2026年8月10日 野生動物に餌を与えると・・

広島県竹原市の大久野(おおくの)島をご存知でしょうか。

この島は、「ウサギの島」として知られています。
島の周囲はおよそ4キロ。
そこに、野生化したアナウサギが500匹以上暮らしていて、年間約20万人の観光客が訪れています。観光客の多くが、ウサギに野菜や餌を与えます。

ウサギが餌を食べる姿は可愛らしく、観光の楽しみの一つになっていました。
ところが、その餌や食べ残しが、思わぬ動物を島に呼び寄せました。
それがイノシシです。

大久野島には、もともとイノシシはいませんでした。
しかし、15年前から姿を見せるようになり、島で繁殖していることも分かっています。
イノシシは、隣の愛媛県今治市にある大三島から海を泳いで渡ってきたとみられています。

島に来たイノシシは、ウサギが食べ残した野菜や餌を食べるようになりました。
つまり、人間がウサギのために用意した食べ物が、イノシシにとっても「ここに来れば食べ物がある」という目印になったわけです。

問題はさらに深刻になっています。
福島大学や呉工業高等専門学校などの調査チームが、イノシシが生きたウサギを襲う様子を確認しました。

2024年3月には、フェリー乗り場の近くで、イノシシが雄のウサギを襲い、口にくわえたまま森の中へ運んでいく姿が確認されました。。
イノシシに襲われたとみられるウサギの死体も見つかっています。

自然死した動物の死体をイノシシが食べることは、これまでも知られていました。
しかし、生きているウサギをイノシシが襲って食べるという事例は、海外を含めても、ほとんど報告されていなかったそうです。

なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。

調査チームは、観光客による餌やりがイノシシの定着を促し、その結果、これまで島では見られなかった行動につながった可能性があると考えています。

最初は、「ウサギに少し餌をあげる」という小さな行為でした。
しかし、その食べ残しをイノシシが見つけ、イノシシが島に住み着き、数を増やし、やがてウサギを襲うようになった。
人間の善意が、島の食物連鎖を変えてしまった可能性があるのです。

ここで大切なのは、イノシシが悪いわけではないということです。
イノシシは、そこに食べ物があったから食べただけです。ウサギも、人間から与えられた餌を食べただけです。

問題の出発点は、人間が観光や親切心から、自然の中に大量の食べ物を持ち込んだことにあります。

自然界では、動物の数と餌の量が、長い時間をかけて調整されています。
餌が少なければ動物の数は増えにくく、餌が豊富になれば動物は増えていきます。

ところが、人間が餌を与えると、その自然なバランスが崩れます。
特定の動物だけが増えたり、人間を恐れなくなったり、動物同士の争いが起きたりします。
病気が広がることもあります。

同じような問題は、大久野島だけで起きているわけではありません。

奈良公園のシカも、観光客から食べ物をもらうことに慣れています。
鹿せんべいを食べる姿は奈良の風景の一つですが、ビニール袋や人間の食べ物を与えたり、食べ物を見せてシカを追いかけたりするのは危険です。

シカが「人の近くに行けば食べ物がある」と覚えてしまうと、人の荷物に近づいたり、食べ物を奪おうとしたりするようになります。
子どもや高齢者が驚いて転倒する危険もあります。

野生のサルでも同じです。
観光客が餌を与え続けると、サルは人間を恐れなくなります。
やがて、住宅地や駐車場に現れ、人の持っている食べ物を奪うようになることがあります。

クマの問題も似ています。
直接餌を与えなくても、生ごみ、庭の果物、キャンプ場の食べ残し、ペットフードなどがクマを人里に引き寄せます。
クマが「人の近くに行けば食べ物がある」と覚えてしまうと、何度も市街地に出てくるようになります。
人への危険が高まれば、最終的にはクマが駆除されることもあります。

餌やりは動物を助けているように見えて、実は動物を人間の生活圏に近づけ、危険な状況をつくってしまうことがあるのです。

鳥やハトへの餌やりも同じです。
餌を与える人は一人でも、ハトやカラスが集まるようになれば、糞害や騒音、農作物への被害が発生します。
その後始末をするのは、餌を与えていない周辺の住民です。

考えたいのは、「動物が餌を食べているから、動物にとってよいことだ」とは限らないということです。
動物は餌をもらえば、その場所に集まります。
しかし、それによって自然な行動が変わり、餌をめぐる争いが起きたり、病気が広がったり、人間に依存したりする可能性があります。

動物を守るということは、必ずしも餌を与えることではありません。
むしろ、野生動物の場合は、餌を与えず、追いかけず、触らず、適切な距離を保つことが大切です。

大久野島では、環境省や観光関係者が、ウサギが餌を食べ終わるまで見守り、残った餌は持ち帰るよう呼びかけています。
ただ、本当の意味で生態系を守るためには、餌やりをできるだけ控えることが重要だという指摘があります。

観光客に求められるのは、ウサギを呼び寄せるために餌を見せないこと、食べ残しを必ず持ち帰ること、ウサギを追いかけたり抱き上げたりしないことです。
イノシシを見かけても、決して近づいたり、餌を与えたりしない。

大久野島の出来事は、私たちに大切なことを教えてくれています。

人間にとっては、一度の餌やりは小さな親切かもしれない。
しかし動物にとっては、「ここには食べ物がある」という生活環境の変化になる。
その変化が積み重なると、動物の数が増え、別の動物を呼び寄せ、生態系全体が変わってしまう。
最後には動物が人間の生活を脅かすこともある。

野生動物を真の意味で守るためには、何かをしてあげることよりも、むしろ余計な手を出さないことが大切な場合があります。

大久野島の問題は、かわいい動物を目の前にしたとき、私たちは「餌をあげたい」という気持ちだけで行動するのではなく、その先にどのような影響が起きるのかを考えなければならない、という教訓を示していると感じます。

今日の早口言葉(ゆっくり3回)

「ウサギぱくぱく、餌食べ残し、イノシシばくばく、自然ががくがく」

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