
キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。日が暮れるのが早くなったねぇ、ほんとに。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、今回も人間の記憶について取り上げます。先週話した、昔、睡眠学習法という不思議な学習方法があったんだけれど、大村さんはなぜかその機械を買ってました。キッズのお父さんお母さんにも、そういう方いらっしゃいますか? 買いたかったけれど買わなかった人もいらっしゃるかもしれない。あの機械は何だったのか? そのあたりも含めて、お知らせの後です。

今週のサイコーも科学ライターの記憶に詳しい田中真知さんです。こんにちは。
こんにちは。

田中さんは技術評論社から『ひとはどこまで記憶できるのか』という本を出されてます。この本の中に、ほんとなつかしくて…。昭和40年代とか30年代に生まれたキッズのお父さんお母さん世代−もうちょっと世代が若いですかねぇ? 睡眠学習法というのがあって『中学1年コース』とか『中一時代』とか睡眠学習機を売ってたんです。田中さん、知ってますよね。
もちろん知ってます。

僕はそれを買ったんですよ。
すごいですねぇ。あれを買った人は私、初めて会いました。

けっこういい値段で。何かというとイヤホンじゃなくて枕の中にちっちゃいスピーカーが仕込まれていて、すごく小さな音で寝る前にエンドレステープで英単語とか歴史を自分の声で吹き込みなさいと。
自分の声で?

自分の声で吹き込む。
そうだったんですか(笑)。

エンドレステープには、サンプルで先生の声が入ってるの。英語のスペルとか。
あぁ。

慣れてきたら、自分の声でそれを入れてみようという。
はぁ〜、ナゾがとけました。そういうものだったんですか。

そしてタイマーがついているんです、カセットデッキプラスタイマー付き。あと、カセットデッキのスピードも変わるの。
早口になったり?

そうそう。速度調整機能アンドタイマー付きのカセットデッキと、ちっちゃいスピーカーがついてる枕とエンドレステープの3点組みで3万いくらだった。
高いですねぇ、当時としては。

高い。でも、それで勉強しようと思ったんですが、僕は全然やらなかった。でも、睡眠学習法を売り出してユーザーもいたということは、やっぱり記憶には多少効果があったんですかねぇ。寝る前に物をおぼえるというのは。
最近になって、記憶に興味を持って睡眠と記憶の関係をちょっと調べてみたんです。

はい。
実はものすごい関係があるんですよ。ですから、発想自体は間違ってはいない。

夢を見るじゃないですか。夢を見て、すごく長いストーリーがありますよね。
はい。

でも、起きた時に鮮明におぼえているものが1時間したら、「あの夢、何だったっけ?」と忘れちゃうこともありますけど。
忘れてしまいますね。

夢と記憶の因果関係というのは?
はっきりしたことは、まだわかってないんですよ。科学的に証明されてはいないんだけれど、夢は昼間の経験を脳の中で整理していて、その断片的な映像をわれわれは見ているというふうに考えている学者がいますね。

昼間思い出した人とか会った人がたまに出てくるのは、そういうことですね。
そういうことなんです。ただ寝ている間は、われわれの意思的な働きとか思考を作用している前頭葉…。

おでこのあたりね。
そうです。それの働きが弱まっているんで脈絡なくなるんですよ。昼間だったら「これ、おかしいだろう」と突っ込みを入れたくなるようなところでも、夢の中だとそれが自然に思えちゃったり…。

前頭葉が働かないままストーリーが展開されるから、あり得ないドラマが生まれるんですね。
それに対して不自然さを、われわれは夢見ている時は感じない。

はい。だから悪夢もあるわけですよね。
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そうなんですよ。結局、夢を見ている間、あるいは睡眠で眠っている間に、昼間おぼえたことを脳の中で整理して、そして記憶に変えている。入ってきた段階では、まだ記憶になってない。

はい。
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よく勉強する時にワーッと本を読んで「よし、おぼえた!」とやっても、その後よりも実は一晩寝た後のほうが思い出せるんですよ。

えっ!そう?えっ!でも、次の日の朝忘れてる時が多いけれど。そうでもないか…。
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受験勉強をしてる時に僕はよくあったんですが、数学の問題が解けない。ずーっと「解けない、解けない」といってて、そのことを考えながら寝たりする。次の朝になると、「あっ!」とできたりすることが実はあったんですよ。

解き方のコツを朝、思い出すということ?
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朝、思い出す。朝になると、「何で気づかなかったんだろう?」と気づくことがあったりとか。

へぇ〜。
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時を置いたほうがはっきり思い出せることが、実はけっこうあると思うんですよね。

