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「クモの秘密」(2)
コーチャー/梅林力(元教員・日本クモ学会会員)
大村正樹&梅林力
大村正樹
キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。ゴールデンウィークが終わって、今週1週間ずっと学校でしょ。何かあらためてきついよね、結構。でも、頑張っていきましょう。さぁ、今日もクモの話を聞いていこうと思っています。先週はクモの糸の話ばかりを聞いていましたが、実はクモそのものの生き方も非常に興味深い世界だそうです。
大村正樹
今週のサイコーも先週に続きまして、日立ハイテクの電子顕微鏡を使ってクモの研究をされている梅林力さんです。こんにちは。
こんにちは。
大村正樹
先生、実は先週聞き忘れたんですけど、クモの糸って人がぶら下がるには何万本とか何十万本分ぐらいあれば可能ですか?
  私の仲間に調べた人がいまして、何十万本とか言ってましたけど、吊り下がることはできるようです。実際に50キロぐらいの人がぶら下がっている写真もありますし。
大村正樹
そうなんですか。クモの糸に?
  はい。
大村正樹
先生は糸の専門家ではなくて、どちらかと言うとクモの専門なんですよね。先週は、専門外の糸の話ばっかり聞いちゃいましたけど、今週はちゃんとクモの話をうかがいます。先生は先週、実はあれは巣じゃなくて網だとおっしゃっていましたが、網にかかった獲物を食べて生きているんですよね。
そうです。
大村正樹
どうやって? いきなり網にひっかかった虫などを襲って食べちゃうんですか?
  あばれている虫がいると危ないですから糸で巻いてから、というふうに糸を使いますね。糸でグルグル巻きにして動けなくなった虫を食べます。
大村正樹
あばれる虫の動きを止めちゃうぐらい糸の力が強いということですか?
  そうですね。クモの糸はかなり丈夫だと思います。そして、虫を巻く時の糸は、僕が数えた限りでは1,000本から2,000本でグルグル巻きにしているので、かなり大きな虫でも動きが止められてしまうんです。
糸で巻いている
 
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大村正樹
先週、1本の糸は実は2本の糸からなっているという話だったんですが、1,000本から2,000本ということは、クモはその獲物の周りを500周とか1,000周してがんじがらめにしているということですか?
というより、足でグルグルと虫のほうを回して糸にからめていく、綿あめ方式ですね。
大村正樹
糸巻きみたいな原理で、獲物そのものをクルクル回転しながらからめていくということですか? すごい。そういうのを実際見たことあるんですか?
ありますよ。
大村正樹
僕はないなぁ。
  クモは足が8本あるから、網につかまった残りの足で虫をグルグル回すとか、そういうことに使えるわけですね。
大村正樹
へぇ〜。その糸でガチガチに固めて獲物を食べるんですか?
  そうです。
大村正樹
へぇ〜。クモの糸は、ほかに何か獲物を殺しちゃう効果とかあるんですか?
  クモの糸そのものには毒はないです。クモ自体は虫の動きを止めるための麻酔薬を牙から注入しますから、その麻酔薬が効けば虫の動きが鈍くなります。
大村正樹
それで食べるのですか?
  カマキリみたいにガリガリムシャムシャという食べ方は、クモにはできないんです。ただ、アゴがありますから、それで噛み砕くことで消化しやすく細かくして、消化液を口から出して溶かします。その溶けた部分の栄養だけを吸い取るという食べ方をします。ですから、人間や他の虫がお腹いっぱいに食べるのとちょっと違って、ストローで何かを十分に飲むという感じになりますね。
大村正樹
僕らは胃の中で消化してますけれど、クモは網の中で獲物を事前に消化して、ストローでおいしいところだけを吸っちゃうということですか?
  そういうことですね。
大村正樹
へぇ〜。
  私たちはお腹の中、消化器官の中でやりますけれど、クモの場合は体外消化、体の外で消化して栄養分だけを吸い取るという非常に効率のいいことをしています。
大村正樹
だから、クモは太らないんですね。余分なものを入れなくて、そのクモに必要な栄養だけをいただくということですか?
