浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 9時30分~10時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2025年10月14日  秋の微笑み

八王子の自宅近くは、今、金木犀の香りに包まれている。
街角や庭先にほんのりと漂う甘くて芳醇な香り。
それがあの小さなオレンジ色の花、金木犀の香りだ。
誰もが一度は経験する、あの独特の香りがもたらす穏やかな気持ち。

なぜ、あの香りやあの花を見ると心が静まるのだろうか。
近年では香水やアロマにも使われ、人気が高まっている金木犀の香りは、主成分に「オスマンチン」という芳香成分を含み、これが甘く包み込むような優しい香りの正体である。
この香りが人に与える心理効果はじつに多様で、科学的な研究でも注目されている。
また、研究者によれば、金木犀の香りを嗅ぐことで脳の摂食中枢に働きかけ、食欲を自然に抑制する効果があることが確認されている。
また、この香りは交感神経の緊張を緩和し、副交感神経を優位にするため、心拍数や血圧が安定し、リラックス効果も生むという。
さらに、郷愁を呼び起こす香りとして知られ、子ども時代の記憶や故郷の風景が心に蘇ることが多い。嗅覚は直接的に感情や記憶を司る脳の辺縁系に影響を与えるため、金木犀の香りもこの経路を通じて人の心に深く響き、安心感や幸福感をもたらすのだ。

淡いオレンジ色の小さくかわいらしい花は、目に映るだけで温かみと柔らかさを感じさせる。
色彩心理学的には、オレンジ色は元気や陽気さを想起させる一方で、落ち着きや暖かみも持ち合わせており、金木犀の小ぶりな花と組み合わさることで、心に穏やかな灯をともす効果がある。
秋の深まる静かな季節に、目に入るあの鮮やかながらも優しい花の色彩が、心のバランスを保つ手助けをしていると言える。

金木犀は主に東アジア原産で、中国や日本で古くから親しまれている。
しかし近年、南フランスのグラースなど香料産業の中心地でも栽培され、西洋でも香水やアロマとして利用されるようになった。​
外国人の多くはこの香りを「sweet(甘い)」「fresh(新鮮)」「comforting(安らぐ)」と評価し、そのリラックス効果に注目している。
日本ほど強い郷愁的感情を抱く文化的背景はないものの、多くの外国人にとっても心地よい香りとして好まれている。
一方で文化風土の違いから、強い香りを苦手とする人もいるが、全体として金木犀の香りは国境を越えたリラックスの象徴として広がりつつある。

金木犀の花言葉は、「謙虚」「謙遜」「真実の愛」で、控えめながらも確かな存在感を示す花の特性を表している。
江戸時代には既に園芸用の庭木として愛されていた記録があり、日本庭園や寺院、民家の庭に広く植えられてきた。
その普及は明治以降にさらに加速し、都市部の街路樹や公園にも用いられるようになり、今では四季折々の自然の彩りに溶け込んでいる。

ところで金木犀の花を用いた食べ物を調べたところ、日本ではあまり一般的ではないが、中国や台湾では桂花茶や桂花糕といったお菓子に加工される。
「桂花」という別名でも知られる金木犀は、香り高いお茶や砂糖漬けにして楽しむ文化がある。
日本でも近年、中華料理店や専門店で取り入れられることが増え、香り豊かなスイーツやドリンクとして注目されている。
さらに香りがもたらす食欲抑制効果、脳のリラックス促進、副交感神経優位効果が複合的に働き、身体的にも心理的にもリフレッシュと落ち着きをもたらしている。

金木犀はただ美しいだけでなく、私たちの心身を支え、日常の中に穏やかな彩りとリズムを与えてくれる存在だ。
香水やアロマ、庭木、食べ物としても形を変えながら、人の生活と深く結びついている。
秋風に乗ってふわりと香るあのオレンジ色の小花を感じたら、自然と呼吸を深くし、ゆったりとした心で季節の移ろいを楽しみたくなる。
金木犀は日本のみならず世界の人々の心にも届く、穏やかな力を持った秋の贈り物なのである。

雲切れて 金木犀の 金こぼれ    林翔

秋の微笑み
秋の微笑み

秋の灯火
秋の灯火

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