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「スポーツの理屈」(2)
コーチャー/深代千之(フカシロセンシ)さん(東京大学大学院教授)
大村正樹&深代千之

大村正樹

キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。1月も今日で最後の放送になりましたね。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、今週も運動会で1番になるためのコツということで、先週のまっすぐ歩く練習はできたかな?今日はそこから上のステップにいくので、ラジオの前でしっかりと運動ができる体勢で聴いてください。お知らせの後、サイコーの登場です。


大村正樹

今週のサイコーも、東京大学大学院教授の深代千之先生です。こんばんは。

こんばんは。


大村正樹

先生、この1週間、地下鉄とか電車の駅でタイルのます目に沿ってまっすぐ歩く。そして歩道を歩いている時も、何となく自分の中で20センチのラインを作ってちょっと駆け足をする。少しイメージできたんです。

よかったです。


大村正樹

これってトレーニングとしては?

入口ですね。まっすぐ蹴るということです。


大村正樹

まっすぐ蹴る。

男の人はO脚が多いので、クロスして蹴るという人が多い。女の人はX脚が多いので外に蹴ってしまうことがあって、まずそれを補正するということですね。


大村正樹

ついつい“まっすぐまっすぐ”でモデルさんみたいな歩き方になるけど、そうではなくて20センチの間隔がいいんですね。

骨盤の幅ですね。このぐらいの幅で走るので、それをクセにしようということです。


大村正樹

クセに、身につけちゃうんですね。

そうです。


大村正樹

骨盤の幅で歩く。そして走るのをクセにする。これがまず入口ですね。

入口です。


大村正樹

次のトレーニングは何ですか?

軽く走る時に足首とかヒザをイメージしがちですが、スポーツクラブの成果でわかったのは股関節を使って走る。股関節を使って走ると足がムチのように動いたり、一歩でグンと前に出たりすることになります。


大村正樹

はい。

そういうことがわかったんですけど、身につけるのは理屈ではなかなか難しい。それでいろんなドリルを提案しています。


大村正樹

計算ドリルみたいなものですか?

計算ドリルみたいなものを動きでやる。それをやってると自然に股関節で走れるようになるというものですね。


大村正樹

ぜひ教えてください、ラジオで。

ひとつはまず左足で立って、右足はつま先で支えます。


大村正樹

ちょっとやってみよう。左足で立って、右足はつま先で支える。

右足は少し後ろに。


大村正樹

右足をちょっと後ろへ?

はい。ヒジを90度に曲げて、左右で交互に軽く振ってみてください。


大村正樹

走る格好。はい。

うまく触れると体幹がねじれてくるんです。肩と腰がこう逆にねじれてくる。


大村正樹

左足を軸にして、右足を30センチぐらい引いてつま先立ち。そして走るようにして腕を前後に振るんですね。

骨盤が回転し出すはずです。


大村正樹

はい、回転してるかも−してる、してる。

手を振るというのは、骨盤をうまく回転させることですね。これがひとつです。


大村正樹

手を振りながら骨盤も回転させる!

そうです。手は骨盤を回転させるために振る。


大村正樹

そうなんですか! じゃあ手は上半身についてるけど、下半身のつけ根のお尻の脇の骨盤を動かすのが手の役割?

そういうことです。だから手を一生懸命振っても、骨盤が回転しないとあまり意味がない。


大村正樹

いわゆるポーズだけで手を振っちゃダメということですね。

そうです、そうです。


大村正樹

手の反動を生かして骨盤も振る。

はい。


大村正樹

振った、振った!

それがひとつです。


大村正樹

はい。

では、座りましょう。


大村正樹

あ〜、疲れたぁ。

ちょっと疲れましたか(笑)?


大村正樹

いいです。どんどん教えてください。

「モモを上げると速く走れる」が昔の定番の指導書だったんですが、そうではなくてモモを速く上げる。


大村正樹

モモを速く上げる?

はい。みなさんスキップはできると思うんですが、「タタンタ、タンタ、タン♪」というスキップですね。ヒザを伸ばして足を前に出すようなスキップが普通ですね。その時にヒザを前にほうり出すような感じでグン、グンと出してあげる。うまくいくとムチのように前に足が運べます。


大村正樹

さらに上体の運動で、腕を振りながら骨盤を回転させる。そして腸腰筋(チョウヨウキン)。

はい。


大村正樹

へぇ〜。

これで足が前にうまく行くというドリルが、ひとつできました。


大村正樹

はい。

次にやっぱり地面をうまく蹴らないといけない。蹴り方のコツがわかってきまして、ヒザを曲げて伸ばすことで蹴らない。ヒザを固定していて、足全体を1本の棒のようにして前から後ろへグーッと引き込む。


大村正樹

へぇ〜。

この筋肉はお尻の筋肉とか…。


大村正樹

足を後ろに蹴る時は、あまりヒザを曲げちゃいけないということですか?

