
【アナコラム】斉藤一美「噂に違わぬ傑作『国宝』」
文化放送メールマガジン(毎週金曜日配信)にて連載中の「アナウンサーコラム」。週替わりで文化放送アナウンサーがコラムを担当しています。この記事では全文をご紹介!
▼9月12日配信号 担当
斉藤一美アナウンサー
封切りから3ヶ月余り経つ今もなおヒットを続ける映画『国宝』をようやく観ることができました。
世襲制が当たり前とされる歌舞伎の世界で外部から見出された”部屋子=特別待遇の弟子”(吉沢亮)が、類いまれなる才能を開花させ天下を取る話です。
師匠(渡辺謙)、その長男(横浜流星)との関係を中心に織り成される愛憎渦巻く複雑な人間模様が物語に深みを与えます。
劇中作品『二人藤娘』『二人道成寺』で演じる女形も経験を経るごとに熟練度が増し、人間国宝にふさわしい所作の数々を披露するまでの展開は実在の役者の半生を丹念に録り続けたドキュメンタリーフィルムを見ているかのようです。個人的には終盤の『曽根崎心中』に胸が熱くなりました。
私はこの二十数年間、欠かさず歌舞伎鑑賞に行き、毎回圧倒されています。だから正直なところ”日本が誇る至高の伝統芸能を真正面から取り上げた原作小説があるとはいえ、わざわざ実写映画化するとは何と無謀な挑戦だろう”とみくびっていました。歌舞伎の舞台を歌舞伎役者以外の方が再現することなどできるはずがない…という先入観がどうしても拭えなかったのです。今は自らの浅はかさを心から恥じています。
とにかく『国宝』は私が観た中でNo.1の映画です。それまでの第1位はインド発の傑作『RRR』でした。両作は”時間を感じさせない長尺もの”という点が共通し、ストーリー運びで緩む時間帯がなく起伏に富んでいるのです。『RRR』は怒涛のごとく繰り出すアクションを前面に出して好奇心を煽りますが『国宝』はおおむね静かに進んでいきます。観客が台詞を受け止めて考える余白がある分、演者の魂が心のとても深いところへ届きました。しかも最後の最後までその魂が刺さり続けるのです。
将来はBlu-rayなどでも楽しめると思いますが、自分の都合で一時停止したり誰かと話しながら鑑賞するよりも、独りで世界へ没入することができる映画館で観る方が圧倒的に面白いでしょう。
まだご覧になっていない方にお薦めします。『国宝』は噂に違わぬ傑作です。
https://president.jp/articles/-/101608?page=1
お時間があれば上記サイトで配給/東宝のプロデューサー・市川南さんのインタビューもご覧下さい。
勝手にここまで宣伝してしまう私はおそらく”国宝ファンダム”の一人なのです。
【アナウンサー/斉藤一美】
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