【アナコラム】長谷川太「『外郎売り』は先輩との思い出とともに」

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▼3月20日配信号 担当
長谷川太アナウンサー

「拙者親方と申すはお立会いのうちにご存じのお方もございましょうが……」
という口上ではじまる「外郎売」 歌舞伎十八番のセリフ芸です。
薬の効能の説明と早口言葉の部分をすべて暗記して練習する。全体で6分ほどひたすら早口言葉をまくしたてるため、声の強さと発声の明瞭度をあげ、滑舌をきたえるこの上ない教材なのです。
「音声表現者」のプロになった人には多かれ少なかれこの外郎売に修業時代のその人ならではの思い出があります。例えば「なかなかできなくてスタジオで一人泣きながら練習した」などのストーリー、私の場合は当時の先輩アナウンサー青柳秀侑さんを思い出すのです。

新人時代の私には仕事なんてなかなか回ってきません。アナウンス部のデスクで一日中先輩たちの放送を聞いて勉強したり、使用済みのニュース原稿を空きスタジオで読み練習の日々。その中で私の楽しみは、当時映画情報番組を担当されていた青柳先輩が時々誘ってくれる映画の試写会に連れて行ってもらうことでした。
いつも部屋でヒマにしている新人の私を不憫に思ってくれたかはわからないのですが、公開前の映画が見られて、さらにたいてい映画会社の試写室は日比谷にあり終わると銀座に飲みに連れて行ってもらえるので、それはそれは楽しかったものです。

ただ問題はですね。酔っぱらった青柳先輩が私にかならず「外郎売をやりなさい」って命令するのです。しかも有楽町の某ビルの吹き抜けで、深夜2時とか3時に。
時まさにバブルの入り口という時代で、周囲には深夜まで飲んでこれからタクシーで帰ろうって酔っ払いがたむろする中恐る恐る「拙者親方と申すは……」と小声で始めると青柳先輩の怒声が響きます。「もっと声を出しなさいっ!!!そんなことだからあんたにはいつまでも仕事が来ないんだよ!!アナウンサーなんてやめてしまいなさい!!!」
そこまで言われたらこっちも負けずに「はっ!!失礼しました!!拙者親方と申すは……!!!!」と声を張り上げ深夜の有楽町で猛練習したものです。
いやあ鍛えていただきましたね、青柳先輩には。

そんな恩人の青柳先輩は、私が入社して3年目に文化放送から独立されて様々なところで活躍されていましたが早くに亡くなられて、恩返しもできませんでした。
私の「外郎売り」は青柳先輩との思い出とともにあるのです。

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