「芸術祭参加作品 安部公房作のラジオドラマをまたも発見」 【アーカイブの森 探訪記#47】

「芸術祭参加作品 安部公房作のラジオドラマをまたも発見」 【アーカイブの森 探訪記#47】

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アーカイブの森で以前も取り上げた安部公房。
資料を探索していると、
昭和38年、第18回芸術祭ラジオ部門参加作品の中にその名前を見つけた。

タイトルは「審判」。
貨物船の衝突事件で責任を問われる船長が、
事故の決定的瞬間に至るまで何を考え感じ、そして判断したか
という心理面を追求した内容となっている。

物語のあらすじはこうある。
ドラマは、海難審判所の裁決主文が読み上げられるところから始まり、
一貨物船の出港前後から衝突の決定的瞬間にいたるまでの船長の激しい心の動きを、
裁決主文を読み上げる声を挟みながら、きわめて客観的に表現してゆく。

そして、このラジオドラマの決定的な特徴は「音楽がないこと」である。
楽器の演奏音楽は一切使用せず、
実際に録音した船が出すあらゆる音や乗組員の声を
ミュージックコンクレート※的に音楽として構成し、
「船」という一つの世界を音楽的に表現しているという。
この音響構成を担当したのは、現代音楽の第一線作曲家であった湯浅譲二だ。

※ミュージックコンクレート
自然音、日常音、機械音などを素材とし加工・編集を施して音楽制作をする手法

基本的に音だけで伝えるメディアであるラジオで、
楽器を使った音楽を使わないというのは何とも挑戦的な作品だと感じる。

作者の安部公房は小説だけでなく、
ラジオドラマでも数多くの秀作を残しており
独特な発想と主題の設定、そしてその的確な表現が特徴的だという。
以前取り上げた「口」もそうだが、
昭和32年の安部公房のラジオドラマ作品「棒になった男」は
芸術祭奨励賞を受賞している。

意外にも、ラジオドラマの世界で名前を目にする機会が多い安部公房。
これまで小説家のイメージが強かったが、
新しい試みをしているラジオドラマを何本も残しているようだ。
引き続き、安部公房の作品には注目していきたいと思う。

今後も文化放送に眠る資料から、
気になる話題をピックアップしていきますので、更新をお楽しみに!!

執筆:日比隊員

『文化放送アーカイブス』
■毎週水曜日 12時更新
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