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「低温の世界」(2)
コーチャー/春山富義さん(高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所副所長)
大村正樹&春山富義

大村正樹

キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、今週も寒いシーズンに冷た〜いお話です。みんな、耳から風邪を引かないでね(笑)。低温の話です。ブルーバックスから出ている『低温「ふしぎ現象」小事典』の著者の方に来ていただいているんですけれど、この本の表紙にカッチカチに氷付けにされたお魚の写真があります。こういう現象はどうしたら起きるのか?お知らせの後、サイコーに聞いてみたいと思います。


大村正樹

今週のサイコーも高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所副所長の春山富義さんです。こんばんは。

こんばんは、よろしくお願いします。


大村正樹

先週ちょっと衝撃なお話で、絶対零度というマイナス273℃。これが本来の零度ということで、僕らが生きてる氷点下は、実はそんなに寒くないという話でした(笑)。ただ世界で一番低い気温を観測したのは南極で、マイナス89℃!

はい。


大村正樹

これはいつのことですか?

1983年と報告されていますね。南極にあるロシアの基地で観測されています。


大村正樹

じゃあ、ちょうど30年。

そうですね。


大村正樹

今年は“マイナス89℃・30周年記念”ですね。おめでとうございます!

ハハハ、何かやらないといけませんね。


大村正樹

やりましょう(笑)。そのマイナス89℃の世界、どんなことが起きるんですか?人間の体がどうなるか? 裸になっていいかどうかも含めて、どうなるんですか?

もう裸にはなれないですね。


大村正樹

なれない。

例えばこの本の中にもいろいろ書いてあるんですが、人間が呼吸をしますと息の中に水蒸気が入ってますよね。


大村正樹

ええ。

こういう水蒸気が出たとたんにもう氷になって…。


大村正樹

息をハーッとはいたら凍っちゃう。

ええ。例えばまゆ毛が固体としてまとわりつくとか、そういうことが体験されていますね。


大村正樹

じゃあ、もう息がカチカチになって、人にしゃべりかけたら息が氷になって当たっちゃったりとかないですか?

いやいや、そこまでは(笑)。


大村正樹

そこまではない。でも、自分のはいた水蒸気みたいなものが凍るということですね。

はい、そうです。


大村正樹

ほぉ〜。

たぶん「そういう寒いところで、なぜ海が凍っていないのか?」とか。


大村正樹

だって、南極にアザラシいますよね。

いますね。


大村正樹

そんなマイナス89℃で海は凍らないし、海の底の生き物も生きているわけで。

生きていますね。


大村正樹

何でですか?

南極の海の平均温度は、だいたいマイナス2℃〜1.87℃ぐらいですね。ですから摂氏零度に比べたら、ずーっと低いというわけじゃないんです。


大村正樹

外でマイナス89℃だったら、海の水もそれに準じて冷えてきたりしないんですか?

海というのは必ず流れがありますね。


大村正樹

あぁ。

流れがあるというのと、例えばみなさん経験あるかどうかわかりませんが、氷よりも低い温度をつくる時に塩を入れたり、いろんなことをやりますよね。


大村正樹

はい。

そうするともっともっと低い温度まで凍らない。南極の海はもちろん塩が…。


大村正樹

海水だから凍りにくいんですね。

はい。しかも動いているので、それぐらいの温度で保たれているわけですね。


大村正樹

なるほど。

魚が泳いでいるんですね、そういう温度でも。


大村正樹

魚たちは何度まで許されるんですか?

南極の魚は、だいたいマイナス2℃ぐらいまでは凍らない体液を持っているんですね。ですから周りの海がマイナス1.8℃や1.9℃で、魚の中にある体液がマイナス2℃ぐらいまで我慢できる。正確には2.1℃の温度まで液体のままでいるので泳げるわけです。


大村正樹

はぁ、なるほど。

不思議な現象といいますか、面白い現象として、南極の隊員の方が魚を釣り上げるわけです。そうするとそれまでピンピン動いていたのが、釣り上げた空間はもうマイナス20℃、30℃になっているわけです。


大村正樹

そうですね。

釣り上げた瞬間に凍っちゃう。


大村正樹

瞬間冷凍!

ガチガチになっちゃう。


それがこの本の表紙になっている、この写真です。


大村正樹

うわぁ、すごい!

ハハハハ。


大村正樹

これ、ハゼですか?

