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「涙の話」(1)
コーチャー/有田秀穂さん(東邦大学医学部)
大村正樹&有田秀穂
大村正樹
キッズのみんな、こんにちは。お正月や新年度は気分が切り替わるねぇ。4月は新しい出会いがあったり・・・。逆に3月は別れが多いけど、そういう時に涙を流したキッズはいる?あるいはお父さんやお母さんたちいる?今日はその涙を科学したいと思います。涙って実はものすごく身体にいいんだって。特に現代人の抱える問題には。今週のサイエンスコーチャー(サイコー)、東邦大学医学部の有田秀穂先生に聞いていきましょう。こんにちは。
こんにちは。
大村正樹
有田先生は脳の専門家?
  そうです。
大村正樹
今、僕の手元に『脳からストレスを消す技術』という本があるんですが。
  その本、私が出しました。
大村正樹
子どもたちは別としても、世の中の人はみんな色々とストレスを抱えて生きてるわけですが、先生は脳からストレスを消す技術をご存知なんですね。
専門の立場から「いい方法がありますよ」と。
大村正樹
なるほど。本の中に「ストレスは涙の力で解消できる!」とあるんですが、僕が仕事で伸び悩んでストレスを感じてしまったら、泣けばいいということですか?
それはちょっと違うんですよ。
大村正樹
違う?
  もちろんストレス解消のために泣くのはいいんですが、人前で泣くことは結構難しい。泣けば、その涙は必ず「自分にはものすごくストレスがある」というメッセージを相手に伝えることになりますから。そういう意味でも親しい人か一人で泣くのがお勧めです。
大村正樹
自分一人でひそかに泣くことによってストレスを解消する?
  そうです。でも、一人で泣く時はひそかにではなくて、おいおい号泣するのがいいんですけどね。
大村正樹
そうですか。
  私たちは色々な理由で泣きます。その理由は赤ん坊から大人になるまでの間に、意外に色々と変わっていくんですよ。
大村正樹
ええ。
  赤ん坊は言葉がしゃべれないから「お腹がすいた」とか「オムツが濡れた」という一種の軽いストレスを、お母さんや周りの人に涙を流すことでメッセージとして伝えているんです。
大村正樹
なるほど。赤ちゃんが泣くこともストレスを解消するためのメッセージなんですね。分かりやすいですねぇ。
  だんだん言葉が使えるようになると、「そんな程度のストレスを涙で伝えるな」「そんなことで泣くのはやめなさい」というふうに教育されます。ところが子どもになってもどうしても泣いちゃう、というのが『悔し涙』です。子どもってだんだん自我ができてきて・・・。
大村正樹
痛いから泣くとかがなくなってきて、小学校の高学年ぐらいになると悔し涙で泣くんですか。確かにそうかも。
  試合で負けたとか、誰かにいじめられて悔しいというような状況で泣くのは、まだありなんです。それは子どもの時に流す涙で、やっぱり泣くことによってストレスを解消しているから。
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大村正樹
確かにそうかもしれませんね。
  でもそれすら僕ら大人になると、「そんなことで泣かない」、「大人になったらそんな泣き方はしない」というふうになるんです。とはいっても、大人になっても泣きますよね。例えば、オリンピックの選手が表彰台に上がった時。
大村正樹
あぁ、泣く泣く!
  もらい泣きするでしょ?あれは一種のうれし泣きというか、感動の涙なんですよ。
大村正樹
スポーツの素敵なシーンを見て泣くのは、感動の涙。それもストレスに関係ある?
  それは『うれし泣き』のはずです。あることをやり遂げて思わず泣く時って、やっぱりそれなりのストレスをじーっと我慢してきたはずでしょ。
大村正樹
選手の涙はそうですね。そうかぁ。
  だからそうやって我慢してきてやり遂げた瞬間に、思わず出てくるわけ。体の中というか脳の中にいっぱいたまっていたストレスが、うまく行った時に完結して思わず涙となってあふれちゃう。
大村正樹
やり遂げたまでのストレスを一気に涙で流すということですね。
  そうです。だから涙が出た時は、その人の今までのストレスや苦労が報われたことになりますよね。
大村正樹
僕は素人だから、感動して泣いてる選手を見ると「ほんと、よくやったなぁ!」と思ってたんだけど、先生は「それまで選手の背景にあったものが涙なんだ」という違った角度からご覧になっていたんですね。
ええ。
大村正樹
映画を観て感動するのは、ストレスに関係あるんですか?
  それはストレスというより、『もらい泣き』ですね。その場合は痛かったりストレスがかかっていたりするわけではないです。にもかかわらず泣いてしまうのは、自分が見たり聞いたりしている相手に対して、私たちが自分の気持ちを共感させる能力を持っているからです。
大村正樹
はい。
  共感能といいます。共感する能力が、涙の引き金になるんです。私たちの研究がそれを明らかにしてくれました。共感する能力は人間が備えているもので、言葉ではなく相手の身振りや表情とかちょっとした動作から「あっ、今この人こんなことを感じてるな」と、推測する能力のことです。
大村正樹
はい。
  これは人間だけが持っています。
大村正樹
へぇ〜。
  実は、共感脳が涙の引き金になる脳でもあったんです。私たちは映画を観る時、登場人物の心の状況を感じながら観続けますよね。そして、だんだん相手の気持ちが分かってきて共感が起こってくる。そうすると、脳の共感する部分に血液がいきなりバーッと増える。増えると泣くんです。
大村正樹
そういうことを研究で調べられて。共感脳の血液が一気に増えるというデータもあるんですか?
  あるんです。
大村正樹
そうすると泣く。
  そう、スイッチは共感脳なんですよ。
表彰台
 
