過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分
「スポーツ工学」(2)
コーチャー/浅井武さん(筑波大学・工学博士)
大村正樹&浅井武

大村正樹

キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。今日はゴールデンウイークの範ちゅうになるのかな? もう一番でっかい5連休が終わっちゃったので、何か残りみたいな感じですけど。道路も混んでたけれど、みなさんはどんなゴールデンウイークだったでしょうか?僕は、先週お伝えしましたサッカー好きです。サッカー好きで、来月ワールドカップが始まります。そして、来週は日本代表のメンバーが発表になるよ! そんな中で、今週もサッカーを科学しちゃいます。お知らせの後で〜す。


大村正樹

今週のサイコーも、筑波大学の浅井武先生です。こんにちは。

こんにちは。


大村正樹

先生、いよいよ来週ですよ! 日本代表、ワールドカップメンバーの発表が!

そうですねぇ。

大村正樹

いやぁ、楽しみですねぇ。

はい。


大村正樹

僕は個人的に中村俊輔と本田圭佑が残るのは間違いないと思うんですが、フリーキックをどっちが蹴るかという問題が…

なるほど。


大村正樹

どっちだと思いますか?

僕個人の考えは、近いところは俊輔選手の曲げて落とすボール。遠いところは、本田選手のブレるボール。それが確率が高いんじゃないかという気がします。


大村正樹

ちゃんと使い分けるということですね。

はい。


大村正樹

あとは、ちょっと位置によっては遠藤選手。

遠藤選手のフリーキックも非常に正確なので、右足で蹴ったほうが有利なところはチャンスだと思いますね。

大村正樹

なるほど。本田も中村俊輔も左足ですからね。近いところが中村俊輔というのは、中村俊輔選手のフリーキックは独特のものがあるわけですか?

はい。曲げて落とすフリーキックが非常に精度が高いんですね。


大村正樹

曲げて落とすフリーキックに関しても、スポーツ工学的にやはり先生は一過言ありますか?

いろいろ分析させてもらってるので、メカニズムが分かってきてるんですよね。


大村正樹

何であんなに曲がるんですか?

曲がるというのは、基本的にボールを回転させることです。それは、野球のカーブやテニスのショットと全く同じです。


大村正樹

でも、野球のカーブだってプロの選手が投げても、たかだか20センチか30センチぐらいですよね。中村俊輔選手が蹴ったら3メートル。バナナフリーキックありますよね。何でサッカーボールってあんなに曲がるんですか?

簡単にいうと、ボールの直径が全然違うんですね。3倍ぐらいありますから。

大村正樹

そうか、大きさ! 大きいほど曲がるんですか?

大きくて回転があるほど曲がる。

大村正樹

でも、野球のボールのほうが回転するじゃないですか?

サッカーボールのほうが直径があるうえに、直径に対する重さが軽いんですよね。

大村正樹

ふ〜ん。

ですから、同じ力が働いてもサッカーボールのほうが横に大きく変動する。


大村正樹

確かにビーチボールなども、よく曲がりますよね。

ほんとに自在に変化する。

大村正樹

いわゆる大きさとかによって変わってくるということですよね。

重さと大きさの比率があって、それに影響されるんですね。


 
大村正樹

回転の速度よりも、重さや大きさの比率のほうが重要?

もちろん回転すればするほど回る。それは物理的に間違いないんですが、その比率なので、結果的にはサッカーボールのほうが曲がっちゃう。

大村正樹

なるほど。でも、当然蹴る選手だって回転を考えて蹴るわけではないですか。角度的にはどういう計算で成り立っているんですか?

トップレベルのフリーキックですと100キロ超える速度で飛ぶので、角度でいうと壁を越えてゴールに落とすためには2度とか、せいぜい3度のレベルですね。その角度の範囲内に入らないと、上に越えてしまうか壁にあたってしまう。

大村正樹

2度か3度の精度でキックを繰り出さないと、ちゃんとゴールマウス、キーパーのいないところには行かないということですか?

そうです。キーパーがいるところでも行かないです。

大村正樹

そうか。キーパーに阻止されちゃう可能性もあるということですね。それほど難しいわけですか?

高精度で蹴らないとダメです。


大村正樹

選手たちはどういうトレーニングをしてるんですか?

最初はゆるいボールで蹴ってるんですが、そのうち試合と同じ状況でスピンをかけて蹴る。今、スピンをいくらかけて曲げてもボールにスピードがないと入らないんで、世界トップレベルのフリーキックは速くて曲げるということですね。


大村正樹

ええ。

たぶん曲げるボールはみんな蹴れるんですよ。回転させるのはかなりできるんですけど、速くて曲げる、それで俊輔選手のようにボールを落とす、それができる選手はやっぱりなかなか少ないです。

大村正樹

速くて曲げるのと、いわゆる本田圭佑選手が蹴る“ブレ球”といわれるのとどう違うんですか?

かなり違うんですね。ボールが変化するメカニズムが全然違う。

大村正樹

例えば、どう違うんですか?

俊輔選手の曲げるボールは、回転させることによってボールの回転する右と左側で空気の流れが違う。
大村正樹

ほぉ〜。

空気の流れが違うことによって、圧力差が生まれる。その圧力差がボールを横のほうに引っ張って曲がっていく。その効果をマグナス効果というんですが、そういう力で曲がっていくんです。


大村正樹

マグナス効果で曲がっていく。で、本田選手の“ブレ球”というのは?