う〜ん。
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経験している時はあまりにも近くで物が起きているもので、頭の中で整理されていない。記憶は、整理して初めて記憶になるんですよ。

はぁ〜。
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ですから、朝起きて一晩寝た後のほうが思い出しやすい。

確かに僕、北海道で毎日テレビの生放送をやっていて、その放送中に不測の事態に対して何とか対応するんですけれど、次の日になって冷静に考えて見ると「あの時、これこれこういうことがあったので、こうしておけばよかったかな」と思う。その後悔と記憶とは違うんですかねぇ。
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それは(笑)、ちょっと違うと思いますね。

違うんですか(笑)。
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記憶というのは経験内容を寝ている間に整理して、そして定着させる。つまり定着して初めて記憶になるわけですね。

寝るということは、いいことじゃないですか。
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いいことです。

へぇ〜。寝ることによっておぼえたものが整理されるのであれば、一夜漬けで勉強するのは間違っているということですね。
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そうですね。

寝たほうがよろしい?
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寝たほうがいい。おぼえたら、寝るんです。

はぁ〜。そこは睡眠学習法とリンクするところがあるんですか?
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リンクしますね。

なるほど。
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実際に寝ている間に睡眠学習機と同じように何かの知識を聞かせたり刺激を加えて、次の朝にもう1回検査したりすると確かにおぼえているという結果が、そういう実験もあるんですよ。

じゃあ、お母さんがちびっ子たちに寝る前に読み聞かせる童話、これで気持ちよく寝ちゃう記憶があると思うけれど、その童話を一生忘れないのはそういう理由もあるんですかねぇ。
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それは大きいと思いますね。

『イソップ物語』とか『グリム童話』とか。
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ええ。寝る前に聞いた話は、寝るとその後は刺激がないわけです。

はい。
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起きっぱなしだといろんな刺激が入ってきて、せっかく聞いたことがかく乱というか、新しい刺激によってグチャグチャになっちゃう。でも寝てしまうとその記憶だけが脳の中に浸透していく、スポンジに浸透していくみたいな形で残るようになる。

へぇ〜。
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ですから、テスト前の勉強も一夜漬けよりも、おぼえた後は余計なことをしないで寝るというのがとてもいいことです。

まぁでも真剣にテストをやる人には、「寝るのが怖い」という人がいるかもしれないけれど…。
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いますね。

田中さんの提言は、「本気でテストで点をとりたかったら寝ろ!」ということですね。
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そういうことです。寝ることはとても大事ですねぇ。

記憶力をアップさせるためには何かポイント、コツはあるんですか?
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結局、先週も申し上げたように、感情的な刺激が強いと記憶に残るわけです。

“楽しめ!”ということですね。
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楽しむということが一番大事ですね。

エンジョイしながらおぼえる。
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ええ。好奇心を持つことです。好奇心を持つことと、あと、特に今の子どもたちの置かれている状況にいえると思うんですが、授業でも何でも録音しちゃったりとか塾に行くとテープ−今はICレコーダーにとったりとか、黒板にあるものをデジカメでとったりする。もう高校とかになると、そういうことをやってるらしいんですね。

ほぉ〜。
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そうやって記憶しようという気持ちをなえさせちゃうわけですよ。むしろメモをとらないようにして、頭の中で一生懸命それを反復してみるとか、そういう努力をしないとこれからますます記憶がダメになっていくような気がしますね。

僕、そっち派です。
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そうですか。

あとから見て写真を思い出すのではなくて、それを自分の目でシャッターを切っちゃう感じ。新聞やテレビでも筋書きとか説明、物の流れとかも、「新聞のこのあたりにこれが書いてあったから、この流れはこうだ」とか「ここにいた人はこういう人だったかな?」とかポンといえるようにはしてます。
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それは、すごくいいことです。

いやぁ、すごい2週間、勉強になった! わかった、みんな? メモをとらないでラジオから学ぼう!(笑)
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フフフフ。

もう時間。すごく刺激的な2週間でした。また遊びに来てください。
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ありがとうございます。

今週のサイコーは、科学ライターの田中真知さんでした。ありがとうございました。
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ありがとうございました。

いやぁ、知らなかったなぁ。何か寝ちゃうと何でもかんでも忘れちゃうと思ったら、眠ることによってある意味、人間の記憶はとぎすまされることになるんだねぇ。そうか、そうか。だからみんなもしっかり前の日に勉強したら、安心して眠って次の日のテストに備える。そういう習慣にしたらどうですか?それでは、来週も夕方5時半に会いましょう。キッズのみんなも楽しい週末を。バイバイ!