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過去の放送分 過去の放送分 2007 12月22日 放送分
「ウナギの話」(2)
コーチャー/井田徹治(てつじ) さん(共同通信社科学部)
大村正樹&井田徹治
大村正樹
いやぁ当たり前と思って食べていたウナギが、実に謎めいていたことを初めて知りました。先週の続きで、今ウナギが減ってて、やがては食卓から消えるんじゃないか。マグロもそうだしウナギもそうだと言われてるじゃないですか。何でですか?
何で減ってるかは分からないんですけれど、一番の理由は人間が、主に日本人ですけどウナギを食べ過ぎてしまった。
大村正樹
主に日本人なんですか?
  そうです。日本にいるウナギは「ニホンウナギ」と言うんですが、中国や台湾でも獲れるんですけど、そこのウナギも日本に輸出されてくるもので、大体世界の70%は日本人が食べています。
大村正樹
えっ! 世界中のウナギの7割を日本が!? これほど日本人が食べてばかりいる食べ物ってあります?
  マグロの刺身もたぶんそれぐらいだろうと思います。ただマグロはツナ缶にしたりしてもっと外国の人も食べるもので、比率で言ったら日本人が一番食べている魚と言えるかも知れないですねぇ。
大村正樹
世界中の魚の中で、日本人が一番割合として多く食べているのがウナギ! へぇ〜。ヨーロッパの人たちもそれを知っているんですか?
  ヨーロッパの人も知っています。アメリカの人も知ってます。
大村正樹
旨みを知っている人が「ヤツラが食べているから、やがてなくなるんだぜ」なんて、欧米の人たちは怒ってないですか?
  ヨーロッパもウナギ料理がすごく好きな人が一部にいて、そこで獲ったものがみんな日本に輸出されちゃったもので、日本人は我々の分までウナギを食べているんじゃないかと怒っている人もいるんですね。まぁ、ちょっとよく分からないですが、このままだと日本人が、「おまえは食べ過ぎだ!」と言われかねないかも知れませんね。
大村正樹
へぇ〜。でも、やっぱり美味しいですし、日本人の舌に合うんですかねぇ。
  そうですね。日本人としてウナギはどうしても食べ続けたい魚ですよね。
大村正樹
僕、井田さんに先週聞き忘れたことがありますが、ウナギとアナゴの違いは何ですか?
  仲間としては似てるんですけれど、アナゴは海の魚でもうちょっと小さいんです。ウナギは長生きして長く旅をしなくてはならないので、脂を体の中に蓄えるんですね。たぶん脂分はアナゴよりウナギが多くて、それでウナギのほうが美味しいのがいるんじゃないかという。まぁアナゴも僕は好きだし美味しいと思いますけれど。
大村正樹
軽くあぶってタレをつけて食べたら、ウナギもアナゴも余り変わらないような(笑)。
  すごく種類としては近いので。
うなぎ
 
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大村正樹
ウナギを食べているのは日本人が多いんだけれど、中国とか台湾でも食べますよね。ヨーロッパでも食べている。アメリカはどうですか?
アメリカじゃあまり食べないですね。
大村正樹
なぜですか?
  なぜか分からないですが、形が蛇に似ていて気持ち悪いじゃないかと言う人もいるんですけども。あまり食べないですねぇ。見るのも嫌だって言う人もいますから。
大村正樹
僕も蛇を蒲焼にして食べて美味しいって言われても、絶対嫌ですもの。それで、やっぱり伝統というか文化として認められてしまっているからなんですね。でもなくなるとは言え、養殖ものがあるわけですから大丈夫なんですよね?
養殖といっても、実は本当は養殖ではない。先週は卵を見た人がいないと言ったんですが、ウナギを実験室というか養殖所で卵から大人にまでするのはすごく難しいことで、まだそれが商売として成り立ってはいないんです。
大村正樹
でも浜名湖とか千葉のほうでも養殖をやってるではないですか。
  本当の人工養殖は技術的にすごく難しいもので、この前言ったようにグアム島から流れてくる小さいウナギの稚魚を獲って、それを養殖所で大きくするのを養殖と言っているだけです。
大村正樹
あっそうなんですか! じゃあ、ある程度でき上がったものを人間が獲ってきて生け簀の中に囲って大きくしてるのを養殖と?
  そうです。
大村正樹
本来の養殖の概念とはちょっと違うんですか?
  ええ、違うんです。本当の養殖は、さっきみたいに卵を獲ってそこから稚魚にして放流するなり養殖所に入れるなりするのを言うんですが、ウナギの場合は自然のものを獲ってきてるもので、自然のものがなくなったら養殖も成り立たなくなってしまうわけです。
大村正樹
そうなんですか。じゃあ、グアム島の近くの深い海の底からやってくるウナギが基本なんですね。どれだけ冷凍食品でウナギがいっぱい氾濫しても、基本は人間が作り上げたものではなく自然からやってきた、南の海から生まれたヤツを僕らが食べているわけですか?
はい。その分け前をもらっているようなものですね。自然の中で生まれたものを基に、いま人間が食べているウナギはすべて自然の中から育ったものなので、自然のものを大切にしないでダメになってしまうとウナギは食べられなくなる。
大村正樹
卵から大きくなったウナギを僕らは食べているわけで、成長の過程はどんな感じで?
  それがまたウナギっていうのは、すごく不思議なんです。この前、そばまで海流に乗って流れてくるというお話をしましたけれど。
うなぎ
 
