
キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、今回は久しぶりだけれど、宇宙を取り上げます。今年の夏に話題になったイプシロンロケットっておぼえてる? これ、どういうロケットなんだろうか?鹿児島から打ち上げられたんですけれど、イプシロンロケットにとても詳しいサイコーが登場しま〜す。

今週のサイコーは久々ですね、1年4ヵ月ぶりぐらいですかねぇ。有人宇宙システムの長谷川洋一さんです。こんにちは。
こんにちは〜。

去年の夏でしたか?
そうですね。

もう宇宙の話といえば、長谷川さんに頼っていたんですけれど。
ハハハ。

今回お願いしたいのは、やっぱりイプシロンロケット。
はい、やっぱり。

イプシロンロケット試験機の打ち上げ
「©JAXA」

イプシロンロケット試験機の打ち上げ
「©JAXA」

夏休みの最後に鹿児島に大勢の家族連れや子どもたちを集めて、1回失敗したじゃないですか。
そうですね。

何か直前になって「延期」なんていって。
「飛ぶぞ〜!」といって(笑)。

だけれど2週間ほどしてから無事に成功しました。
ちゃんとリベンジしたわけですね。

リベンジを(笑)。僕はもう「あれはダメなのかな?」と思ったんですけれど。
やっぱり(笑)。

ええ。でも無事に飛んでいったんですね、宇宙に。
ええ。

今年は何といっても、宇宙に関してはイプシロンロケットが一番耳によく残っている言葉だと思うんです。まずイプシロンロケットの名前、イプシロンとは何ですか?
イプシロンは、英語でいうと「イー」ですね。

イー。
ABCDEのEですね。だから“いい”ロケットということになりますね(笑)。

“いい”ロケットですか?
それでイプシロンとついたらしいですよ。

イーだったら、それはエー(A)じゃないですか。“ええ”ロケット、関西風。“いい”だったらiに。
なるほど、すごいツッコミですね(笑)。それがばれないようにイプシロンといってるのかもしれませんねぇ、関係者も。

そうですか、“いい”ロケットということで。
風邪薬じゃないですからね。

そう何か薬っぽいですよね、イプシロン。
ハハハハハ。

このイプシロンロケットは、国産のロケット?
もちろん純国産のロケットです。実は元々あるロケットの部品と部品をうまいこと合体させて、そして安くつくっているというのが素晴らしいところなんですよ。

いわゆる“いいとこどり”ということですか?
そうそう“いいとこどり”のいいロケット、イプシロンロケット。

例えばどんなところ?
イプシロンの一段目、一番最初にボーンと火がつくところですね。

一番下のところね。
はい。これは日本の一番大きいロケット「H-UA」ロケットの一番下についてるブースター、補助ロケットなんですよ。

それを引用してるわけですね。
そうです。それを改良して使ってる。

種子島あたりでよく飛んでいましたよね。
そうです。種子島から飛ばしてるH-UAロケット。

その土台、一番下のブースターを使ってる。
H-Uは50メートルを超えるすごく大きなロケットですが、その下のほうにちょこっとついてるロケットブースターを借用して一段目に使っているのがイプシロンなんです。

ほぉほぉほぉ。
イプシロンの二段目は何とみなさんが大好きな「はやぶさ」を飛ばした時の「M5」ロケット、これは今引退してますがこのM5ロケットの一部を使っているんです。

ほぉ〜。
こういうふうにして、元々飛んでいたロケットの部分をつなぎ合わせることによって安く早く開発したという。

新しく開発したものではなくて、これまでの過去に実績があるロケットたちのおいしいところだけをもらって。
そうです。うま〜くいったところを合わせているんですよ。

一段目二段目、一番てっぺんの宇宙まで行く三段目は?
宇宙のところは、今回は試験機だったんですが惑星探査用のなかなか素晴らしい人工衛星がのってまして、これもこれから結果が楽しみですね。

へぇ〜。宇宙空間へ行って、三段目が無事に周回軌道にのってるわけですか?
無事に動いてます。

ほぉ〜。そもそも何のために?
そうですね。ロケットは高いですから、打ち上げるにはお客さんがいなければいけないんですね。そして、日本は外国からも含めていろいろなお客さんに乗ってもらうことによって日本の産業にしていく。ロケットを打ち上げられる国は少ないですから、日本も当然世界のトップをねらってロケットを売ってるわけですよ。

はい。
それには安くなければいけない。今までの大きなロケット、宇宙ステーションまで行くようなH-UAロケットやH-UBロケットは大きすぎて、お客さんもちょっとしかいない。そういう大きいのと小さいのと2つ揃えておかなければいけないんです。

