中村文則の新作小説『彼の左手は蛇』、執筆の裏側にあった蛇の歴史

中村文則の新作小説『彼の左手は蛇』、執筆の裏側にあった蛇の歴史

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大竹まことがパーソナリティを務める「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送・月曜日~金曜日11時30分~15時)、12月17日の放送に小説家で芥川賞作家の中村文則が出演。10月に発売した最新作『彼の左手は蛇』に込めた思いを語った。

水谷加奈「(中村文則の新作小説『彼の左手は蛇』を読んで)難解でした。何かが仕込まれていると思って油断できなかった」

中村文則「手記形式なので、主人公が手探りで書き始める、という設定になっています。書くまでにすごく時間がかかりまして。最初は幻想的な入り方にして、だんだんのめり込んでいってもらえれば、というのを目指しました」

大竹まこと「いろいろな文章で、いまの政治的な意味合い、世の中で起きたことなども材料に入ってきていますよね?」

中村「いろいろな影響は入っています」

大竹「1人の男が逡巡していく。通りすがりの僧侶に、おまえは生きちゃいけない、死んでしまえ、と言われてしまう、と。ここからが難しい。その僧侶のあとを訪ねていく」

中村「はい。幻想ですけど蛇になって。主人公は左手に蛇を感じる。心理学的にも、周りに頼れる大人がいないとき、子供は想像上の友人をつくるというのがあって。僕もいて、蛇ではなかったんですけど、もう少し神に近いような。思春期のころに消えるんです。たぶん性の目覚めとそれが合体するとおかしなことになることがあって。今回の小説では蛇という扱いにして。かなり自分が入っているという幼少期の話です」

大竹「普通に生きていて、自分の中にとんでもないことをしてしまう要素、想像してしまう狂気性みたいなことは抑えられるようになる。その思いが本の中で、ずっと主人公を悩ませます」

中村「人って内面にいろいろ抱えていると思います。そういうものを僕の本を読むときだけは解放して。たくさんの人から、読んだとき『思うことはいいんだ』と肯定してもらえるというか。楽になったというお手紙もいただきました。人に迷惑かけてはいけないけど、思っている分には罪にならないというか。小中学生の男女に妙な衝動が起こっても悪いことではない。罪悪感を覚える必要はない、ということも伝えたいなと」

大竹「若い人の間には、衝動でずいぶん悩んでしまう人もいそうです」

中村「テロの話ですが、生きていきましょう、と伝える希望の書というか」

水谷「でもなんで蛇なんですか?」

中村「日本や世界の物語で、やたらと蛇は悪く書かれる。一度歴史を調べてみようと。じつは大昔に、いまの主流の大多数が始まる前に、蛇信仰というのが世界的にあったと知って。それがいまある宗教に弾圧されて悪役に、という歴史を見て。日本でも縄文期に蛇信仰なんかが盛んにあった。(蛇と宗教の歴史について語って)蛇の宗教が荒々しくて、生命力に満ちていて『生きるぞ』みたいな。いまの抑圧された社会に、この精神は非常におもしろいなと思って書いたんです」

大竹「怖いものを封印することによって、逆にそれを崇めて味方にとりいれるというか。蛇神様も白蛇信仰も出てくる」

中村「小説に書かなかったことでいうと。いろいろな説がありますけど、鏡餅の不思議な形は、とぐろを巻いた蛇じゃないかともいわれる。蛇信仰は消えたけど少し残したかったのではと。蛇信仰の精神を復活させたらどうなるんだろう、というのが主人公の持っているもの。それでこの話になった、という感じです」

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