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過去の放送分 過去の放送分 2006 11月11日 放送分
「イグノーベル賞はこんなに面白い」
コーチャー/寺門和夫さん(サイエンスウェブ編集長)
大村正樹&寺門和夫
大村正樹
ノーベル賞は有名ですが、科学者におくられるイグノーベル賞について、うかがいたいんですけど。
  わかりました。ノーベル賞は本当に有名ですね。これは科学者にとってはオリンピックの金メダルと同じ、最高の賞ですね。でも、イグノーベル賞っていうのはみなさんあまりご存知ないかもしれませんね。
大村正樹
イグってどういう意味ですか?
  ノーベル賞っていうものに対して、ある意味をつけたのです。ノーベル賞っていうのは科学の世界では最高の賞なんだけど、また別の観点から見た時に、それなりに意義があったり、こんな研究をしてる人がいるんだとか、こんな発明をしたとか、また別の価値観でノーベル賞と同じように栄誉を与えよう、そういった意味がこめられている賞なんですね。お金はたくさんもらえるわけではなく、まあ、一つの名誉でしょうね。
大村正樹
日本人で誰か受賞した人はいるんですか?
  みなさん一番よくご存知なのはカラオケだと思うんですけど、カラオケを発明した井上さんという方も受賞してますね。それから、バウリンガルという商品がありますね。これは犬と喋る事ができる機械です。これを発明したところにも賞が出てます。これは我々の日常的なものですね。
大村正樹
名誉じゃないですか。
なのになんでノーベル賞にならないんですか?
  例えば、バウリンガルですと、それなりの科学的な研究に基づき、犬がこういう感情を持ってる、こういう気分の時はこういう声だ、ということで一つの方法として相手をしゃべる。コミュニケーションの手段のひとつとなってるわけですね。ところが本当に科学的な根拠まで証明するとなると、ものすごく難しい話なんです。本当のノーベル賞というのは、そういったものが実験できちんと説明されない限りはもらえないんですね。だけど結果としてこういった商品やものができて、「こんなことができますよ」と社会的に話題になったり、あるいはみなさんの役にたったり、楽しみになったり、そういったことがあればそれでももらえる、という賞なんですね。
大村正樹
なるほど。世界に目を転じて、世界のイグノーベル賞、どんなものがあるんですか?
  いろいろあります。先ほど紹介しました、バウリンガルなんかは、言ってみればひとつの、「なかなか人が考えなかったものに挑戦したもの」なんですね。
それ以外にもいろんなユニークな研究をされてる方がたくさんいます。例えば「5秒ルールの研究」というものがあります。この5秒ルールって何かといいますとね、みなさん、我々もそうですけど、何かちょっとテーブルの上で物を食べてて、その食べてたものをちょっと落としちゃったりしますね。その落としたものを5秒以内に拾って食べれば、まだばい菌がついてないから大丈夫っていう。
ルーペくん
 
