過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分 2008 1月26日 放送分
「海の生き物の話」(1)
コーチャー/佐藤克文さん
(東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准[じゅん]教授)
大村正樹&佐藤克文
大村正樹
さて、今日は問題があります。海の中の生き物の話です。みんな、ペンギン知ってるよね。ペンギンとクジラ、海の中ではどっちが速く泳ぐと思う? 答えはのちほど。サイエンスコーチャー略してサイコーは、遠く岩手県三陸海岸の近くからお越しいただきました。東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准教授の佐藤克文先生です。こんばんは。
こんばんは。
大村正樹
東大の先生なんですよね。東大の先生なのに岩手から来られたんですか? 毎日、岩手から東大に通っているんですか?
  いえ、東大の中に海洋研究所がありまして、その研究所の臨海実験所が岩手県のほうにあるんです。
大村正樹
なるほど。岩手に東大の研究所があって、普段はそこにお勤めなんですね。東大というから、あの文京区の東京大学と思いました。そういう頭のいい大学で教えてらっしゃる先生です。その先生が出している本のタイトルがすごいよ、『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』。計算できるかなぁ? 秒速2メートルということは1秒間に2メートル。60秒・1分間で120メートル、60分・1時間で7200メートル。ということは、時速7.2キロってこと? ペンギンもクジラも。ということですか、先生?
そうですね。
大村正樹
遅いじゃないですか。そんなに遅いんですか!?
  もともと言われている値に比べて、非常に遅い気がすると思います。
大村正樹
えっ、ちょっと待ってください。これはマックススピードで7.2キロですか?
  マックスではなくて、普段一番効率よく泳ぎたいと思う時に彼らが使っている速度、ちょうどいい速度が時速7.2キロなんですね。おそらく一番楽な、どこかに長距離移動する時に一番楽に動ける速度じゃないかと思っています。
大村正樹
ペンギンのほうが僕は速いと思ってたんですけれど、マックススピードだったらどちらが速いんですか?
  マックスだと大きな動物のほうが速いです。クジラだと秒数8メートルぐらいまでいきます。ということは、4倍だから時速30キロぐらい。でも、それは数秒間しか持続しないですね。
大村正樹
ペンギンは時速30キロ出ないんですか?
  えーと、ちょっと無理ですね。
大村正樹
じゃあ、陸上選手の末續慎吾(すえつぐしんご)選手のほうが速いということですよ。本当ですか〜!? え〜、知らなかった。じゃあ、アメリカの陸上選手、ゲイのほうが速いんですね。ペンギンよりゲイが速いってことことなんですね。何でこれが分かったんですか?
直接それを測定する装置を動物につけて調べた結果です。
ペンギン
 
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大村正樹
いわゆるスピードガンで測ったとかではなくて、動物に機械をつけた。何という機械ですか?
  それはデータロガーという機械です。日本語にすると記録計ですね。これは、望遠鏡とか顕微鏡・・・。例えば、望遠鏡ができたことによって天文学が発達した。あるいは顕微鏡ができたことで生物学が発達した。科学の歴史は、道具が、何か新しいものができるとポンと発達するという歴史があります。その望遠鏡とか顕微鏡に匹敵するぐらい重要な装置なんです。
大村正樹
すごい装置を先生がつくったんですか?
  私自身ではないですけれど、私が所属していた研究グループで、ずーっと20年ぐらいかけてつくってきたものです。
大村正樹
へぇ〜。データロガーを海の生き物に取りつけたことで、生態系とか速度とか、いろいろなことが分かったということですか?
  そうです。直接調べることがようやくできるようになった。
大村正樹
データロガーの写真が先生の著書にあったんですよ。懐中電灯がついたり、天体望遠鏡みたいなものをつけたり。
  そうですね。
大村正樹
動物的にはウザクないですか? よく大きさが分かんなかったのですが。
  これでも相当小さくなったんです。世界で一番小さい装置です。一番小さいのが小指サイズ。大人の小指サイズです。
大村正樹
へぇ〜。それがペンギンにつけられても、ペンギン的にはウザクないんですね。
  聞いたことがないので分からないんですけど、たぶんそんなに嫌じゃないだろうと思っています。クジラにしてもクジラからすれば、もう何十倍も大きな体ですから、蚊がとまったぐらいにしか感じないんじゃないかと思いますけどね。
大村正樹
データロガーを海の生き物につけて最大の発見は何だったんでしょうか?
  つけるごとに全く予想もしなかった発見があるんですけれど、ひとつはさっき言った秒速2メートルで泳いでいたということです。そして、私が一番最初につけた時に一番驚いたのは、動物の体温に関する発見だったんです。
大村正樹
動物の体温。人間だったら36度前後ですね。
  人間はいつ測っても36度となってますよね。人間は哺乳類ですけれど、アザラシとかクジラとか・・・。
大村正樹
インフルエンザで苦しんでいるキッズは「俺、40度だよ」と思ってますよね。
  それでも2、3度の範囲内であって、鳥とか哺乳類はある一定の温度で保たれている恒温動物ということになっています。
クジラ
 
