すっかり国民に定着した“タイパ”についての問題点を、勅使川原真衣が改めて問う!
フリーライターの武田砂鉄が生放送でお送りする朝の生ワイド「武田砂鉄ラジオマガジン」(文化放送)。12月10日(水)8時台のコーナー「ラジマガコラム」では、水曜前半レギュラーの組織開発コンサルタント・勅使川原真衣が、定義が曖昧な用語“タイパ” について掘り下げた。
勅使川原真衣「今日は“タイパ”の話をしようかなと思ってます。元ネタは日経新聞の2023年の記事と、ちょっと前の話になるんですけども、『若手は成長も“タイパ”』っていう記事があったんですよ。踊ってたんですよ見出しが!
論調としては『“タイパ”重視の若者に、最早“石の上にも3年”は通用しないよ』っていうような論だったんですよね。当時、よくSNSでも拡散されていました。
ただ私はと言いますと、『見出しがずいぶんキャッチーだな』とか『主語大きいな』とか『成長も“タイパ”って、なんか定義が曖昧なのにな』っていう感じでちょっと釈然としなかったんですよね。
『こんなピントの定まらない言葉なら正直言って廃れるかな?』と思って見てたんですけども、意外と廃れないですよね、“タイパ”って」
武田砂鉄「割とみんなが知る言葉になりましたよね」
勅使川原「もう疑いもなく定着したと言ってもいいと思うんですよね。なので、だからこそ問いたいなと思っています。
『“タイパ”良く生きることは個人の人生戦略に本当になるんですか?』と『あなたの味方になってますか、“タイパ”』っていうことですよね。私は『“タイパ”によって失うものもあるかな?』と思っているので、そのあたりを一緒に考えてみたいと思います。
この“タイパ”という言葉ですが、初めて現代用語の基礎知識に収録されたのは2022年のようです。
こうあります。『タイムパフォーマンス:時間効率主義』って書いてあるんですよ。こういう例文もあります。『“タイパ”重視で録画を倍速で見る』……れっきとした日本語なんだな、という風に思いますけども、書籍でも光文社新書の『映画を早送りで見る人たち』とか集英社新書の『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』とか流行りましたよね?」
武田「そうね」
勅使川原「なので若者の生存戦略のように“タイパ”が語られるっていうのは、まああながち言い過ぎではないんだろうなというのはわかります。わかりますが、もうちょっと調べてみたいんですよね。
『時間効率主義』って現代用語の基礎知識にありましたけども、ネットで見るとですね、この言葉の方が多く出てきます。“時間対効果”って言葉ですよ。
“時間対効果”、これ費用対効果と同じ作りですよね。つまり費やした時間に対して得られた満足感みたいなのを表現するわけですけども、これね、生産性っていう言葉と並列に表記されていることが多いです。
これはまあ皆さん一般的な“タイパ”の印象通りかな、と思いますけども、なんか私またモヤモヤしちゃったんですよね。
それは『経営の神様』とか『マネジメントの父』って呼ばれているピーター・ドラッカーってご存知ですか?」
武田「もうなんか経営の世界では必ず出てくる流れですよね?」
勅使川原「そうなんですよ。日本も信奉者が凄く多い経営学者ですけども、ドラッカーがマネジメントの基本として生産性について色々語ってくれてるんですよね。ちょっと日本語訳で読み上げますけども、『効率とは物事を正しく行うことであり、効果とは正しいことを行うことである』…大丈夫ですか?」
武田「『だいじょばない』ですけど(笑)、言いたいことは分かりますよ、言おうとしていることはね」
勅使川原「そうですね、まず第一にドラッカーは『効率と効果は全然違うよ』っていうのを言ってますよね。さらに『やるべきとされることを手早く行うのが効率でしょ』と。
『動作を早めるんじゃなくて、長い目で見て有益な効用が得られるような行動を選択すること。これが効果でしょ?』っていうのをドラッカーは言ってるんだと思うんですよね。
だけど不思議じゃないですか。“タイパ”って、『時間対効果』って呼んだり『時間効率』って呼んだりするわけだから“タイパ”って、実は両方入れちゃってるわけなんですよ。
すごい難しいことだと思いません?『急がば回れ。誰よりも早く』って」
武田「ちょっと難しいことでしょうね?」
勅使川原「そうですよね(笑)。だって『急がば回れ』って、調べると連歌師の宗長(そうちょう)が「もののふの矢橋(やばせ)の船は速けれど 急がば回れ瀬田の長橋」と詠んだのが始まりらしいんですよ。
琵琶湖の矢橋には渡し船があるけど、比叡山が近くにあるので、季節によっては吹きおろしが凄いんですって。それで船が難破してしまうこともあると。だから、遠回りになるけど「瀬田の唐橋」を通る陸路の方が確実だ、という意味から来ています。『命に変えられないよね、回り道しようね』っていう風に言ってるわけ。
なのに、“タイパ”って言っちゃうと急ぐこともできるし、実利を取ることもできるっていう両方を不可能なのに指してるっていうのが、ちょっと“タイパ”の心許ない点なのかな? と思うわけなんですよね」
武田「そこまでおそらく考えて使っている人がいないのかも知れないですけどね。
なんとなく流行ってる言葉として連呼されてるからそれぞれの考え方が違うけど、言葉に出されると“タイパタイパ”っていう風になる」
勅使川原「そうかも知れない」
この後も、勅使川原さんによる“タイパ”についての指摘や提案などが続きます。気になる方はradikoのタイムフリーでご確認ください。
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