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過去の放送分 過去の放送分 2008 8月23日 放送分
「ヤマメがニジマスを生む話」
コーチャー/吉崎悟朗さん(東京海洋大学准教授)
大村正樹&吉崎悟朗
大村正樹
キッズのみんな、こんにちは。オリンピックもそうだけど、夏休みももうすぐ終わっちゃうねぇ。宿題は大丈夫?さぁ今日のテーマは体長約23センチのヤマメが、体長約30センチのニジマスの卵を産むというお話し。その辺り、今日のサイコーの東京海洋大学准教授の吉崎悟朗先生に聞いてみよう。先生、こんにちは。
こんにちは。
大村正樹
よく“トンビがタカを産む”と言いますが、ヤマメがニジマスを産むというのはどういうことですか?
  そうですね。ヤマメとニジマスは、実は遺伝的には人とチンパンジーの1.5倍ぐらい離れてる魚で、かなり種類の違う魚です。
大村正樹
チンパンジーが人を産むというより、もっと遠いことなんですね。
  でも実際にヤマメを代理のお父さんお母さんとして、すでにニジマスが生まれています。
大村正樹
大きいのがニジマスで、小さいのがヤマメ。じゃあ、小っちゃい親から大きい子が生まれたということですね。ちなみに、これは何のための研究ですか?
私たちは絶滅しそうな魚や、人が獲りすぎて数が減ってしまった魚を元通りに増やしたいと考えています。
大村正樹
ニジマスは数が減っているんですか?
  ニジマスはあくまでもモデルです。いま実際には、アメリカで絶滅しそうなシャケの集団を守るためにこの技術を使ってます。
大村正樹
具体的には、どうやってヤマメがニジマスを産んだんですか?
  まず私たちは、ニジマスから卵と精子の元になる細胞を取ってきました。これをヤマメに移植したわけです。ただ普通に移植すると、別の種ですからこの細胞は免疫で全部拒絶されちゃいます。
大村正樹
お腹に入れてもヤマメのほうが「やだよっ」って、細胞が死んじゃうんですか?
  そうです。だから私たちは免疫能力が非常に低い、生まれたばかりのヤマメの赤ちゃんに細胞を移植することをやってみたわけです。人で言うと胎児みたいな時期ですね。その時期だと、別の細胞だって分からないので拒絶しない。そこがすごく大切なポイントだったんですけど。ただ、生まれたばかりの赤ちゃんはすごく小っちゃいんで、卵巣や精巣には直接注射することができなかったんです。そこで私たちは、ヤマメの赤ちゃんのお腹の中にニジマスの細胞を、ガラスのすごく細い針で注射してみました。
大村正樹
ニジマスの細胞は目に見えるものなんですか?
  顕微鏡でないと見えないですね。
大村正樹
どんな形をしているんですか?
  それは本当にまん丸い細胞で、ヤマメのお腹の中に移植してあげると、アメーバみたいに変幻自在に形を変えながらヤマメの卵巣や精巣に向かって歩いていくんですね。
大村正樹
卵ではなくて、細胞の方を移すわけですね。
  すごく小っちゃな0.02ミリぐらいの細胞です。その細胞をヤマメのお腹に移植すると、ヤマメの卵巣や精巣が「こっちに来なさい」、「こっちがあなたのお家だよ」とシグナルを出すんです。ニジマスの細胞を迎え入れるわけですね。最終的にはヤマメの卵巣や精巣の中にポーンと飛び込んで、そこでニジマスの卵や精子をつくる。そういう技術です。
大村正樹
ちょっと待ってください。生まれたてのヤマメが、いきなり親になる準備としてニジマスの細胞を体内に入れるということですか。生まれたばっかりなのに、「まだ親になりたくないよ〜」と言ってるかも知れませんけど、その下準備を先生がなさったんですか?
親になるのは2年後とか3年後ですけど、その準備は卵から生まれた直後にしてあげなきゃいけないわけです。
ヤマメ
 
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大村正樹
へぇ〜。でも今の話は人間にはタブーですよね。やってはいけない。お魚だからできた。
  そうです。
大村正樹
実際、そのヤマメはヤマメとして育つのに、卵はニジマスの卵を産むということですか。ということは、ヤマメのお腹から生まれた卵からは、ニジマスがかえるんですよね。「お父さんお母さん、俺より小っちゃいなぁ」って言うわけですか。
私たちは、生まれてきたニジマスを使って、色々な方法でDNA鑑定をやったんです。それこそ最近よく聞く、犯人探しの時のような。どんなにDNA鑑定をやっても、生まれてきた子どもは間違いなくニジマスだということを証明しました。ヤマメの遺伝子は全く入ってない。
大村正樹
すごい! これはどのぐらいすごい研究ですか?
  どれぐらいすごい? それは難しいですねぇ。私たちにとっては、かなりシビレた研究ですけれど。
大村正樹
そうですよね。たぶん世界中の研究者がやろうとしてたものではないですか?
  こういうことは、牛や豚の研究をしている人たちとか、あるいは基礎生物学の研究者たちも目指していたんですね。なぜ私たちがうまくできたかというと、先ほどお話した生まれたばかりの赤ちゃんを使うということ。もうひとつはお腹の中に細胞を移植しても卵や精子の元になる細胞が歩けるということを見つけたこと。あと、もうひとつは材料にヤマメを使ったことが実はすごい大きなポイントなんです。
大村正樹
ニジマスに対してヤマメということですか?
  そうです。これはなぜかと言うと、ヤマメの卵はサケの卵と同じぐらいの大きさなんですね。
大村正樹
ヤマメは小っちゃな魚だけれど、お寿司屋さんのイクラみたいな大きさの卵を産むんですか?
  はい。ですから卵から生まれた赤ちゃんも、だいたい大きさが1.2センチから1.5センチぐらいで比較的大きいんです。この魚には、お腹の中に注射するのが比較的に楽だったわけです。
大村正樹
赤ちゃんが大きいから。
  はい。例えば、哺乳動物だったら同じ発生段階は胎児ですから、子宮の中で移植をしないといけない。これは、子宮の中だからすごく大変ですよね。魚でも他の魚だったら、卵の大きさが普通はタラコや数の子みたいにすごく小さいですから、そういう魚でやると実験ももっと小っちゃくなって大変です。でもイクラみたいな卵を産むヤマメを使ったということが、われわれが最初にできた大きな理由だと思います。
大村正樹
なるほど。やがては魚屋さんのニジマスも、ヤマメのお腹から生まれたものが出てくる時代が来るかも分からないですよね?
  そうですね。でも先ほどもお話しましたけれど、この技術を使ってたくさん魚を食べるというよりも絶滅しそうな魚、数がすごく少なくなった魚を増やしてあげたいなというのが、私たちが最初にやりたいことなんです。将来的には、マグロやタイに応用するとか色々な魚に応用できると思うんです。だから近い将来、もしかすると何十種類もいる養殖魚の中のお父さんお母さんは、2、3種類の限られた魚だけという日が来るかもしれないですね。
大村正樹
ちょっと待ってください。あっという間に時間が来てしまいました。この研究はまだ成功してないんですか?
  まだですね。
大村正樹
みんな、分かった? これはすごい話なんだよ。吉崎先生が言ってたけど、赤ちゃんのお腹の中に他の動物の遺伝子、細胞を入れたら育まれるんだって。すべての生き物に当てはまるかどうかは分からないんだけど。こうやってすごい研究も進んでいくんですねぇ。何か僕もこれをヒントに考えたいなぁ。
ニジマス
 
川
 
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