キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も宇宙を旅したサクラの種、“花伝説”の続きですよ。今週はいよいよ、「どのようにしてこの種が宇宙に飛び立ったのか?」、「そのかげには、さまざまな苦労があった」など、そんな話を聞いていこうと思っております。お知らせの後、サイコーに話を聞きま〜す。
今週のサイコーも待ち遠しかったな、有人宇宙システムの長谷川洋一さんです。こんばんは。
- こんばんは。
いよいよ今週は、「NASAに種を持って行った」、そして「シャトルを見送った」という話ですが、種を持って行くのがけっこう大変だったんですってね。
- そうですね。ポッと手で持って行ければ簡単ですが、そうはまいりません。サクラは植物の種ですから、特にアメリカの法律もあって輸入に厳しいんですね。そして、日本でもちゃんと検疫をしなければならない。大変な手続きがございました。
ええ。
- それで、まず真っ先にアメリカの農務省、政府ですね。こちらから「サクラの種を輸出してもいいですか?」という許可証を取らなければならない。これが申請しても申請しても、待てど暮らせどやってこないんです。
たかが種で、ですか?
-
なかなかですねぇ。
なぜですかねぇ?
-
たぶん農産物なので、もしもこのサクラがアメリカで増えてしまうと困ると。そう考えたんでしょう。
なるほど。いわゆる霞ヶ浦のブラックバスみたいなものですね。
- そうそうそう! その逆です。
外来のものがはびこっちゃうということですね。
- そうです。それで、待てど暮らせど許可がおりないんですが、一方スペースシャトルの打ち上げはどんどん迫ってくる。「これはまずいぞ」と思いまして…本当に眠れない夜が続きました。とうとうJAXA(ジャクサ)宇宙航空研究開発機構に頭を下げてお願いをして、NASAのワシントンにある本部に連絡を入れてもらったんです。
うん。
-
そしたら、NASAの本部が「それは大変だ!」と動いてくれまして、NASAからアメリカの政府にいってくださった。そしたら、1日で許可証が出てきたんですね(笑)。
そういう近道もあったんですね。
- いや、いや、いや。
いわゆる外交ルートみたいなものを使ったんですね。
- そうですね(笑)。そして、このシャトルは、実は若田さんよりもちょっと先に打ち上げられていたんです。
へぇ〜。じゃあ、早めに国際宇宙ステーションに到着したということですか?
- 2008年11月のスペースシャトルに先に乗せまして、上で若田さんを待っている形だったんです。
じゃあ、若田さんよりも宇宙に滞在した日数が長い?
- 4ヵ月ぐらい先輩なんです。
ということは、今の日本のもので最も長く滞在してるのは、この種だったかも知れないですね、若田さん以上に。
- あっ、そうかもしれませんね(笑)。
国産品で。
- そうですね(笑)。
ハハハハ。で、事前に飛ばして。
-
そのスペースシャトルの打ち上げに私も立ち会って、取材して来ました。
すごい! 若田さんが手を振ったわけではなくて、種だけのためにシャトルの打ち上げに立ち会ったんですか!?
- はい。
すご〜い! まだ若田さんに手を振るほうが、気持ち的に盛り上がりませんでしたか?
- ハハハハ。
どっちがいいの? 種のために打ち上げるのか…。
- 私が預かったのは、全国みなさんのひと粒ひと粒の夢が何千粒も詰まった袋ですので、ジップロックがただの台所の袋じゃないわけですよね。
なるほど。
- これがシャトルに積み込まれて、無事に打ち上がって宇宙に行くところをずーっと私が見守っていました。
一昨年の11月に。
- そうです。
へぇ〜。あの時のシャトルの打ち上げは、当然NASAを通じて日本でも放送されたと思うんですが、ただ日本人の宇宙飛行士は乗ってなかったので、あんまり大きなニュースになってなかった。
- はい、そうですね。
人知れず、長谷川さんはその現場でシャトルを見送ったんですか?
- そうです。打ち上げの場所は、アメリカの東海岸にあるフロリダのケネディ宇宙センターというところからです。
はい。
-
スペースシャトルはエンディバー号ですが、夜の打ち上げだったんです。
珍しいんですか?
- そうですね。昼間に打ち上げることが多いんですが、この時は夜で、宇宙ステーションとの軌道の関係で計算されたんでしょうけれども。
はい。
-
暗闇の中からボーンと光が上がって、そしてスルスルスルッとスペースシャトルが上がっていく。私は6キロぐらい離れたところから見ていました。
6キロ、近いのか遠いのか分からないんですが。
- 遠いですね。というのは、あまり近くですと、ロケットですので万が一爆発した時に巻き込まれますよね。
じゃあ、あのケネディ宇宙基地から飛び立つシャトルは、基本的に人間は近くにいないんですか?
- そうですね。「3キロぐらい離れたところまでは近寄ってはいけない」となっていまして、私も6キロ離れた観覧台から見ていました。もう本当に昼間のように明るくなって、空一面に明るくなりました。
え〜、そうなんですか。空が青くなるんですか?
-
黄色ですね、どちらかというと。
黄色!?