“ブレ球”はもうちょっと複雑になるんですが、渦の振動なんですね。

大村正樹

えっ〜!

ボールの後ろの渦が振動するので、作用反作用の力で不規則に揺れてしまう。

大村正樹

ボールを蹴る弾道があって、弾道のボールの真後ろ、空気が直接あたらないところが何か妙なエネルギーがわいてるということですか? 振動してるということですか?

細かくいえば、横の空気の流れを生み出すところが振動する。


大村正樹

分かった、分かった。ボールの上と下、あるいは左右のあいだの空気のちょっと後ろ、なびく部分の空気が振動してるからブレるんですか?

その振動の度合いによって、細かく揺れたり大きく揺れたりするんです。


大村正樹

“ブレ球”って蹴り方でやるかと思ったら、空気の振動でブレるんですか!?

空気の振動を生み出すのは、でも蹴り方なんです。

大村正樹

蹴り方のポイントは何ですか?

これはなかなか複雑なところもあるんですが、要するにまず必要なのは強いインパクト、ボールを急に発進させるのが大事なんです。


大村正樹

はい。

足の重心付近でバーンと強いインパクトがまず第一で、しかもそのスイングに回転の要素と、並進といって押し出す要素の両方がキックする時は誰でもあるんですけれど、特に押し出す要素の強いスイングでボールを蹴ると振動に向いた渦ができる。

大村正樹

ふ〜ん。

だから、足を押し出すように蹴ることによって、そういう振動した渦ができやすい。それでボールがブレる。

大村正樹

プロのサッカー選手のキックは大体110キロぐらいという話を先週うかがいましたが、それぐらい最大級の蹴り方をしないと“ブレ球”は発生しないということですか?

いえ、キックが強ければ強いほど振動が大きくなるのでよく分かるんですが、キックが弱くてもブレることはブレる。ただそうすると、渦の力が弱いんでブレも小さくなっちゃう。


大村正樹

そうなんですか。

ブレが小さければ、キーパーに簡単に取られてしまう。

大村正樹

なるほどね。勉強になりました。そうか。別に速いからブレるわけではなくて、蹴り方。インパクトの瞬間に“ブレ球”かどうか…。

決まってくる。

大村正樹

僕ら素人は分からないけれど、先生プロだから「おっ、“ブレ球”だ!」と分かるわけですね。

それでも、渦の振動のでき方は非常に不規則なので、同じような蹴り方をしても必ず同じようにブレるとは限らない。ですから、やっぱりブレは、最終的には渦に聞いてくれという形で。

大村正樹

なるほど。先生、あと初戦のカメルーン戦は、標高が高いところ、高地でやるんですが、気圧いわゆる高いところと低いところによって選手のパフォーマンスとかスポーツ工学的に何か変化があるんですか?

まずシュートの速さについていえば、やはり高地は空気の密度が薄くなるので、ボールのスピードが増す。簡単にいうとボールが伸びるんです。


大村正樹

ほぉ〜。じゃあ、本田圭佑選手のフリーキックは、もしかしたらいい結果を生み出すかもしれないということですか?

そうですね。高地で1000メートルあるいは1500メートルあれば、ボールがより伸びるんですね。1500メートルで大体ボール1個半ぐらい伸びるので。

大村正樹

1個半って、どういうことですか?

だいたい1秒ぐらい飛ぶのに、1秒間でボール1個半ぐらいボールが先に到達するんですね。

大村正樹

じゃあ、数パーセント速度が早くなるということですね。

そうです、そうです。わずかに思うかもしれないですが、真剣勝負の試合で1個半ボールが速く来るかどうかは、ものすごく大きい。ゴールキーパーにとっては致命的なミスが出るかも知れない。

大村正樹

となると、ディフェンス側のほうがいろいろと準備しなくてはいけないことが多いかもしれないですね。

そうですねぇ。

大村正樹

本田選手がしっかりと受けとめてくれるかどうかという…。

それはありますねぇ。キーパーにとっては厳しい条件になると思いますね。

大村正樹

あっ、もうこんな時間。すみません。この番組、あっという間ですよねぇ。先生、楽しかったですか?

そうですね。まだまだ色んなことがあると思うんですが、非常に分かりやすく聴けたかなと思います。

大村正樹

もしワールドカップで日本が世界のベスト4になったあかつきには、なぜベスト4になれたのか、スポーツ工学的に今度また来てください(笑)。

そうですね、ぜひ(笑)。


大村正樹

よろしくお願いします。その可能性は何パーセントか分かりませんけれど、今週のサイコーは、筑波大学の浅井武先生でした。ありがとうございました。

ありがとうございました。

大村正樹

2週にわたって浅井先生にお越しいただきましたけれど、スポーツ工学ということで、スポーツを科学しちゃいました。週末にいろんなスポーツをテレビで観ることがありますが、そのひとつひとつに色んな研究家がいて、「より遠くへ飛ばすために!」とか「より正確に飛ばす」とかいろいろな研究がなされていることがよく分かりました。それでは来週も夕方5時半に会いましょう。ゴールデンウイーク終わっちゃいますけど、みんなもまた新たな気持ちで月曜日から頑張ってね。バイバ〜イ!