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過去の放送分 過去の放送分 2008 4月19日 放送分
「万能細胞の話」
コーチャー/寺門和夫(科学ジャーナリスト)
大村正樹&寺門和夫
大村正樹
今日のテーマはみんな聞いたことあるかなぁ? 万能細胞(ばんのうさいぼう)という言葉。ニュースや新聞では出てきてる言葉でキッズたちにはまだ早いかも知れないけれど、みんなが大きくなったら、この万能細胞によっていろいろな病気が治っちゃうかも知れない。そういう夢のようなお話です。細胞というのは小学校高学年ぐらいで習うと思いますが、細胞は簡単に言うと何ですか?
寺門和夫 細胞は言ってみれば、私たちの体をつくっている一番小さな単位ですね。つまり、私たちの体も細胞がたくさん集まってできているわけです。その体も元はと言えば、お母さんの体の中で1個の細胞からスタートします。それが細胞分裂を行なって2つになり4つになり8つになり増えていって、ある程度増えた段階で、この細胞は将来皮膚になります。それから、この細胞は将来心臓になります。あるいは脳の神経になります。――というふうにだんだんと分かれていって分業が始まって、そして赤ちゃんの体ができていくわけです。
大村正樹
もともと人間の細胞は1つだったんだけど、それが分裂して髪の毛になったり爪になったり目になったり口になったり変わってくるわけですか?
寺門和夫 そうです。人体の設計図というのは、よく言うDNAというもの。この中に書かれているわけですけれど、すべての細胞の中にDNAが入っていて、そのDNAの中には人間の体を全部つくるだけの情報がすべて書き込まれています。
大村正樹
DNAは遺伝子ということですね? 1つの細胞に全部遺伝子、DNAが入っているんですか?
  寺門和夫 そうです。遺伝子の集まりと考えてもいいです。だから本来1つの細胞の中には、どの細胞にもなれる設計図が全部入っているんです。
大村正樹
なるほど。今日は万能細胞の話に入っていきたいんですが、細胞のことは分かったけれど、万能は辞書で引くと「すべてに効果があること」とか「すべてに効力があること」ということで、すべてに活かされる細胞という意味ですね。
寺門和夫 この場合の万能というのは、いま申し上げたように大人になった人間の体の細胞は全部役割を持っているので、形も違うし働きも違う。ですから、神経細胞みたいに細長くなったものもあれば、心臓のように脈動している細胞もあります。そういうふうに大人になった細胞は役割が決まっている。
大村正樹
成長した後は分裂して終点に来るということですね。
  寺門和夫 そうするといろいろな種類の細胞があるわけですが、万能細胞はそれの元で、つまりどんな細胞にもなれる能力を持った細胞という意味です。
大村正樹
生まれて間もない細胞、お母さんのお腹の中にいる段階のことですか?
  寺門和夫 そうです。生まれてから人間の体ができてくる初期の段階で、細胞分裂が起こっている時にはそういった細胞が現れて、それがだんだんと大人の細胞になっていくわけです。
大村正樹
それを取り出して何かに役立てようという話ですか?
  寺門和夫 それはまた別な話ですが、いずれにしても人間の体は、一番最初は何でもなれる細胞からつくられていくわけですね。ところが、何にでもなれる細胞はなかなかできない。つまり、大人の細胞になってしまうと役割が決まっているので、その細胞の中には自分の体1個分をつくる情報が含まれているんですけれど、自分の役割以外の働きをする情報は働かなくなるようになっている。
大村正樹
爪になっちゃったら元には戻れないわけですね。
  寺門和夫 ところが、京都大学の山中先生というグループの研究では、皮膚から取り出した細胞、これは大人の細胞なので皮膚の役割をする細胞になってしまっているんですが、ある方法を使うと戻ってしまう。何にでもなれる細胞に戻ってしまうことができたんですね。
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大村正樹
山中先生がそれまでの常識を覆したんですね。万能細胞ってそういうことなんですか。
  寺門和夫 そうなんです。どんな細胞にもなれる細胞という意味です。それでいま非常に話題になっているわけです。
大村正樹
じゃあ、いったん皮膚という終着駅、終点まで来たんだけど、そこから元に戻してあらゆる可能性、もしかしたら皮膚じゃなくて心臓になるかも知れない。あるいは胃になるかも知れないという細胞に戻すことが可能だということが分かった。それはどういうふうに活かされるんですか?
