なぜ弁護士は「有罪にならない」と予想した? “紀州のドン・ファン”事件二審も無罪
フリーライターの武田砂鉄が生放送でお送りする朝のラジオ番組、『武田砂鉄 ラジオマガジン』。3月30日は、弁護士の三輪記子氏が、いわゆる紀州のドン・ファン事件について解説した。
三輪「紀州のドン・ファン事件は一審二審共に無罪判決が出ました。そこから考える事件報道の受け止め方、無罪判決の分析から見えてくる私たちのバイアスについて、というテーマでお話ししたいと思います。
まず、この前、大阪高裁で無罪判決が出たんですけれども、 2回目の無罪判決なんですね。一審無罪判決が出たのは2024年の12月12日でした。報道をみると「元妻に無罪」と報道されているのがほとんどだと思います。この報道について、あるいはこの事件について、どんな感想を持ってらっしゃいますか?
武田「まず、この紀州のドン・ファン事件自体が、ものすごくスキャンダラスに報じられて、週刊誌なりワイドショーでもかなり報じられましたけれども――なんて言うんだろうな――すごく伝えやすい事件だった。つまり、お金持ちの老人がいて「こんだけお金持ってるぞ」ってひけらかすようなタイプの人で、報じられ方によっては、そこにつけ込んだというんでしょうか。そこに入り込んでいった若い女性がいて、という。構図として非常に伝えやすい事件だったからこそ、こういう「紀州のドン・ファン事件」というふうに伝えられたわけですけれどもね。だから、無罪判決が出たときに、多くの人が「えっ、無罪なの?」っていうふうに思ったというのが正直なところじゃないですかね」
三輪「確かにニュースでもワイドショーでも、たくさん取り上げられていて、逮捕当初、私はこの状況証拠だけでよく逮捕したなって思ってましたし、そういう発言もしていました。仮に逮捕できたとしても、起訴するのは難しいんじゃないかと感じていました。例えば、ビール瓶をいっぱい押収したけれど事件と関わりがあるような証拠は何も出てこなかったという報道もありました。こんなに証拠がなさそうな感じで起訴するなんて難しいんじゃないかと思っていたんです。起訴された後も私は「これは有罪判決にはならない、つまり無罪になるんじゃないか」とコメントしてきました。
スキャンダラスな事件ではあるんだけれども、だからこそ、事件報道はある程度の距離を持って見ていかなきゃいけないと思うんですよ。というのは、警察とか検察が証拠を集めること自体にも税金が使われてるわけですよね。税金を使って集めてきた証拠に基づいて起訴して裁判にかけられるわけです。裁判も国家権力の行使だし、皆さんの税金で運営されているものです。この、国家権力の行使をちゃんと監視しなきゃいけないから、裁判の公開は憲法上の要請になってるわけです。
スキャンダラスな事件というのは、自分の人生とちょっと遠いような感じがあるのかもしれないけど、でも司法のプロセスを考えると私たちが関わっているんですよね。ましてや冤罪事件がたくさん報道されるようになって、再審法の改正にも注目が集まっている中で、冤罪を許せない気持ちは皆さんすごく強いからこそ、現在進行形の事件についてもしっかり見ませんかということなんですよね。
この事件には、争いがないポイントがあります。まず、紀州のドン・ファンと言われる人が、口から致死量の覚せい剤を摂取して、急性覚せい剤中毒で亡くなった、ここは争いがないんですよ。摂取した覚せい剤の量がめちゃくちゃ多くて、警察の主張によると、一般的な乱用者の使用量の約60倍ぐらいの摂取量だったって言われてるんですね。死亡した日の午後4時50分から午後8時ぐらいまでの間に摂取したことも争いがないです」
武田「じゃ、ここは確定してるってことですね」
三輪「ほぼほぼ確定なんですね。その当日、ドン・ファンは2階にいて元妻は1階にいたんですね。で、 1階と2階を何回も行き来していることも、携帯電話の履歴で回数もカウントされて明らかになってます。ドン・ファンが亡くなったのは5月なんですけど、一か月半ぐらい前に元妻が密売人と接触をして覚せい剤のようなものを買ったことも確定されているんですね。ただ、ここでポイントなのは、覚せい剤と断定はされていません。というのは、この裁判の中で密売人の証人尋問も行われたんですよ。その一人が、自分は覚せい剤じゃなくて氷砂糖を売ったんだと証言していて、それによって元妻が受け取ったものが覚せい剤かどうかがわからなくなったんですね。元妻が絶対に摂取させて、ほかの可能性が絶対にないと言い切れないと有罪認定なんてできないわけです。つまり、本人が摂取したかもしれない、あるいは第三者が摂取させたかもしれない。これは無罪になるわけです。
検察側は、元妻が覚せい剤を入手することが可能で、ドン・ファンが覚せい剤を摂取した時間帯に一緒にいたから飲ませることが可能だったって言ってるんですけど、「飲ませることが可能だった」だけでは有罪にはならないんですよ。だってそれは可能性の問題であって、可能性で人を有罪にしたらめっちゃ怖いじゃないですか。2階に上がったり1階に降りてきたり、その回数が普段よりも多かったことも認定されているんですよ。その日に限って何回も2階に上がったり 1階に降りてきたっていうことは、犯人でないなら不自然だっていうふうに検察は主張してるんですよ。だけど、2階で何をやったかわからないわけだから、さすがに結論ありきで不自然とか決めつけ過ぎなんじゃないですかと私は思いました。
さらに検察の理屈としては、彼女がアダルトビデオに出演していたことがバレそうになって――バレてないんですよ――離婚の可能性が高まってるから、殺害する動機があったと言っていて。これ、すごく危険だなって思う――というか、危険だなって思っていただきたい――ポイントは、動機はもちろん大事な部分ですけど「動機があるイコールその犯罪を実行した」と見るのは非常に危険です。例えば、お金がない人がみんな窃盗するかといったら、そうじゃないわけじゃないですか。だから、動機があるから何かしただろうって疑うことはとっても危険なんだけど、検察側はそういう主張をしてました。さらに、インターネットで完全犯罪、老人、死亡、覚せい剤過剰摂取とか検索してた。この検索履歴も明らかにされているんですよね。こういう検索をするということは「やったんだろ」みたいなことを主張してるんですよ。検索の履歴と実行行為との間にすごく距離があるのに、スキャンダラスな事件だから論理が飛躍しがちなんですよ」
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