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大村正樹
体温が変わらないのを恒温動物。
  そうですね。それに対して、それ以外の動物、魚とかトカゲとかカメといった爬虫類(はちゅうるい)、その他の動物は変温動物。体温が変化する変温動物。体温が2度3度の範囲じゃなくて、もっと激しく10度も20度も変わっちゃう。そういう動物だと中学校で教わるんですね。私自身、中学校の時にそういうふうに教わってました。ところが、私が一番最初に記録計をつけたのがウミガメだったんですが・・・。
大村正樹
ウミガメということは爬虫類? ということは変温動物。
  変温動物のはずだと思って、お腹の中にそのデータロガーを入れて体温を連続的に測定してみたわけですね。そしたら、これが一定だったんです。
大村正樹
本来ウミガメは変温動物と学者さんはみんな思っていたけれど、先生がそれをつけたらウミガメは体温が一定だった。
  そうです。夏に産卵所に上がってくるウミガメに機械をつけて離してやったんですけど、そのあとウミガメは海に帰ります。海の中で水面を泳いでいたかと思うと、時々潜るといった潜水行動してたんですね。私たちも例えば海で泳いでいる時に、腰から下だけ妙に寒い、冷たいことがありますよね。大体、海の水は表層が温かくて下が冷たいということになっているんですけれど。
大村正樹
上のほうが温かくて下のほうに行けば行くほど冷たい。お天道様の光があるからですね。
  まぁ、一番おおもとを言えばそうですね。カメが一時的に水中にパッと潜ると、カメの背中で記録した水温はものすごく下がるんです。これは冷たい水のある深い所に潜っていくからですね。ところが、カメのお腹の中の温度、体温は全然変わってなかった。
大村正樹
何度ぐらいだったんですか?
  大体、水温から2、3度高い25度ぐらいの温度だったんです。私は当然ウミガメの体温も背中の水温変化と一緒に変わるもんだとばかり思っていたんですね。それが全然変わらなかった。一定だったということですね。
大村正樹
それは大発見だったんですか? 世界的に見ても初めての発見だったんですか?
  私はけっこう興奮しましたねぇ。このことを理論的に予測した人はいたんですね。恐竜の研究者です。
大村正樹
恐竜の研究者が? へぇ〜。
  恐竜というのは爬虫類の一種だとなってますけれど、もう絶滅してますからこの世にいませんよね。だけど、いろいろ難しい理屈を計算すると、あれだけ大きな体だったから体温はかなり一定だったんじゃないかと理論的に予測した人はいたんです。で、私が実際に測ってみたら本当に一定だったんでビックリしたんです。
大村正樹
いま話を聞いたのは、たぶんラジオを聴いているキッズたちもやろうと思えばできるかも知れないですね。
  まぁウミガメが大きいので、子どもの力で押さえられるかどうかという問題はありますけれど。
大村正樹
すごい! これまで当たり前と思っていたことが、そのデータロガーによって覆されたということですよね。
  それまでそれを測定する手段がないから、何となく陸上のトカゲとかと同じようにウミガメだってきっと体温は結構大きく変化しているに違いないと、みんな思い込んでいたんですね。ところが、実際測ってみたら違ってた。これは非常に面白いとこですね。
大村正樹
先生、来週またもっと深い話を伺ってよろしいですか? 海の底よりももっと深い話をよろしくお願いします。
  そうですね。ぜひ!
ウミガメ
 
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