曲げないです。


大村正樹

そうか、そうか。分かった、イメージできた。

グーンと腰を中心に回す。ひざを曲げ伸ばししない。


大村正樹

地面を蹴った足をむやみに曲げないということですね。

蹴ってる時です。


大村正樹

蹴ってる時に曲げない?

蹴ってる時にヒザを曲げないで、股関節だけ、お尻だけでやる。


大村正樹

お尻の筋肉もいるんですか?

そうなんです。今の理屈を言ってもなかなかできないので、やっぱりまたドリルがあります。


競歩ってありますよね。


大村正樹

歩いて競争する。

20キロとか50キロとか長い距離を歩くのが競歩ですが、この競歩ドリルは短い距離をできるだけ速く歩く。10メートル、15メートルをできるだけ速く歩くことをやると、競歩で地面を押してる時の動きが、走ってる時の地面を押す動きととても似てるんですね。


大村正樹

じゃあ、かけっこしなくても10メートル15メートル速歩きするのがトレーニング、ドリルになる。

そうです。それで速く歩こうとしてるとだんだんスピードが上がります。走っちゃうんですね。そのまま走り出すことをすれば、地面のキックの仕方が分かる。


大村正樹

はい。

足を前に振り出すというスキップと足を蹴るという競歩ドリルで、だいたいうまく行くと絶対速くなります。


大村正樹

“絶対”ですね。すごい!

ちゃんと1ヵ月やれば、1ヵ月前の自分より必ず速くなります。


大村正樹

そうですかぁ。すごい。ちょっとやってみたい。今、鳥肌立っちゃったよ。自分でイメージしてたら鳥肌立っちゃった。

これを練習していてうまく力の入れ具合が体に伝わっていると、腸腰筋とかお尻の筋肉が筋肉痛になるんです。


大村正樹

はい。

そうではなくモモの前とかふくらはぎが筋肉痛になると、「ちょっとドリルが違っているんだな」ということです。


大村正樹

なるほど。先週うかがった腸腰筋を鍛えるには、ヒザ小僧に体重をかけながら、それに抵抗するような動きをすると腸腰筋が鍛えられる。そうすると腸腰筋が痛くなる。

それを走りの中で意識する。例えばスキップ、意識するとそこが使われるので筋肉痛になる。


大村正樹

筋肉痛になったら正解、ということですね。

正解ですね。


大村正樹

お尻は、蹴る時にやっぱり筋肉痛になる。

そういうことです。お尻とモモの裏ですね。


大村正樹

へぇ〜。これは、ちなみに何メートル走まで効果があるんですか?

短距離ですね。


大村正樹

100メートルぐらいですか?

100メートル200メートルぐらいは大丈夫ですね。


大村正樹

子どもだったら、だいたいそれぐらいですよね。

そうですね。


大村正樹

先生の理論は、陸上のトラック競技だったら800メートル、いわゆる短距離の中では限界と言われるところまで通じるわけですね。

基本的に股関節で走るというのは、長距離まで通じます。


大村正樹

へぇ〜! マラソンも大丈夫?

大丈夫です。


大村正樹

へぇ〜。

走り方自体はそうですが、マラソンは100メートルほどスピードが速くないので股関節をそんなに使わなくなるだけで、股関節で走ることは変わらないですね。


大村正樹

なるほど。

僕がいるところは教養学部で、英語でいうととてもユニークで、「サイエンス・アンド・アーツ」。


大村正樹

科学ですね。

科学と芸術です。科学は誰にでも当てはまることが必ずあって、もしかしたら当てはまるかもしれない、というのが芸術なんですね。


大村正樹

はい。

今いってきたドリルは誰でも当てはまることで、ピッチストライドというのは誰かにもしかしたら当てはまるかもしれない。科学と芸術をうまくミックスさせているということですね。


大村正樹

なるほど。じゃあ、運動会で1番になるのは、とりあえずは科学の分野。

誰でも速くなる。


大村正樹

そうですか。いや、勇気づけられましたよ。先生、もしよかったらまたスポーツの大きなイベントがある時にでもぜひ遊びに来てください。

ありがとうございます。


大村正樹

今週のサイコーは2週にわたってうかがいました、東京大学大学院教授の深代千之先生でした。ありがとうございました。

ありがとうございました。


大村正樹

あと3ヵ月、春の運動会を待っているキッズは、ぜひ実践してください。先生は、「必ずこれで速くなる!」と断言してらっしゃいました。先生の著書『運動会で1番になる方法』は角川つばさ文庫、児童書の欄に置いてありますから、ぜひ本屋さんでチェックしてね。それでは、また来週も夕方5時半に会いましょう。みんな、バイバ〜イ!