カラオケ
 
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大村正樹
えー!嘘(笑)!えっ!今どきの子やってる(笑)!?嘘!
  そういうルールがあるわけです。世界的にね。これは各国であるわけです。それが正しいかどうかということを検証した研究なんです。5秒間でばい菌がついてないかどうかを確認するっていう。答えは、やっぱりやめた方がいいと。
大村正樹
あははははははははは(笑)!
  やっぱりばい菌がつきますね。ただそのばい菌のつき方も、例えば食べてるものが、わりと濡れてるものと、乾燥してるものとで違いますね。それから床がどれくらい汚れてるかということによっても違います。
大村正樹
子供だってわかると思いますけどね(笑)。
常識じゃないですか(笑)。
  そうですそうです。でもね、それをちゃんと調べたわけです。例えば、こういう条件のときはどれくらいばい菌がついちゃう、とかですね。その結果でいうと、僕も当然だと思いますけど、一度落とした物は絶対食べない方がいいと思いますね。
大村正樹
(笑)それでイグノーベル賞取っちゃったんですか!?
  でもそれは一般に言われてたことを誰も実証研究してなかったんですね。それをちゃんと調べたという事に意義があるんですね。ですからノーベル賞と違うのはそういうところなんですよ。我々の身近にあることでも本当にそれが正しいのか、単に言われてるだけなのか、っていうことを実際に調べてみる、ということをちゃんとやる人ってなかなかいないんですよね。
大村正樹
なるほどね〜。言われてみれば当然だろ、って言われるけど、じゃあそれを、っていうことですよね。じゃあラジオを聞いている子供達にもチャンスありますね。
そうですね。疑問に思ったことを調べていけば。イグノーベル賞の一番の基本は発想ですね。どんなに奇抜な発想をするか、新しいアイデアを持ってくるか、それが受賞のポイントになります。中にはですね、ネイチャーという世界で最高レベルの科学雑誌に掲載されて、ずいぶん論議になったものもあるんですけど、基本的には選考の対象として、なんらかの形で学術的な成果として、まとまって、学会などで発表されたもの、あるいは発明品としてちゃんと世の中に出てるもの。そういったものでやってますから、単に誰かが思いついたからといって、受賞できる賞じゃないんですね。
大村:じゃあ研究者はそれなりに真剣にやってるっていうことですね。結果的に笑っちゃうけど、やってる方はごく真面目に、ということですね。あとは何かありますか?
寺門:あとはですね、今度はちょっと別の話になりますけど、キツツキという鳥がいますよね。木に穴を開ける鳥ですね。キツツキの穴の開け方、見たことあるでしょ?VTRとかであると思うんですけど、ものすごいスピードでカンカンカンカンと木にくちばしをぶつけて穴を開けます。あんなに激しく回数を重ねて木に穴を開けていく時に、キツツキって頭痛にならないのか。
大村正樹
あははははははははは(笑)!ちなみに1秒間に何回くらいですか?
  かなりのスピードです。1秒間に数回ですね。で、頭が痛くならないのかと。例えば、くちばしと頭は繋がってますから、木に頭突きしてるのと同じなんです。すると当然ながら、少し頭が痛くなったりすると思うんですね。
キツツキ
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大村正樹
みんなやらないでね。壁に頭ぶつけたりしないでね。
  これはやめた方がいいですね。でもキツツキはこれをやってるわけですね。どうしてかっていうことを研究した人がいます。これはですね、生物というのは非常に巧妙な仕組みを持っててですね、実際には頭は痛くなってないんですね。それがわかったわけです。それはどうしてかと言いますとね、またこれも不思議なんですが、頭の中の脳みそをどのように保護してるかということがありますね。頭蓋骨ですね。人間なんかは固い骨ですよね?キツツキの場合、クッションのようになってるんですね。若干スポンジのようになってるんですね。
大村正樹
木で打ちつけた時にその衝撃を吸収するようになってるんですね。
そこまでイグノーベル賞では調べたんですか?
  そうですね。そういうことが自然の仕組みとしてあるから、素朴な人はどうなるんだろうと思っても、実際にはキツツキは頭痛くなってないんですね。それを不思議だな、と思ってやっぱり研究してみる人がいるわけですよね。
大村正樹
そうですよね。でもきっとそれは答えが最初にわかったから発表できたんでしょうね。そこからキツツキが何回ぶつけても痛くならないと。
もちろんそうですね。当然のことながら、キツツキをちゃんと解剖した学者は沢山いると思うんですよ。ですからそういった人の材料を使いながら、ただ、発想の転換ですね。研究テーマとして「頭痛にならないか」というテーマで研究をした。「キツツキと頭蓋骨の研究」ではなくて、どうして頭が痛くならないのか。これも発想の問題ですよね。本当にアイデア次第です。
大村正樹
ある程度わかっている答えに対して入り口を変えるだけで、意外にイグノーベル賞のヒントがあるかもしれませんね。
  ありますね。ですからイグノーベル賞をもらった時には「あ、こんなことか」と思っていたことが、今になってものすごく脚光をあびる研究になっているんですね。
大村正樹
じゃあもう発表は終わってしまいましたけど、来年のノーベル賞の発表の時期にイグノーベル賞を是非注目してもらって、けしてばかばかしいものじゃないんだよ、のちのちに役立つサイエンスなんだよ、っていうことをわかってもらいたいですね。
どうしてかと言うと、ともかくいろんな新しいアイデアで、誰も考えてなかったアイデアで研究する人が沢山いるわけですね。そういった研究の中には、確かに全く意味のないものもあるかもしれません。けれども本当に役立つものも出てくるかもしれませんね。
大村正樹
今日のサイコーの寺門さんにも是非イグノーベル賞、取ってもらいたいですよ。
  というか僕は、これからの若い人に取ってもらいたいですね。
キツツキ
 
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