【アナコラム】斉藤一美「本で押された僕の背中」
文化放送メールマガジン(毎週金曜日配信)にて連載中の「アナウンサーコラム」。週替わりで文化放送アナウンサーがコラムを担当しています。この記事では全文をご紹介!
▼11月14日配信号 担当
斉藤一美アナウンサー
読書推進月間は23日までだけど、いつ読んでも面白いものは面白い!私が最近読み終えた文庫本をご紹介しましょう。
木村衣有子/編
『昭和 女たちの食随筆』(中央公論新社)

おいしいおかずをこしらえるのと同じくらいの熱量でたべものを言葉で豊かにあらわした昭和の女は、どれくらいいるのだろうか。そう、たべもののみものについて饒舌に綴り語ってきたのは、主に、男だったから。(中略)あえて昭和の女が言葉で残した食の記録、記憶、空想、志などを集めてみたい
…と始まる編者の”まえがき”にまずは惹かれました。案の定、美しい文章が並んでいます。例えば…
☆目の前にいる生き物を食べるまでの生々しさを活写した豊田正子「にわとり」
☆それぞれに違う味わいを丹念に表現する林芙美子「魚」
☆稀代の作家だった夫がこだわる料理へのポリシーを描いた坂口三千代「食べものと安吾」
☆名優・沢村貞子が料理上手だった理由に想いを馳せる増田れい子「楽屋弁当」
☆向田邦子が感じるほのかな葛藤をしたためた「孔雀」
☆暮しの手帳/花森安治編集長の辣腕ぶりは朝ドラ”とと姉ちゃん”そのままであることが窺える森茉莉「ドッキリチャンネルより」
…この他にも戦時中の配給、郷土料理、外食にまつわる秀逸なエッセイばかりですが、心に最も響いたものは”くまのプーさん”を翻訳したことで知られる石井桃子「自炊」でした。恥ずかしながら私は料理をしたことなど無きに等しい男です。それでも彼女に『自炊という言葉があることからして私にはおかしい気がした』と言わしめる背景をはじめ、自炊の定義づけには納得するばかりでした。
ここまでの人生で何度目でしょうか、今度こそ本当に料理を学んでみよう!と思った僕のような無精者の背中を押した一冊です。
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