「そもそもの捜査に無理がある」弁護士が語る再審制度の問題点 日野町事件再審開始
フリーライターの武田砂鉄が生放送でお送りする朝のラジオ番組、『武田砂鉄 ラジオマガジン』。3月2日は、弁護士の三輪記子氏が1984年に起きた日野町事件の再審開始について解説した。
西村志野アナウンサー「今日はどんなお話でしょうか?」
三輪記子「日野町事件再審開始決定から考える冤罪被害者の救済についてです」
西村「はい。まずは日本弁護士連合会のホームページから、日野町事件についての概要をお伝えします。1984年、昭和59年12月29日朝、滋賀県蒲生郡日野町内の酒店店主の女性が行方不明になりました。自宅兼酒店の内部に争った形跡はなく、被害者と同居していた親族の女性も異変に気付くこともなく、被害者が「わしを置いて出て行った」などと述べていました。翌1985年1月18日、日野町内の造成地で被害者の遺体が発見され、1985年4月28日、日野町内の山林内で被害者所有の手提げ金庫が発見されました。これが、日野町事件について間違いなくわかっていることの全てです。遺体の状況から被害者が殺害されたことは明らかでしたが、犯人が誰であるかという以前に、いつどこで殺害行為が行われたのか、まったくわからない状況でした。警察は酒店の常連客であった阪原弘さんに任意同行を求めました。しかし、このときは、阪原さんは関与を否認します。ところが、警察は再度阪原さんを呼び出して、強圧的な取調べを続けて自白させ、阪原さんを逮捕しました。これが概要なんですけれども、経過と問題点についても少しお伝えします。阪原さんは第1回公判からは一貫して無実を訴えたんですが、第一審、大津地方裁判所は、有罪無期懲役の判決を言い渡しました。裁判所は、自白以外の証拠から認められる間接事実を根拠として、阪原さんが犯人であると認めることができるとしたのです。控訴審、大阪高等裁判所も控訴を棄却し、有罪の結論を維持しましたが、有罪とする根拠は第一審判決とは全く異なりました。第一審判決は「自白は有罪の根拠とできないが、間接事実だけで有罪と判断できる」、控訴審判決は「間接事実だけでは有罪と判断することができない」が「基本的根幹部分は信用できる自白と合わせれば有罪と判断できる」として、根拠の評価が全く逆となっていることが、日野町事件の大きな特徴であり、有罪判断の根拠の薄さを示しています。控訴審判決に対して阪原さんは上告しましたが、最高裁判所は2000年9月27日に上告棄却の決定をし、有罪判決は確定しましたと。日弁連のホームページから紹介しました」
三輪「ご紹介いただいたとおりで、報道も結構たくさんされてるんですけれども、日野町事件そのものの問題点が、あまり指摘されてないと思ったので読んでいただきました。こういう風に、当初の捜査段階から相当無理がある事件だったんです。いろんな冤罪事件は当初の捜査段階からだいぶ問題があるパターンが結構多いんです。よく指摘されているのが、再審請求になってから開示された証拠を見ると、最初の裁判のときに用いられた証拠、例えば現場検証の写真が順番を入れ替えられていたことがあとから分かった、ということが結構大きいんですよね。
そういうこともあって、今回再審請求が認められるに至ったっていう流れはあるんですけど、やっぱり冤罪事件は何で起こるのかというと、そもそもの捜査に無理があるということと、勾留されてから起訴されるまでの被疑者段階は国選弁護人は今はつきますが、弁護活動はできるんですけど証拠は一切見られません。どんな証拠があるかも分からないような中で弁護活動をするんです。起訴以降は証拠は見ることができます。しかし、それは検察が出してきた証拠しか見られないんですよ。全部の証拠は見られない。とすると、その出された証拠に対する弁護活動ということになるんですよ。でも、実は他にも証拠があることが多い。というか全部の証拠って出してこないんですよね。ここでまず一点、警察・検察が集めた証拠って誰のものだと思いますか?」
武田砂鉄「ねえ」
三輪「警察も検察も税金で仕事してる人たちなんですよ。ということは、その人たちが集めた証拠は、もちろんその事件のためのものではあるけど、広く公益のためですよね。とすると、私たちのものでもあるという考え方は充分成り立つんですよ。なんだけど、警察・検察はその証拠をまるで自分たちが恣意的に出し入れしたりとか、あるものを、例えばないと言ったりとか、そういうことが続いてきたから、冤罪っていうのがなかなか救済もされない現実があったわけです。
例えば袴田事件もそうなんですけど、再審請求で裁判所・裁判官の裁量で「証拠を出しなさいよ」と検察に言ってくれて、やっと証拠が出てきてるんですね。でもそれは、そういう法律的な根拠がないから再審請求にあたった裁判体による。これが再審格差と呼ばれているものなんですね。どの裁判体にあたるかによって、再審請求の中身がまるで違ったものになっちゃう。時間的な制限もないからズルズルと長くやっちゃったりもする。検察も「法律の根拠がないから出しませんよ」みたいな話になっちゃうわけですよね。さらに、裁判所がそういういい訴訟指揮をして再審請求が認められたとて、検察官がその再審請求の開始決定に対して不服申し立てをする。そうすると、その不服申し立てに対して審査をすることになるから、再審請求の開始決定に時間がかかる。大きな要因は、証拠の開示が必ずやらなきゃいけないとはなっていないことと、検察官の不服申し立てが認められているっていうことなんですよね。だとすると、今すぐ解決しなきゃいけないのは、証拠開示の義務化と検察官の不服申し立てを無しにするってことなんですよ。検察官は再審開始決定が決まった後にもう1回、再審の裁判をやるわけですから、その時に反論すればいいわけで、再審の開始決定について不服申し立ては認めなくてもいいんじゃないかっていう議論は充分成り立つんですよね。
そして再審請求は、やったとて必ず認められるわけでもないですよね。認めるか認めないか決めるのは裁判所だから。そういう制度を変えていかなきゃいけない中で、今、法制審議会の答申案っていうのが出てるんですけど、そこは証拠開示も限定的だし、検察官の不服申し立ても残ってるんですよね。だけど、超党派の議員立法によると、そこはちゃんと手当されてるんです。だから私は、議員立法の方で進められるべきだと思います。そうしないと同じことがまだ続くということなんですよ。一昨年、袴田事件の無罪が確定して、昨年は福井の前川さんの無罪が確定しました。で、今年この日野町事件があるんですよ。しかもこれは目に見えてる範囲だけで、今も再審請求してる事件っていうのはたくさんあるんです」
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