そうですね。


大村正樹

表紙で凍ったハゼが…。「何だ?」と思ったんです(笑)。から揚げにしたハゼかと思ったら、凍ってたんですね。

ハハハ。


大村正樹

釣り上げた直後の魚は瞬間冷凍で、じゃあ解凍したら鮮度はかなり保たれているわけですね。

そうですね、はい。


大村正樹

ほぉ〜、すごいですねぇ! あとは例えば何が起きるんだろう? バナナで釘が打てるとよくいうじゃないですか。

はい。


大村正樹

それは楽勝ですか?

それは、もう楽勝です。


大村正樹

楽勝(笑)。

面白い現象として伝えられているといいますか、報告されているのは、石鹸水でシャボンをつくります。普通のわれわれの世界でしたら、飛んでいってパチンと割れる。ところが、シャボン玉をふくらませると水ですから、すぐ氷の膜ができちゃう。で、手の上に氷のシャボン玉がのせられる。そういうことも起こっていると報告されています。


大村正樹

北海道で、その現象が起きるんです。

そうですか。


大村正樹

陸別というすごく寒いエリアがあるんですが、年末に全国ニュースにもなりました。やっぱり子どもたちがシャボン玉を手にのっけているという…。びっくりしました。マイナス25℃を下回るとその現象が起きるとおっしゃっていました。

そうですか。


大村正樹

南極では、もうそれは余裕で。

しょっちゅうできますね。


大村正樹

風呂とか南極でも入りますよね。だけど湯冷めしますよね。うっかり水滴がついた体で表に出た瞬間、氷人間になっちゃう可能性がありますね。

そうだと思いますね。それはやってはいけないことなんじゃないでしょうか(笑)。


大村正樹

ハハハハ。それがマイナス89℃の南極での話で、先週お話いただいた人工的につくれる気温としては、マイナス196℃という液体窒素の話がありました。

はい。


大村正樹

液体窒素を使った実験でいろいろなものがありますけれど、例えば「液体窒素にこんなものを入れるとこうなる」というのはありますか?

この本の中でも触れている面白い現象として、消しゴムを液体窒素に入れてみる。


大村正樹

消しゴム!誰でも持っていますね。

持ってますねぇ。


大村正樹

消しゴムをマイナス196℃の液体窒素に入れると、消しゴムがどうなるかという、これが問題。

はい。いろんな起こり方があるんですけど、一番びっくりするのは入れて少したってパーンとはじける。


大村正樹

消しゴムがはじけるんですか!

はじけます。これは何故かというと消しゴムはもともとゴムですから、熱の伝わりが非常に悪いわけですね。


大村正樹

ほぉ〜。

金属みたいにすぐに冷えてしまうんじゃなくて、消しゴムを入れると外側が液体窒素と触れますから急速に冷やされて固体になっていく。固まっていく。だけど内側までそれが届かないんですね、なかなか。


大村正樹

ほぉ〜。

届かないのだけれど、内側だから柔らかいゴムのままになっていて、周りが凍ってギュギュッと押されるので耐え切れなくてパーンと割れていく。


大村正樹

中の弾力が外側の固まったものをはじき飛ばす。

はじき飛ばす。そういう現象が実際に起こります。


大村正樹

へぇ〜。これちょっと今聞いたら、液体窒素の実験をやっているところに消しゴムをほうり込みたくなりますね。

フフフフ。


大村正樹

そうですか。せっかくだから、僕が子どもの頃にオカルト雑誌で「世界中のお金持ちが400年後に生き返りたい」といって、液体窒素付けになって瞬間冷凍されているお金持ちがいっぱいいるんだと。

はい。


大村正樹

その中にナポレオンもいるんだと。

フフフ。


大村正樹

それで、何年かしたら復活してくるという。「あなたの周辺にもどこかに偉人たちが眠ってるかもしれない」というのを読んだんですけれど、本当ですか?

いや、それはないと思いますけれど(笑)。


大村正樹

わかりました。そんなの読んだんですよ(笑)。

まだ人体、あるいは哺乳動物のレベルで全体を冷やして冷凍して、例えば100年後に復活させるという技術は成立してないと思います。


大村正樹

まだない。

やっぱり人類として夢、そういうところに一つの夢はあるんでしょうね。それがいいかどうかは分かりませんよ。


大村正樹

じゃあ、僕がナポレオンに会うことはないですね。安心しました(笑)。お時間ですね。今週のサイコーは、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所副所長の春山富義さんでした。面白かったです。また来てください。ありがとうございました。

ありがとうございました。


大村正樹

春山さんは、講談社ブルーバックスから『低温「ふしぎ現象」小事典』という本を出版されてます。とっても興味深い本ですよ。来週もラジオの前にいてね。バイバ〜イ!