寺門和夫 ここから先はいろいろな利用の仕方があると思いますが、やはり一番大きいのは医学の分野ですね。治療に使える可能性が高いわけです。
大村正樹
何の治療ですか?
  寺門和夫 例えば、心臓の筋肉が固まってしまう心筋梗塞という病気があります。心臓の筋肉の細胞が一部死んでしまい心臓の働きが落ちてしまう。例えば、こういったところに万能細胞を注射して、そこで一度死んでしまった細胞の代わりにもう一度そこで万能細胞が心臓の細胞になってくれれば、心筋梗塞になった心臓はまた元に戻るわけです。
大村正樹
もうそれは実験などを行なって戻ると分かったんですか?
  寺門和夫 基礎研究ではまだそこまではいっていませんが、その万能細胞がいろいろな体の細胞に成長していくことは、だんだんと確かめられてくるようになりました。ですから、これからはもっと研究して実際に医学に使えるように実験を繰り返していかなければいけませんが、そういう可能性を持った細胞をつくりましたというのが今回の非常に大きな成果ですね。
大村正樹
それが最先端の医療技術として浸透したら、心筋梗塞で倒れる人はいなくなるということですか?
  寺門和夫 そうですね。なかなか難しいとは思いますが、予防はできないので亡くなった時に何らかの方法で死んだ細胞をもう一回再生させる、組織を再生させることができる細胞ですね。そういった意味で、そういう医療を再生医療と呼んでいます。つまり、失われた細胞を再生させて病気を治してしまう。
大村正樹
そうすると他の病気でも――いまのは心臓の話ですが、日本人の死因トップのガンで、そのガン細胞に侵された部分に万能細胞を入れてガンが治るとかはどうなんですか?
寺門和夫 いろいろな役割をする細胞がありますね。その中にはガン細胞をやっつける細胞も人間の体は持っています。例えば、そういった細胞に万能細胞を成長させれば、ガンをやっつけることができるかも知れません。それから、神経の組織がこわれてしまい、いろいろな病気になる人がいます。そういった人たちにもその神経の組織になるような万能細胞を成長させてあげれば治るかも知れない。
大村正樹
へぇ〜。僕たちが生きている間にそれは可能になりますかねぇ?
  寺門和夫 これは分かりませんね。ただし、いま話しているのは夢のような話ですが、実際に日本をはじめアメリカやヨーロッパで万能細胞を使った再生医療の研究は、ものすごいお金をかけてものすごい体制で進んでいるんですね。ですから、意外と早くそういった治療が実現する可能性もあるんじゃないでしょうか。
大村正樹
そうですか。僕はいま人生の半ばですよ。寺門さんは僕よりもお兄さんですから、あと20年若ければよかったと思いませんか?
  寺門和夫 そうですね。それぐらいだったら可能性があるかも知れませんね。
大村正樹
ですよねぇ(笑)。スタジオのラボの周辺で、ディレクターでもベテランの人が「そうだ、そうだ」という顔をされています。若いディレクターの方は「俺は大丈夫だ」という顔をしています。“悲喜こもごも”というところですねぇ。ここのところ医療現場をテーマにしたテレビ番組やドラマも増えていて、たぶんみんなも手術するシーンとか心臓の病気を患った人をスーパードクターが治すようなドラマを観たことがあると思うけれど、ひょっとしたらああいう大手術をしなくてもよくなる時代が来るかも知れないということだよねぇ。それまでちゃんと元気でいなくちゃな。
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