ええ。
それで人工衛星を上げるのはイプシロンぐらいのサイズのロケットが一番いいんですね。

ほぉ〜。いわゆる図体ばかり大きいロケットはコストがかかってしまうから、ちょっとフットワークの軽いロケットでなるべく安いお値段で世界中に「日本のこの技術どうですか?」という。
おっしゃる通りですね。

はぁ〜。僕は今ね、札幌から東京の往復生活をやってるじゃないですか。すると、たまたま乗る便が日本に3機しかないジャンボジェット機なんですよ。行きも帰りも両方ともそうで、必ずアナウンスがかかるんです「3月で終わります」と。ジャンボジェット機って大勢のお客さんを乗せられるけど燃料は食うわ…。結局そういうことで“お役ごめん”になるわけですよね。
なるほど、なるほど(笑)。

そういうことですよね。
そうですね。だから小型で安い、そしてすぐ打ち上げられる−これがひとつの売りになるわけですね。

実際この売りに関して、世界中から反応はあるんでしょうか?
すでにベトナムで上げようという話も出てきてますし、国際的にロシアやヨーロッパと競争になりますね。

だけど、これはひょっとしたら日本が宇宙開発に関して他の国をリードできるかもしれませんね。
もちろんそうですね。

今、スペースシャトルだってアメリカはやめちゃったわけじゃないですか。
そうですね。アメリカが今ちょっとロケットがあまりない状態なので。

そうなってくると他の国が「日本のイプシロンの技術をちょっと提供させて、使わせて」と。日本にしてみると、おいしい話ですか?
そうですね。技術を売ってこその日本ですからね。

そもそもこの技術はどういう考えから?
それが、実はマル秘なんですけど…。

マル秘。
そんなこともないんですが、日本にはロケットって2つの流派があるんですよ。

ロケットに流派があるんですか?
何とか流と何とか流、よくありますよね。そういう感じで、実は、2つあるんです。ひとつは打ち上げ花火をどんどん進化させた固体ロケット、この流派。これはペンシルロケットというのを1955年ぐらいから東京大学でやっていましたけれど、この末裔がイプシロンの流れなんですね。

ほぉ〜。
もうひとつの流れは昔のNASDA(ナスダ)、NASAから輸入した技術でつくっていった液体の巨大なロケット、アメリカ流の超巨大なロケット。これが今のH-UA、H-UBというロケットなんですね。

固体と液体というのは燃料のことですか?
ごめんなさい、そうですね。固体、要するに火薬が進化した、打ち上げ花火が進化したのがこの固体の流派でイプシロンロケット。これは何がいいかというと、サッと打ち上げられるんですね。だけども、あまり大きくするのが難しい。

ええ。
そして液体の流派のロケットは、巨大になるんですよ。これはパワーが最強ですので、巨大ロケットがつくれて宇宙ステーションにコウノトリのような大きなものを運んでいくことができる。

はい。
どっちがいいのかは、それぞれですね。安くパッと上げられるか、巨大でゆっくり上げるか。こういうことになりますね。

ほぉ〜。パッと上げるものがイプシロンで、これからこの流派がひょっとしたら世界的にも主流になるかもしれない。
そうですね。世界に売っていくには、やはり小型のロケットのほうがいいと思います。

ふ〜ん。ほんと航空機の世界と似てますね。
あぁ、そうですね。

イプシロンは結局何のために打ち上げられたかという部分ですが、今宇宙で働いてるんですか?
ロケットは打ち上げて、もう役目は終わりましたけれど。

そうなんですか。
あとの積んでいった衛星が、太陽系の惑星を観測する世界でもめずらしい衛星なんですね。その結果が出るのはまだ先でしょうけれど、きっと木星や土星、衛星のタイタンとか大気を持った惑星ですね、こういった観測でいい成果を出してくれると思います。

例えばコスト的には今までの打ち上げが100だったら、イプシロンはだいたいどれぐらいの?
だいたい半分ぐらいです。

半分!あら、お安い!
もっともっと安くしようとねらってますね。これだけの技術があって、これだけの安さ、これだけの信頼性というところでお客さんがつきますので、そういうところを目指してます。

いやぁ、よくわかりました。ニュースなどでイプシロン、イプシロンとやってますけれど、深い話を聞くと興味深いですね。もうお時間ですね。今週のサイコーは、有人宇宙システム株式会社の長谷川洋一さんでした。ありがとうございました。
ありがとうございました。

なかなかニュースでは取り上げてくれないイプシロンロケットの事情がわかりましたねぇ。宇宙がとても身近に感じられるお話でした。それでは、今年も残すところあと2ヵ月ぐらいか。いやぁ早いねぇ。来週も夕方5時半に会いましょう。バイバ〜イ!