  そうですね。消化できない昆虫の硬いカラを食べても結局無駄ですから、そういうものは初めから食べない。それで栄養になるところだけを溶かして飲むということです。
大村正樹
じゃあ、クモの網をよーく見て、変な虫の残骸とかカスがあったら、それはクモも「食べたくないよ」と言って残したものと見ればいいんですね。
  そういうことですね。食べにくいものとか食べられないものとかありますから。それから、「好き嫌いがあるか?」とよく聞かれるんですけど、これは余りよく分からないんです。カメムシのような匂いの強いものを嫌うような面も見られないことはないですが、いつでもそうかと言うとそうでもない。お腹が空いていたら、臭いものでも我慢して食べるかどうか、その辺はまだ十分研究していないんですけどね(笑)。
大村正樹
そうですか。先生、クモのこと何でもご存じですね。クモがこんなに好きな方って珍しくないですか?
  少ないと思います。クモは日本では昔から悪者扱いされていましたから、昔の芝居などでもそうですけれど。見た目も余り良くないので人間に嫌われてきたようですね。でも家の中にいるクモは、ダニや家の中に入ってきた蚊など色々なものを食べてくれますし、害虫というより益虫なんですよね。
大村正樹
有益な虫ということですか?
  そうです。ですから、クモを嫌うことは決してしないほうがいいと思います。
大村正樹
家の中にクモが飛び込んできて、よく糸をお尻からピーッと出しながら下りてくると「うわっ、クモ!」と言って殺生しちゃうけど、それはそれで“いてもいい”ということですか?
はい。地方へ行きますと、足を広げて10センチ以上にもなるアシナガグモというのがいるんですが、これなどは夜中に静かに台所の隅で待っていてゴキブリなどが出てくるとパッと食べてくれます。だから、益虫と言ったほうがいいんじゃないでしょうかねぇ。
大村正樹
先生は実際に電子顕微鏡を使われてクモを研究されているわけですが、電子顕微鏡のある暮らしはどんなものですか?
  私にとっては非常に楽しい暮らしです。朝から晩まで見ているというよりも、必要な時にすぐに見られることが一番の利点ですかね、私にとっては。
カマキリ
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大村正樹
自分で持っていることのメリットということですね。
  そうですね。採集してきたクモを家に帰ったらすぐに見られるという、そういう利点ですかねぇ。
大村正樹
そうですか。何かいいなぁ。クモの獲物の食べ方を聞いて、たぶん男の子はみんな、『仮面ライダー』とかで“クモ男”によって善良な市民が糸で巻かれて殺されちゃうシーンを思い浮かべてしまうと思うんですが。ああいうのを見ると、先生は「ふむふむ、これは消化活動だな」とか冷静に見てるんですか?
ハハハ。まぁそういうわけでもないですが、私はどっちかと言うと『スパイダーマン』の味方ですから。
大村正樹
『スパイダーマン』みたいに手からピュッと出してビルに貼り付けて、ビルからビルに移動なんていうのはあるのですか?
  あれはあくまでもお話で、クモとして考えるとそんなことはあり得ない。
大村正樹
あり得ないですね。暴走する列車を止めることも、とてもできないわけですよね。
  クモは糸を出すところは決まってますから、あんな手の平から出すことはあり得ないですね。
大村正樹
分かりました。ハリウッド映画も先生にかかっちゃダメということですね(笑)。2週にわたってありがとうございました。ますますクモの研究をして、また面白い話を聞かせに来てください。
はい、分かりました。
大村正樹
電子顕微鏡ってきっと相当高価なものだよね? それをクモのために買うってすごいと思うんだ。しかも梅林先生はそのために土地から探して、電子顕微鏡でクモを研究するにふさわしい場所を選んで住んでいらっしゃる。そのために教員生活38年間の退職金を全部使っちゃったんだって! 尊敬するね。そういう大人になりたいねぇ、僕らも(笑)。みんなは、どうだったかな? では、楽しい週末を。バイバ〜イ!
電子顕微鏡で見たオニグモ
電子顕微鏡で見たオニグモ
 
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