浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 10時30分〜11時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2020年1月6日 陽はまた昇る

第96回東京箱根間往復大学駅伝競走は、3日復路が行われ、
往路優勝の青学大が、復路は1度も先頭を譲らない安定した走りを見せ、
10時間45分23秒の大会新記録で、2年ぶり5度目の総合優勝を果たした。
往路復路ともに、気温・風に恵まれ、加えて厚底シューズの力もあってか
20の新記録が出た大会だった。
その駅伝には、様々なドラマ、そして「涙」がつきもの。
喜びだけならハッピーだが、悔し涙を流す選手も少なくなかった。
その悲しみのドラマは鶴見中継所でも待っていた。
復路9区から10区へと襷をつなぐ鶴見中継所。
日体大、日大、筑波大が首位・青学大から20分以上の差がつきそうで、
無情の繰り上げスタートの時間が迫っていた。
そんな中、日体大のランナーの位置は、
襷渡しにギリギリ間に合うかどうかの瀬戸際だった。
19番目を走っていた日体大の3年・野上翔大は、
中継所が近づいたことを自覚し、自らの白い襷をはずし、
右手にぐるぐると巻き付けた。
自分を信じて、ひたすら口を開け、体に空気を送り込み、
感覚の無くなった足を動かして、ペースを緩めず走っていく。
繰り上げスタート10秒前。
野上の姿が10区中川翔太の視界に入った。
中川には予備の襷が掛けられている。
中川は一瞬着けている襷に手をやった。
「もしかしたら野上が間に合うかもしれない」
「はやく!」「あと少し!」「頑張れ!」
沿道の歓声が今日一番の大きさになった。
しかし時は無情に刻まれていった。
姿はあれども野上の足は奇跡の伸びを見せられない。
「4秒前」
中川は大声で野上に声を掛け、右手で「来い!」合図をした。
両脇の選手が前を向いて時計のボタンに手をやっている中
中川だけは野上の方を向いていた。そしてもう一度大声で野上を呼んだ。
ピストルの合図を半身で聞いた。
同時に沿道の声援が悲鳴に変わる。
今日一番の悲鳴だった。
ピストルの音を聞きその方向に顔を向けてから、もう1度野上を見た。
最後まで頑張る仲間の姿を心に刻んでおきたかったのだ。
中川は、気持ちを切り替え、チームの為に仲間の待つ大手町に走り出した。
野上は最後の直線に入って繰り上げスタートの号砲を聞いた。
目の前の仲間に渡すはずだった白の襷が、右手にぐるぐる巻きついている。
「襷を渡して、中川の背中を押すはずだったんじゃないのか‥」
その中川がどんどん遠ざかっていく。
「終わった‥」
それでも沿道の応援は野上の背中を押していた。
20秒間に合わなかった。
ゴールの白線を通過しても、
どこで走りを止めればいいのかわからなかった。
係員から声を掛けられ、スピードを緩めた。
それからアスファルトに崩れ落ちるのに時間はかからなかった。
同時に嗚咽がこみ上げてきた。
道路に横になると黒字に白抜きで「日体大」と記されたグローブで
顔を覆い、泣いた。
起き上がる力も奪われるほど、悲しみに侵されていた。
男性4人に担がれて運ばれたのも覚えていない。
それくらい泣きじゃくった。
周りからは健闘の拍手が沸いたが、よく覚えていない。

私の鼻の奥が「ツーン」となった。
野上選手は3年生。来年がある。
そのためにも、個人、チームが今回の経験をバネにして練習を積み
来春元気に出場して欲しいものだ。
正月、また感動を味わえた。


「泣きたくなるくらい悔しい。それは全力で一生懸命やった証」
野々村友紀子

「ひとつひとつの悲しみには意味がある。時には、思いもよらない意味がある。
どんな悲しみであろうと、それは、このうえなく大切なもの。
太陽がいつも朝を連れてくるように、それは確かなことなのですよ。」
ウィルコックス

陽はまた昇る
陽はまた昇る

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