浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 9時30分~10時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2022年10月31日 実りと祈り

週末、韓国の事故で、犠牲者やケガをした人の多さにショックを受けた。
韓国ソウルの繁華街の梨泰院(イテウォン)で29日夜遅く、大勢の人が折り重なるようにして倒れた事故。
これを記している時点で、日本人2人を含む154人が死亡し、132人がけがをした。
当時、ハロウィンを前に集まった大勢の若者が狭い路地に密集していたということで、現地の警察は事故の経緯や原因を調べている。
ハロウィンを楽しもうと集まった人達が余りに集まり過ぎたということなのか。
人が多く集まっている場所で多くの人が倒れて亡くなったりけがをしたりするのが「群集事故」。
その中でも最も危険なのが「群集雪崩」。全く身動きがとれないほど人が密集した時、何かのきっかけで一気に多くの人が崩れるように倒れて折り重なる。
密集した状況で過度に体が圧迫され、呼吸すらしづらい状況となるのである。

「群集雪崩」は過去に国内でも起きている。
平成13年、兵庫県明石市の歩道橋で花火大会の見物客が折り重なって倒れ、11人が死亡、250人がけがをした事故。古い記憶ではない。
犠牲になった11人はすべて小さい子どもと高齢者だった。
また、海外でも宗教の巡礼に訪れた場所で多数の死者が出る事故などが起きている。
専門家である東京大学大学院の廣井悠准教授は「群集雪崩に巻き込まれた場合、抵抗することがほぼできない状況。群集事故にはさまざまなパターンがあるが、今回は狭い空間と坂道で起きた。1人の転倒などをきっかけに同じ方向に人が倒れていく現象が発生した可能性がある。1平方メートルあたり3人から5人程度以上の密度の高い空間で発生する現象で、誰かが段差につまずくなど、何らかのきっかけを引き金に同一方向に転倒が波及していく。人が人の上に折り重なって呼吸困難になったり胸が押しつぶされたりするため、特に体の小さな子どもや高齢者にとっては危険な現象だ」と指摘。

日本でもハロウィンなど多くの人が集まる機会があることを踏まえ、人が密集する『過密空間』にはリスクがあることを知る必要があるのだ。
さらに専門家は「狭い路地などボトルネックと呼ばれる構造や坂道などの状況に加え、誘導員が対応できる人数を超えたり、誰かが走り出したりするという状況になると群集事故が起こりやすいと言われている。単に過密な状態だけで起きることは少なく、予想以上の人出で、人々が興奮状態になると発生のリスクが高まる。人が過密になる場所には行かないことが有効だが、行かざるを得なかったり、人が集まっているところを目的にしたりしている場合には、あらかじめ決められたルールを守り、落ち着いて行動することが非常に重要だ」と話す。

今後、日本で群衆雪崩が特に心配されるケースは、「首都直下地震」の際だ。
専門家は「悪条件が重なると起きる可能性は十分にある」という。
では「最悪のシナリオ」とは何か。
「大きな地震が襲った後、歩いて帰宅しようと、皆が歩き始める。前にも後にも動くことができない混雑となり、ビルや地下街の出入り口からも次々に人が流れてくる。逃げ込める脇道はない。人々が密集し、壁に押し付けられるような人も。そのとき、突然大きな余震が発生し、人々が我先に逃げようとする。危ないのは地震でできた道路の段差。段差に人がつまずき、倒れ込み始める。さらに回りにいる人たちが連鎖して倒れ、『群集雪崩』につながる。」
首都直下地震で予測される帰宅困難者は最大800万人。東日本大震災の際は首都圏の1都4県で515万人。1.5倍にのぼる。
その一部で、このようなことが発生するだけでも甚大な被害につながる。
一方で、帰宅困難の問題には「危険な誤解」があるという。
「東日本大震災ではみんな徒歩で帰っていた。次も同じように帰れるだろう」
調査では、東日本大震災で家に帰れた帰宅困難者の84%が次も同じ行動をとると答えている。
これは、自らの命を危険にさらしかねない大きな間違いだ。
500万人が一斉に帰宅したという想定で計算を行うと、各地で、東日本大震災を上回る混雑が発生することが明らかになった。
都心の何カ所かで満員電車並みのほとんど動けなくなるような混雑が予想される。
首都直下地震では、最悪の場合、100人以上が巻き込まれる群集雪崩が発生するおそれもある。
ハロウィンのときの渋谷やコンサートなど人が集まる場所では、通常、警備員が誘導して人を一箇所に集中させないようにするが、地震の時はそうした対策は難しい。
ひとたび、人が密集している場所に巻き込まれてしまうと、自分の意思で、そこから逃げ出すことは難しくなる。

首都直下地震で帰宅困難者が大量に発生した場合、群集雪崩以外にも、火災に巻き込まれるなど、さまざまなリスクがある。
このような事態を防ぐにはどうすればいいのか。
対策は単純。人が『帰らない』ことを徹底すること。
個人レベルでは、第一に、人が多そうな場所に行かないことが大事。
情報があるのではないかとターミナル駅に人が集まることが予想されるが、絶対に行ってはダメ。
また、企業が従業員を家に帰さないことに加え、外にいる人たちが、どのような行動をとるかなどのルールをあらかじめ作っておくことも大事である。
家族の安否がわからないときに、『家に帰りたい』と思うのは当たり前。
だからこそ、耐震化や家具の固定などで家を安全な場所にしておくことや、災害時に連絡を取り合う方法や集合場所などをあらかじめ話し合っておくことが大切。
日ごろの防災を進めることこそが、最大の『帰宅困難者対策』なのである。

早朝、街を歩いた。人には会わないが、赤い実にいくつも出会った。
犠牲になった方達に哀悼の意を表する。
同時に他人事ではないと肝に銘じながら。

実りと祈り柄
実りと祈り

鳥がどこまで運ぶだろう
鳥がどこまで運ぶだろう


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