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「スポーツ工学」(1)
コーチャー/浅井武さん(筑波大学・工学博士)
大村正樹&浅井武

大村正樹

キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。 今日から5連休、うらやましいねぇ、ほんとに。みんな、今渋滞中だったりして…。僕は5月の声を聞くと「いよいよだなっ! 来たなこの時が!」というのがあって、それは来月スタートするサッカーのワールドカップ。4年前、ドイツへ行って、すっごい悲しい思い出があって、「今年こそは!」と思ってるんですけれど。そんな中、ちょっとイマイチ盛り上がってないんだよね。そのあたりをサッカーに詳しいサイコーに登場してもらいます。お知らせの後!


大村正樹

さぁ、ゴールデンウイークのサイコーは、筑波大学の浅井武先生です。こんにちは。

こんにちは。


大村正樹

浅井先生は工学博士で、スポーツ工学。スポーツも工学、科学も含まれてるんですか?

まぁ科学とちょっと違うところもあるんですが、科学的に分析しながら、技術も含めて役に立つようにしていくという感じですね。

大村正樹

有名なところでは、水泳の北島康介選手――ああいう選手もスポーツ工学の視点から、より速く泳げるかを研究されてるんですよね?

そういうのもありますし、また話題になった水着ですね。どういう水着がいいか、どういうカッティングがいいかという研究もスポーツ工学の一部です。


大村正樹

で、先生はサッカーのご専門ということで。

そればっかりではないですが、特にサッカーはメインのテーマとしてやってます。


大村正樹

今日は、ベンチに入っている監督みたいな感じで、ジャージ着用ですね。

コーチング学という専門もあるので、けっこうグラウンドにも行きます。


大村正樹

そうですか。だから、日焼けしてらっしゃって。

ハハハ。


大村正樹

ジャージを着たサイコーが、今ラボにお見えになっています(笑)。あと1ヵ月でワールドカップですが、ちょっと国内の盛り上がりが…。実は僕もサッカー好きなので寂しいんですが、先生はサッカー好きですよね?

もちろん、もちろん。サッカー、大好きですね。

大村正樹

大丈夫ですか、国内の盛り上がり?

ちょっと今までにない盛り下がり気味ですが、たぶん日本人の国民性からいって、5月になり、大会が近づいてきたらグッと盛り上がるんじゃないかという気がしてるんですけどね。

大村正樹

そうですか。でも、カメルーン、オランダ、デンマークですよね。初戦のカメルーンに負けちゃったら、日本のワールドカップは事実上終わりみたいなものじゃないですか。

そうですねぇ。


大村正樹

初戦ですよね!

それが大事だと思います。


大村正樹

6月14日。

はい。

大村正樹

先生はどうなると思います?

まぁ、カメルーンが初戦でどれほど力を出せるかがひとつのテーマで、もしそれでアタフタするようだったら付け入るスキがあると思うんですね。でも、力を本当に出されたら、やっぱり非常に厳しいんで…そうなると引き分けでもしょうがないかなという気がしますね。

大村正樹

最悪、引き分けで…。

最悪、引き分けねらい(笑)。

大村正樹

ハッハハ、そうかぁ。結局、日本には決定的なストライカーがいないわけですよね。

そうですね。

大村正樹

先生は、ストライカーが蹴ることに対して、非常にお詳しい。

研究のひとつとしてやっています、キックとか。

大村正樹

キックって、シュートを思いっきり蹴ったら、サッカーボールは何キロぐらい出るんですか?

選手にもよりますけど、トッププロが蹴れば110〜120キロぐらい。


 
大村正樹

はぁ〜。

野球の選手の球よりはスピードが低いように思うかもしれませんが、ボールのサイズが全然違います。

大村正樹

ですよねぇ。だって腕で投げるのと足で蹴るのも、また違うし。

全然パワーが違うんですよね。

大村正樹

もちろん足で蹴るパワーは強くて、でもボールが大きいからスピードは110キロぐらい。

そうなんです。もし手でサッカーボールを投げたら、100キロ出ない。

大村正樹

昔、ブラジルの“ロベカル”、サイドバックのロベルト・カルロスが130キロ出るとか聞いたことがあるんですけど。

彼はすごいパワーがあって、スピードキングでハイスピードが130キロから140キロぐらい。
大村正樹

そうですか。スポーツ工学的にもそれぐらいの速度は不可能ではないということですか?

それはもう、うまく体を使ってパワーをボールに伝えれば、トップレベルの選手であればギリギリ出るかなという速度だと思います。


大村正樹

でも、ロベルト・カルロスって身長が170センチないんですよね。

はい。

大村正樹

あんなちっちゃい体で、僕と同じような体型で130キロ出ちゃうのだからすごい。蹴るポイントって、――そうですよ。ラジオを聴いてるキッズのために、先生、蹴り方の秘訣をちょっと教えてください。

ハッハハ。ラジオで蹴り方はなかなか難しいと思うんですけれど。

大村正樹

じゃあ、イメージで。足って骨があるわけですよね。つま先で蹴るトウキックがあって、足の甲で蹴るキックがあるじゃないですか。あと、かかとでキックするヒールキック。3つのパーツで一番パワーがのるのはどこですか?

