵
 
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大村正樹
ハハハ、すみません。それは机と卵の何か抵抗によりこすれてチョチョッと上がっちゃう原理ではないんですか? 摩擦じゃなくて…?
下村裕 そういうことで上がる場合もあると思うんですが、理論的に解析した結果では、ツルツルの非常にスムースな表面でも、そういうことがひとりでに起こる。摩擦は必要なんですが、表面のデコボコは関係ない。
大村正樹
関係なくて、ゆで卵はやっぱり立つ途中にジャンプはしている?
  下村裕 そうです。
大村正樹
キッズのみんなも回してみて。実際に目で見てはちょっと分からないのね。じゃあ、お父さんからビデオカメラか何か借りて、スローで再生すると見えるんですか?
下村裕 大体100分の1秒なので、高速度カメラと言われるような1秒間に何百フレームも撮れるようなカメラだと見える可能性はあるんですけど。
大村正樹
何百フレーム? 普通のカメラは30フレーム。1秒間が30分の1ですから、ちょっと難しいかも知れない。それでもってジャンプするという理論を説明して、先生また有名な科学雑誌『ネイチャー』に載ったんですか?
下村裕 『ネイチャー』には残念ながら載らなかったんです。ええ。イギリスの『王立協会紀要』という学術雑誌に。
大村正樹
オウリツキョウカイキヨウ? これはカタカナですか、漢字ですか?
  下村裕 漢字です。英語名だと『ROYAL SOCIETY(ロイヤルソサエティ)』。
大村正樹
『ROYAL SOCIETY』という雑誌に掲載されて?
  下村裕 ええ。それが2年前に理論的に予言した論文が出ました。ちゃんと論文が出たんだけれど、あまり信用してくれる人がいないんですね。そんなこと起きるわけないでしょうと言って。
大村正樹
ゆで卵が立ち上がる途中にジャンプすることを他の科学者は誰も信じなかったということですか?
  下村裕 ええ。それで、どうにか実際に見せないといけないと思いまして、同じ大学の同僚にお願いして、ミツイ先生という方が中心になって、卵を回す装置を開発していただき、微小のジャンプを計測できるような検出器も作ってもらったんです。
大村正樹
わざわざ卵を回すための機械を、慶應大学のミツイ先生が作ってくれたんですか?
  下村裕 そうです。その卵を手でなく機械でいかにして回すかというのが非常に難しくて。最初は卵の中に磁石を入れて、下からモーターで回そうかなんてやったんですけど、うまくいかない。結局は熊手のようなものを付けて。ガブッとつかんで、ある瞬間に熊手をスッと上に引き上げる。そうすると、あとひとりでに自然に回るんですが、その方式を考えるまでに2年ぐらいかかっているんですね(笑)。
大村正樹
えっ! 科学者って暇なのか物好きなのか、それとも突き抜けたレベルまでいって頭がいいのか、ちょっと分からなくなってきました。
下村裕 まぁ暇ではないんですが(笑)。暇がないとなかなか自由な発想ができないと思うんですね。その装置ができまして実際に測りました。音と高速度カメラで撮る写真、もうひとつ電気的な信号――金属のアルミで作った卵を使いましたので、音もよく出るし電気的な性質もあるので、その3つの信号を同時計測したら、みんな同じ瞬間に飛んでいることを示していたんですね。
生卵
 
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大村正樹
へぇ〜! それは機械的に分析しても同じ瞬間にということですね。法則性、ルールがあったということですね。
  下村裕 ええ。しかも飛んでいる時間や高さが、理論的に予測したものとぴったり一致したんですね。さらに新しく分かったのは、ジャンプは1回だけじゃなくて、立っていく途中で5、6回、速く回せばもっと多く繰り返し飛び上がることが分かりました。
大村正樹
そういった意味では、理論というのも結果がすべてではなくて、そこに行き着くまでの説明付けがものすごく大事なことで…。説明付けで答えを導き出すことがあって、その結果を確認する作業でもいいんですよね? 順番は逆でもいいし、ということは、あらゆる方向からということですね。
下村裕 ええ。おっしゃる通りで、科学はたぶん頭だけでもダメだし、あるいは観測しているだけでもダメだと思うんです。やっぱり両方、ちょっと難しい言葉を使うと論証性と実証性ということですが、その2つがあってどんどん発展してきた分野だと思います。
大村正樹
なるほど。先生のこれまでのご経験の中で、いかにつまんないとか小っちゃいことで、研究してみたら面白かったということはありますか?
下村裕 本当に身近なところに色々な話題がころがっています。例えば、これはある番組で教えていただいた問題ですが、よく公園に噴水型の水を飲むような水道があります。ひねると水が上に出るんですが、あそこにビー玉を置くんですね。そうすると、普通ピューッと上がって落ちそうですけど、実はビー玉が上がったまま、浮いたままになるんです。
大村正樹
えっ! 公園にある上に向いている水道? あれにビー玉を置くと、ビー玉がずっと上のままですか!?
  下村裕 そうです。浮いたままです。こういうのも説明しろと言うとなかなか難しい現象ですけれど。
大村正樹
ちょっとこのシークレットラボに水道がないのが唯一不満ですねぇ。文化放送さん、お願いしますよ〜。今日はラボに先生の著書、この夏出版された『ケンブリッジの卵』という本があるんです。これを読んでいると、いかに些細なことを先生が研究されているかがよく分かりました。最後に先生、最近の疑問でまだ解明されてなくて先生が挑戦しようとしているけれど、ひょっとしたらラジオの前のキッズでもできちゃうようなものはありますか?
下村裕 いま大学で実際に研究会をやってまして、そこのテーマが刀の回転というんですね。
大村正樹
刀の回転!?
  下村裕 どういうことかと言いますと、刀、木刀でも構いませんが、テーブルの上に横にしておいて、ツカの部分を静かに引っ張っていくと、ある所でクルッと回転して刃をテーブルの上に当てるようになるんですね。元々フラットになっていたものが、刃が立つわけです。
大村正樹
刀が? 刀が立つんですか!?
  下村裕 ええ、立つんです。木刀でも立ちますね。それは、ある剣道の先生から教えていただいたんですけど。それで、どうしてかなぁと考えて、可能性としては、刀の場合、断面が円ではなくて楕円になってますよね。それから、ソリって刃が曲がってます。その2つのどちらかが影響しているんじゃないかということで。
大村正樹
なるほど。ちょっとソッているから、刀の根元から順番にテーブル手前に引っ張っていくと立つ瞬間があるんですね。
  下村裕 立った時に当たった刃の所で切ると一番切れやすいというんですね。
ゆで卵
 
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