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大村正樹
3センチから5センチで日本にやってくるんですよね。
  その前は数ミリの糸みたいなもので、だんだん大きくなると柳の細長い葉っぱのようにヒラヒラヒラヒラして自分ではほとんど泳げないんだけど、海流に乗って流れるにはすごくいい形なんですね。透明で天敵には見つからなくて、ぺっちゃんこでヒラヒラしているもんで海流に乗って泳ぎやすいという形をしている。
大村正樹
元々ミミズ状じゃないんですね?
  葉っぱ状です。ヒラヒラしたぺっちゃんこの柳の葉っぱみたいなので、長い間過ごすんです。それが海流に乗って日本のそばまで来ると、突然2週間ぐらいかけて姿をどんどんどんどん変えていって、平らなのがだんだん細くなって太くなって今のウナギのような形になる。そういう姿を変えるという、これも魚の中ではすごく珍しいことです。
大村正樹
へぇ〜〜。ウナギに関していろいろな謎の話を聞いたんですけれど、それ以外に謎はあるんですか?
  謎というのは、なぜ減っているかが一番の謎なんですよね。
大村正樹
食べ過ぎているからじゃないですか?
  食べ過ぎているからもあるんだけれど、それだけじゃなくて、食べ過ぎていないアメリカのウナギも減っているんです。
大村正樹
アメリカにもウナギがいる?
  別の種類のウナギがいるんですが、それも日本やヨーロッパのウナギと同じようにすごく減っているので、食べ過ぎだけが理由ではないだろうと言われています。川の環境が汚れた、水が汚れたとか、川の隠れ場所がなくなったとか、ダムや発電所ができたとか人間の活動が影響してウナギの住む場所が少なくなり減ってしまったんじゃないかという。ウナギの謎というか、それをどうやって元に戻すか復活させるかが分からない。
大村正樹
ウナギが大人になってから暮らす場所が減りつつあるのが、いまウナギが減少している原因なのではないかという?
  人間が食べ過ぎていることに比べて、もう一つの理由ではないかと。
大村正樹
なるほど。それが、井田さんの著書の『ウナギ−地球環境を語る魚』というタイトルの由縁につながってくるわけですね。
  そうです。ウナギは海で生まれて川で過ごして、また海へ戻ってという一生の間にすごく長い距離を移動しますね。その川から海までの環境がきちんと守られていないと、ウナギはなかなか生きづらいことになるから、ウナギがいるのはいい環境が保たれているという証拠とも言えますね。
大村正樹
勉強になりましたよ。そこまで聞かなければ、科学番組と言えませんからね。
  アハッハ、そうですか。
大村正樹
ウナギが旨いだのまずいだの、そういう番組ではないですからね。ありがとうございました。ウナギは「ニホンウナギ」って言われているけれど、中国や台湾でも学術名が「アンギラジャポニカ」と言われ「ニホンウナギ」というふうに決まっているんだって。だからみんなの食卓にあるウナギは全部「ニホンウナギ」という名前がついていて、養殖ものとは言え、どのウナギもみんな南の海のものすごい深い所で生まれた。何千キロも旅をして、みんなが食べるということをこれからよく意識すると、さらに興味も深くなってくるんじゃないかなと思います。
うなぎ
 
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