簡単にいえば足関節、足のところの重心付近ですね。
大村正樹

重心?

重心の位置がどのあたりにあるかといいますと、つま先からかかとまでの長さの、つま先から6対4の位置。


ちょうど普通のシューズで靴ひもを結ぶ場所、そのあたりの下に重心があるんです。

大村正樹

ほぉ〜。

ですから、インサイドキックであろうとインステップキックであろうと、極端にいえばアウトサイドでも、その重心付近でインパクトすると一番エネルギーがボールに伝わる。

大村正樹

つま先からかかとまでを10で等分して、つま先から6番目、ちょっとポコッとふくらんでる子が多いと思うんですが、そこが一番?

その辺りが重心の近くで、一番エネルギーがボールに伝わるんですね。


大村正樹

でも、ここは靴ひもの結び目があるから痛いじゃないですか?

多少それをずらしてもいいんですが、そのあたりが一番効率が高い。


大村正樹

足の一番パワーが出る、ポコッと出っ張ってるとこを何というんですか?

骨の名前で言えば、ちょっとややこしいんですがチュウソッコツというんです。

大村正樹

「中」に「足」に「骨」ですか?

そうですね。


大村正樹

中足骨、ここの部分で蹴ると一番パワーが出やすい。

簡単にいえば硬いんですね。それが、骨が変形せずにボールにエネルギーを伝える。

大村正樹

何となくつま先で蹴ったほうがスコーンと速い球が出そうだけど、実は足の甲で蹴るのが一番パワーが出るということですね。

そうですね。つま先もパワーを伝える効率がいいんですけど、低いパワーだったらいいんですが、強いパワーだとどうしてもつま先を曲げてしまうのでロングキックには向いてない。

大村正樹

なるほど。じゃあ、サッカーのビデオをスローで見ると、例えばゴールキーパーの方のプレースキックなども甲で蹴っているわけですね。

そうなんです。外国の選手で足がすごく長い人は、まっすぐ蹴るとつま先が芝に当たっちゃう。そういう人は足を斜めにして、その重心付近で蹴っている。


大村正樹

なるほど。足の蹴り方、キックの仕方によってもパワーが違いますよね。

そうです。

大村正樹

強く蹴るには、どういうコツがありますか?

ひとつは、ゴルフでも野球のバットでも同じですが、スイング速度を上げるということです。

大村正樹

つまり足を振る速度。

振りをとにかく速くするのが非常に大事で、そのためにいろんなメカニズムがあるんですね。

大村正樹

そのためのトレーニングとかコツはあるんですか?

トレーニングもいろいろあるんですが、まずコツとしては、足をひとつの関節だけで動かして蹴るという、棒のようにして蹴るのはあまり効率がよくない。いくつかの関節を連動させて蹴る。


大村正樹

関節ってヒザと足首ですよね。

はい。足首はボールの方向を決めるという意味でほとんど固定して蹴るんですけど、ヒザとかお尻の股関節…。

大村正樹

あっ、股関節も関係あるのか。

そういうのをうまく連動して使う。

大村正樹

股関節とヒザのバネというか、伸ばし具合によって蹴るパワーも全然違ってきますか?

スピードが全然違ってきますね。

大村正樹

例えば、具体的にはどういうことですか?

まぁ股関節の横の回転、あるいは助走、アプローチのスピードもすべて使うんですが、簡単にいえば股関節、ヒザ関節の順番で使う。うまく使えるようになってきたら、腰の回転あるいは助走の勢いも使っていくということですね。

大村正樹

腰の回転。えっ、またさらに股関節の前段階ですよね。

そうです。

大村正樹

右足で蹴る人は右の腰をちょっと引いて、腰の回転も使うということですか?

そうですね。

大村正樹

筋力だけかと思ったんですが、そうではないということですか?

はい。むしろ足の筋力よりも股関節とか体幹の筋力をたくさん使う。そこでパワーを生み出しておいて、うまく下のほうに伝えていって、最後ボールに伝える。


大村正樹

体幹ということは、腹筋とか背筋とか?

それも大事ですね。

大村正樹

そういうものもサッカー選手には必要なんですか?

それがエネルギーをジェネレートする源です。

大村正樹

腕は? 腕も必要なんですか?

腕は、バランスをとったりするのに重要です。

大村正樹

じゃあ、サッカーって全身運動なんですね。

そうなんです。

大村正樹

へぇ〜。ワールドカップ前でこれからサッカーの試合を観ながら、選手の蹴り方などもチェックしていこうかな。みんなも観てみてね。もうこんな時間。先生、おもしろかったですよ。ちょっと来週もお越しいただいてよろしいですか?

はい、分かりました。

大村正樹

あっという間だったんですが、今週はここまでということで、今週のサイコーは、筑波大学の浅井武先生でした。ありがとうございました。

ありがとうございました。

大村正樹

ダメだ、もうラボの周辺はみんな、蹴り方のおさらいで…。もう一回いうと、腰の回転から股関節、そしてヒザ、足の甲ということで、究極のキックが生まれる。ゴールデンウイークにどこかに遊びに行ったら、究極のキック、迷惑にならない程度に練習してみてください。それじゃまた来週も夕方5時半に会いましょう。キッズのみんなも楽しい5連休を。じゃあね!