涙
 
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大村正樹
共感脳はおでこのどの辺にあるんですか?
  ちょうど真ん中、おでこの後ろ。ここを“第三の眼”というんです。
大村正樹
へぇ〜。共感脳はこめかみにはないんですか?
  こめかみじゃない。こめかみは、どちらかというとストレスの脳だからね。
大村正樹
でも、映画や感動的なものを観て泣くのは、ストレス解消につながるんですか?
  泣くという行為はどういうことかというと、涙のスイッチが入ったとしますね。泣くまではストレスがあったとしても、泣いてる最中はストレスを解消する神経が働き出す。
大村正樹
ほぉ〜。
  人間の体はストレスに関係する交感神経と、リラックスに関わる副交感神経の2つでバランスをとっていますが、リラックスする時の副交感神経が涙を流す神経なんです。
大村正樹
ふ〜ん。
  涙が出れば出るほど、「リラックスしろ」という指令がたくさん出ているか、ないしは脳がリラックスした状態にあるといえます。
大村正樹
そう考えると第三者がいない一人のほうが、泣いてる時にストレスが一気に解消されるような感じがしますよね。
  そうかもしれない。
大村正樹
すごいまじめに先生がおっしゃるから、ちょっとビックリしてるんですけど (笑)。
  ハハハハ。
大村正樹
笑うより泣くほうがいいんですか?
  僕らも笑いと泣きの比較をしたことがあるんです。涙が脳をリセットしてストレスを解消する力、――笑いは大体1分に1回ぐらい笑わないと解消能力がないんですが、ともかく泣くまでには5分10分の長いストーリーがなくちゃいけないし、泣き出すと数分泣いているわけです。号泣するでしょ?
大村正樹
はい。
  そうすると、大体1週間分ぐらいのストレスが取れるといいますよ。
大村正樹
うわっ!ちょっと待ってください。あっという間に時間が来ちゃいました。泣きと笑いに関する話や、もっと深い人間の脳に関する話をまた来週伺ってよろしいですか?
はい、どうぞ。
大村正樹
よろしくお願いします。先生、短かったですよね。
  そうですね(笑)。
大村正樹
今週のサイコーは、東邦大学医学部の有田秀穂先生でした。ありがとうございました。ほんとに僕はよく泣いちゃうんで泣くことは恥ずかしいことかと思ってたけど、ストレス発散で泣くのもありなのかな、とよく分かりました。気になるのは、笑うよりも泣くほうがストレスの解消にはよいってこと。これ、来週もぜひ聴いてください。
おでこ
 
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