- 黄色い炎を吹いて、もう空じゅう真っ黄色。
へぇ〜。
-
そこで、音が遅れてきます。
そうか、そうか。
- 6キロですから、計算すると何秒でしょうかねぇ。
1秒間に330メートルずつ遅れるわけですよね。
- 18秒とか。
ですね。
- そのぐらい遅れて、ババババババーンと太鼓をたたくような、和太鼓のような音が響いてきました。
じゃあ、振動が、和太鼓の振動みたいなものがくるんですか?
-
もう腹の底に響いてくるような音が聞こえてまして。
いやぁ、ちょっと。夏場に和太鼓の「ソイヤ!」を観たら、シャトルのことをずっとイメージしちゃうなぁ。
-
ハハハハ。
夏祭りがちょっとドキドキですね。そうですか。
-
「無事に行ってくれ、無事に行ってくれ!」と心に念じながら、ずっと追いかけていました。
テレビで観るのとまったく違うわけですね。
- 音がありますから、全然違います。
で、若田さんと一緒に帰還したわけですよね。
- そうです。
ジップロックに入った種たちは。
-
はい。
その後、どうしたんですか?
-
はい。それから今度は、各地の花の種を集めてくれたみなさまのところへ返しにあがったんです。
全国14の町へ。
-
そうです。プラス、ユリとスミレで16ヵ所だったんですが。
実際どうですか、長谷川さんがご覧になって、宇宙に行く前と後では、サクラの種は見た目的な変化はあったんですか?
-
まったく変わってません。
変わってない。無重力を体験したことによって、どういう変化があるかはこれから、ということですね。
-
そうですね。これから各地で植えていただきますので、芽が出て育ってどのような花が咲くか…ここまで追いかけないと。向こう3年、10年、30年かかるプロジェクトになっています。
もう植えているわけですよね。
- ほとんどの各地で種を植えています。
じゃあ、もう芽が出ているところもあるんじゃないですか?
-
実はですね、このサクラに関しては1ヵ所だけ芽が出たんです!
それは、全国14ヵ所のサクラでどこだろう? 僕、当てよう!――え〜と、あったかい所だから、鹿児島県奄美市のシロバナヒカンザクラ?
- 違いますねぇ。
沖縄県のヒカンザクラ?
-
いい線いってますが、違いますねぇ。
あったかいところですか?
- そうですね。
高知のひょうたん桜?
- あっ、近いですね!
じゃあ、高知の稚木(ワカキ)のサクラ?
- それです!
ここはもう芽が出た!
- そうです。出ました。
高知県高岡郡佐川町の稚木のサクラ。
- はい。
あっ、写真をお持ちいただいた!
- はい、そうです。
発芽してる!
- 青々と!
えっ、これは去年の9月に種をまいて、11月の下旬に発芽したということですね。
- そうです。
じゃあ、2ヵ月半ぐらいで芽が出るんですか?
- あたたかかったんで、出たんでしょうね。
へぇ〜。宇宙に行ったサクラが、いち早く高知県で。
- 出ました!
これがサクラの木になるには、どれぐらいの期間がかかるんですか?
- この木は成長が早いんですが、普通、今回持って行きました野生のサクラは、花が咲くまでに10年近くかかります。
10年!?
- はい。
この種まきに立ち会ったキッズが成人した頃に、やっと。
- そうですね。みんな、振袖を着て「あれっ!」という頃に、「咲いたよっ!」と。
完全に僕らが“おっちゃん”になってる頃ですねぇ。
- まだまだですね。
大丈夫ですか?
- この番組まだまだ続けていただいて(笑)。
いやぁ、夢がある! 今ここに、高知の稚木の桜を植える時に立ち会った子どもたちの写真もあって、すごい笑顔で。これ、学校の校庭でやったんですか?
- 校庭にポットでまいてます。
この子たち、たぶん小学校5、6年の子だろうけど。へぇ〜、この子たちが成人する頃、社会に出る頃に木になって花が咲くということですか?
- そうですね。
これが全国で14ヵ所。
- ええ。それで苗になりますので、これをどんどん全国に広げていくべきだと私は思ってまして、“みんなで宇宙のサクラを植えよう”と。こういうことをしたいですね。
これが“花伝説”。そうか、“花伝説”の伝説というタイトルは、子どもたちが大人になって次の世代に、宇宙に行った伝説として継承するねらいがあって“伝説”という。
- まさに、そうです!
ちょっとロマンチック!“スーパーロマンチック・アンクル”長谷川洋一さん。いい話だったぁ(拍手)。
- いえ、いえ。
もう時間になっちゃった。次、いつ来てくれるんですか、長谷川さん?
- 次はじゃあ、花が咲く前に来ましょうか。
10年以内には来てくださいよ。
- はい、もちろん!
よかったぁ。もう時間ないよね。すみません、ありがとうございました。ちょっと感動しちゃったぁ。――言葉を最後、失ってしまったんですが、今週のサイコーは、有人宇宙システムの長谷川洋一さんでした。ありがとうございました。
- ありがとうございました。
長谷川さんが、北海道から沖縄までの種を全国に配ってまわったので、全国の人たちにこのラジオを聴いてもらいたいんだけど、「どこで放送してるんですか?」というから、エ〜ン、この番組は首都圏だけなんだよねぇ。「ごめんなさいね!」ということで。
それじゃまた、来週も夕方5時半に会いましょう。今日は本当に気持ちのいい放送でした。バイバ〜イ!