
キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。今、一年のうちで最も寒い数週間に入ってくると思うんですけれど、風邪なんか引いてない?大村さんが住んでる北海道はもっと寒くて、マイナス30度ぐらいいっちゃう場所もあるのよ。信じられないでしょ。世界にはもっともっと低い気温もあって、実は信じられない!氷点下の温度という、そういうお話を今日は聞いてみたいと思います。みんなも毛布でもかぶりながら聴いてください。お知らせの後、サイコーの登場です。

今週のサイコーは、肩書き長いですよ。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所副所長の春山富義さんです。こんばんは。
こんばんは。

すごい!もう忘れました。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所。どういう研究機関ですか?
はい。茨城県のつくば市にありまして、みなさんの体の大もとになっている分子や原子、それよりも、もっともっと小さな素粒子や原子核といった物質の大元を研究する研究所におります。今、私たちが住んでいる世界がどんな物理の法則で説明できるのかを調べています。

ほぉ〜。
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私は特に素粒子などを検出する手段として、非常に低い温度を利用する特殊装置の研究をしております。

素粒子という言葉はノーベル賞を受賞する時もちょっと聞いたりする言葉ですが、春山さんのご専門は低温の世界ということですね。
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ええ。

春山さんの著書があります。ブルーバックスから『低温「ふしぎ現象」小事典』。0℃―東京で0℃を下回るっていうのはあまりないですけれど、「0℃〜絶対零度で何が起こるか?」という。とにかくマイナスの世界をすごく研究されている方というふうに(笑)、ということでよろしいですか?
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はい(笑)。

ちなみに世界で一番寒いところといったら、どこですかねぇ? 僕は今、北海道に住んでいて、先日マイナス29℃というのがありましたよ(笑)。やっぱり南極ですか?
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地球上で一番低い温度は、まぁ南極ですね。

南極。
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これまでの歴史上、別の遠い惑星ではなくて地球上で最低温度を記録したのは、この南極ですね。

南極、何度ですか?
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マイナス89℃という。

マイナス89℃!
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はい。

ちょっと待って。ええと、プラス89℃のお湯に手を入れたら軽くヤケドしますよね。
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ヤケドします。

マイナス89℃の気温になったら、どんなになるんですかねぇ?
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そうですね。私たちが今生活している温度は、だいたい摂氏20℃。

平均して?
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平均して。この20℃の「C」はセルシウスという温度の単位ですが、これは人の名前なんですね。

えっ!?
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セルシウスという。

20℃って「C」と書いてるけれど、人の名前なんですか。
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そうです。摂氏というのは、ですからセルシウスという方を漢字で書いた時に「摂」、「氏」はウジですね。

そうなんですか!?
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日本で温度の表を例えば平賀源内がもし最初にやったとしたら、今の温度は「平賀氏」ということになりますよね。

ということですよね。セルシウスさんだから摂氏。
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そうなんです。

社会で習った摂政関白の「摂」。
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あの「摂」です。

それに「氏」と書いて摂氏。
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普通われわれの生活の中ではこの摂氏でやっているんですけれど、実は物理の世界あるいは学問の世界ではちょっと都合の悪いことがありまして、この摂氏の温度に273を足した表現をするんですね。これを「ケルビン温度」。

ケルビン?
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これも人の名前で、Kと書きます。で、絶対温度というふうにいっています。

273を足すんですか?
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はい。

ということは、摂氏20℃はケルビン293℃?
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今度はKですね。

ほぉ〜!それは何か意味があるんですか?
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いえ、そういうふうにしていきますと、マイナスという値が出てこないんです。

そうか。
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温度の世界はマイナスというのはないんです。

そうだ。北海道でマイナス30℃があっても、ケルビン243ということですね。
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そうですね。だからマイナスが許されちゃうと、物理やいろいろな低温の現象を考える上で非常にまずいことがあるんですね。

ほぉ〜。
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それでケルビンという温度を、ケルビン卿というイギリスの偉い人がずーっと前につくったんです。

へぇ〜。
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ですからわれわれの研究所も常にケルビンという表現をします。

ということは、南極のマイナス89℃もケルビンでいったら、ケルビン244ということですね。
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273から89を引いてやればいいわけですね。

もっと引くんだ。
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184ですね。

ケルビン184℃。
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184K(ケルビン)というのが、南極の温度です。

わかりました。そう考えると何か南極はずいぶん温暖ですね、イメージ的に。
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そうですね。絶対零度というのがあるぐらいですから。

そうか(笑)。その絶対零度というのがマイナス?
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273℃ですね。

そうですか。すごい!すごい勉強になりました。絶対零度の物質は何ですか?
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絶対零度というのは非常に難しくて…。

どこにいたら絶対零度を体感できるんですか?
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絶対零度は、実はつくれないんですね。

えぇ〜!
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ただ絶対零度がなぜマイナス273℃であるかは、19世紀−これはまた昔の話で私はもちろん生まれていませんが、19世紀にアモントンという科学者がおりまして、空気の圧力を測る実験をやっていたんですね。

ええ。
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その時に周りの温度を1℃下げると、空気のその時の圧力が1/273だけ低くなっていることを見つけたんです。

めちゃくちゃ難しい話ですね。
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いえいえ、難しくないんですよ(笑)。とにかく温度を1℃下げると、圧力が1/273だけ小さくなる。

じゃあ273℃温度を下げると、圧力はゼロになる。
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そうです。ですから273回1℃ずつ下げていったら、一番最後273回目にゼロになっちゃうわけですね。

はい。
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圧力はゼロ以下ないわけですね。マイナスのゼロは存在しませんから。そうするとその人は、「じゃあ、この273というのが温度の底ではないか?」と気がついたんです。

へぇ〜。
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その絶対零度というのがマイナス273℃、セルシウスでいえば。そういうふうにその当時予見したんですけれど、それが実は正しいということになって今、絶対零度はマイナス273.15℃というのが提示されています。

いやぁ、ちょっと聞きたいことがいっぱいあるんですけれど。来週、マイナスの世界での生き物の話を聞いていいですか?
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はい。

すみません、あっという間に時間になってしまいましたよ。いいですか、来週またもう一度お話をうかがって?
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はい。

今週のサイコーは、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所副所長の春山富義さんでした。ありがとうございました。
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どうもありがとうございました。

講談社ブルーバックスから春山さんが本を出してらっしゃいまして、『低温「ふしぎ現象」小事典』。いったい低温の世界で何が起こるかという本なんですねぇ。本当に寒い時季が近づいてきますが、マイナス273℃−あり得ないね。そう考えると、まだまだあったかいぞ! ということで元気に外で遊びましょ。キッズのみんなも楽しい週末を。バイバ〜イ!