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「車の科学」(1)
コーチャー/小倉茂徳(シゲノリ)さん(モータースポーツ解説者)
大村正樹&小倉茂徳

大村正樹

キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、土日月と三連休でしょ。きっとお父さんの車の中で聴いてくれてるキッズもいると思うんだけれど、みんなは車は好きかな?今日は車を取り上げます。さすがにお父さんの車に羽根はついてないと思うんだけれど、ちょっと周りを見ると若いお兄ちゃんの乗っている車に羽根とかついてない?その羽根が意外な効果があるということなんだよねぇ。お知らせの後、サイコーに聞いてみよう!


大村正樹

今週のサイコーは、モータースポーツ解説者の小倉茂徳(シゲノリ)さんです。こんにちは。

こんにちは。


大村正樹

小倉さんは、誠文堂新光社から『科学の目で見る特殊車両』という本を出版されています。ダンプカーとか消防車、F1カーとか、いろんな車のカタログかと思ったら科学的見地で見てるという、まさにこの番組のためにこの本を書いてくださったような感じですかねぇ。

ありがたいですねぇ(笑)。でもほんとに考えていること、目指していることは同じだと思います。


大村正樹

車に科学がある、ということですね。

ええ、科学の固まりですね。


大村正樹

そうですか。小倉さんは今から24年前、ホンダのF1チームで広報を担当されていて、実際にF1で世界各国に転戦されてた。

はい。


大村正樹

えぇ〜!

当時、16戦あったんです。ですから春の開幕へ行くと、そのまま日本グランプリまで帰って来ないという生活をしてました。


大村正樹

あっ、そうなんですか。じゃあ、“音速の貴公子”ですね。

アイルトン・セナのまだ若い頃、チャンピオンをとる頃にずっと一緒でした。


大村正樹

そうですか。僕ねぇ、イタリアのイモラ・サーキットというところでセナが亡くなった時はものすごい衝撃で……。ご存じですよねぇ。

はい。


大村正樹

じゃあ、非常に詳しいんですね。

仲良かったし、ケンカもしたし……。亡くなってその後、今度は僕たちの仲間がもっとより安全な車をどうつくるかということをやって、さらに安全になって実はその技術がみなさんの普段乗っている車にいかされてるんですね。


大村正樹

なるほど。F1はすごくガソリンをいっぱい使うので今の時代はエコじゃないといわれていますが、科学の目でちょっと見ていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

よろしくお願いします。


大村正樹

最初手始めに専門分野のF1の車、これは変わった形をしていて、僕らがお金を貯めて買える車じゃないとわかっているんですけれど、模型やミニカーでよく見ますよね。

はい。


大村正樹

あの形にやっぱり科学があるわけですか?

ええ。まず前後に翼がついていて−地上を走る飛行機のような格好ですよね。


大村正樹

羽根がついてますからね。

しかも車体の底の形もうまく工夫して、実は走ると車体と路面とで吸い寄せあう形になってるんですね。


大村正樹

へぇ〜。

それで路面にぴったり!張りついて、カーブでもいろいろなところでもすべらないでどんどん高速で走れるようにつくってあるんです。


大村正樹

タイヤに吸盤がついているわけじゃないですよね。何でですか?

実はタイヤをしっかり路面に押しつけて、摩擦の仕組みなんです。


大村正樹

へぇ〜。

摩擦って押しつける力が大きくなればなるほど、すべりにくくなるじゃないですか。


大村正樹

はい。

それを利用してるんですね、タイヤは。それで路面をしっかりとらえて、キュッとすべらないように行くわけです。


大村正樹

F1のタイヤってツルツルじゃないですか。あれはすべらないんですか?

ええ。時速、例えば100キロ以上、200キロ300キロで走っていくと路面との摩擦でタイヤの表面の温度がどんどん上がっていくんですね。


大村正樹

ええ。

手をゴシゴシこすると熱くなるじゃないですか。


大村正樹

熱くなる。

あれと同じで、どんどん温度が上がっていって100度ぐらいになるんです。


大村正樹

えぇっ、F1のタイヤ!?

帰ってきたばっかりは熱いですよ、タイヤ。


大村正樹

チンチンなんですね。

熱くなると表面がゴムのりみたいな接着剤のようになるんです。


大村正樹

へぇ〜。

摩擦プラスそののりでベタベタ貼りつけながら走っている。


大村正樹

吸盤こそついてないけれど、摩擦熱によって地面に吸い寄せられるような効果があるということですか?

それでさらに摩擦を増やすために、空気の力でグーッと車体を押しつけるんです。


大村正樹

空気の力はどこから発生するんですか?

翼ですね。前後に翼(ヨク)がついてますが、あれが飛行機の翼と全く上下が逆なので。


大村正樹

はぁ〜! そうか、飛行機の翼は上に浮くようになっているけれど、それをさかさまにしたら地面にくっつくようになるということですね。

そうなんです。要は飛行機と逆にどんどん地面に押しつけてるんです。


大村正樹

なるほど。

さらに車体の底で、車体と路面が空気の力で吸い寄せあう形にもつくってあるので。


大村正樹

へぇ〜、よくわかりました。僕は車好きなんで、市販の車でもいわゆる羽根、スポイラーという羽根のついた車に若い時あこがれたんですが、最近ちょっと少なくなりました。ああいう羽根も効果があるんですか?

まさにそういうことなんです。


大村正樹

へぇ〜。

高速を走った時に少しでも車体を押しつけて安定して走れるように、ということです。でも時速100キロぐらいだと、まぁあってもなくても何とかなりそうで……。


大村正樹

変わらない。じゃあ、日本の法定速度の中ではスポイラー、羽根はあまり意味がない?

あまりないですね。


大村正樹

そうなんですか。

ただドイツみたいな高速道路で速度の制限ありませんよ、200キロで走っていいですよというところだったら確実に効果が出ますね。


大村正樹

そうなんですか。

ただドイツみたいな高速道路で速度の制限ありませんよ、200キロで走っていいですよというところだったら確実に効果が出ますね。


大村正樹

そうなんですか。すごい勉強になった。わかりました。そのほかに例えばキッズの身近な乗物でいうと電車とかあるけれど、自動車の類だったらバス……。バスには何か科学がありますか?

バスは例えば、最近バイオ燃料を使っているバスがあるんですね。


大村正樹

バスって基本的には軽油で走るんですよね。

ええ、ディーゼルで。ディーゼルはそれ自体がものすごく燃料の持っているエネルギーを動力エネルギーに換える効率のいい、無駄のないエンジンなんです。


大村正樹

へぇ〜。

それにいろいろな燃料を使えるんですけれど、その中で例えばテンプラで使った植物油、いらなくなった植物油から燃料にしちゃうということなんですね。


大村正樹

はい。

何がいいかというと、いらない油を使える。それから植物油って植物が持っている炭化水素、要は二酸化炭素−昔、植物が生きてた時に大気中の光合成で二酸化炭素を取り込みますよね。で、酸素を吐き出しますね。


大村正樹

ええ。

その取り込んだ二酸化炭素が燃えて、地上にまた空気の中に出るだけなんです、燃料として。だから大気の中の二酸化炭素の総量、すべての量は変わらない。一定になっているんです。


大村正樹

いわゆるカーボン何とかという原理ですよね、エコの観点から。

日本語でいうと二酸化炭素の循環という言葉です。植物光合成、それから燃料になってまた吐き出される。でもそれがすべて一定の量だから、二酸化炭素が増えないと地球の温暖化に貢献するんじゃないかという意見もあるんですね。


大村正樹

ちなみに、さっき僕がF1カーって燃費いっぱい食うんじゃないかという話をしたんですが、やっぱりガソリンはけっこう食べちゃうんですか?

だいたいリッター当たり1キロぐらいしか走らない。


大村正樹

えぇ〜! 150円ぐらいしますよ、ガソリン。じゃあ、1000メートル走る時に150円ぐらいばらまいているようなものですか?

はい。とにかくリッター当たり1キロぐらいしか走らなくて、ハイオクガソリンなんですよ。


大村正樹

もっと高い。160円ぐらいするじゃないですか、ハイオクは。

ただしですね、実はガソリンエンジンの中でやっぱり燃料の持っているエネルギーを動力として取り出すにはレーシングエンジンは一番無駄がないんです。


大村正樹

効率はいいんですか?

はい。だから、もしその技術をそのまま普通の自動車に入れたとしたら、すごく燃費のいいエンジンが簡単にできる。


大村正樹

そういうことか。

はい。


大村正樹

効率がいいわけですね。レース用に使われているものだからちょっと無駄だなと思っちゃうけれど、実はその原理を一般の車に転用すればめちゃめちゃハイパフォーマンスなエコカーが誕生する可能性がある。

そうですよ。ですから例えばエンジンの中でピストンが動いています。中ですれてるわけですよね。摩擦が起きます。摩擦の抵抗はエネルギーの損失になるわけです。


大村正樹

ええ。

じゃあ、その抵抗を減らすためにどうやってつくったらいいか。「もっともっとなめらかに加工しよう」と細かい積み重ねをやっていく。レーシングエンジンはそういうことをやっているんです。あるいは「燃料をどうやって燃やしたら、もっとよくエネルギーが取れるかなぁ」というのを全部やってるんで、そういう技術をどんどん積み重ねていくと、今のガソリンエンジンなりディーゼルエンジンの技術でもより燃料を少なく走れる車ができていくんです。


大村正樹

ちょっともうこんな時間。小倉さん、いったんバスの話まで来たので、いろいろ救急車とかトラクターとかロハスな乗物の話もうかがおうと思ったんですけど、結局F1の話で終わっちゃいましたねぇ。

はい(笑)。


大村正樹

やっぱり小倉さんはF1好きなんですね。

ハッハハ。


大村正樹

ちょっと足りないんで、また来週もよろしいですか?

喜んでうかがいますよ。


大村正樹

すみません、あっという間に時間が来てしまいました。今週のサイコーは、モータースポーツ解説者の小倉茂徳さんでした。ありがとうございました。

ありがとうございました。


大村正樹

小倉さんは本当にレーシングカーが好きなんだねぇ。そうか、F1のガソリンってすごくいっぱい食うと思ったら、実はエンジンとかひっくるめていろんなことを考えると結局エコにつながるという考え方もあるんだね。これからの車作りのお手本になる可能性もあるということです。それでは、来週もまた夕方5時半に会いましょう。キッズのみんなも楽しい三連休を。バイバイ!