ウクライナゼレンスキー大統領電撃来日 その裏側では~ ニュースパレード  山本香記者取材後記

ウクライナゼレンスキー大統領電撃来日 その裏側では~ ニュースパレード 山本香記者取材後記

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 文化放送をキーステーションに全国33局で放送中「ニュースパレード」(毎週月曜日~金曜日午後5時00分~5時15分)

 その日に起こった最新の話題を中心に、幅広い分野にわたってニュースを紹介しています。昭和34年の放送開始以来、全国のラジオ局の強力なバックアップで、特派記者のレポート、取材現場からの中継など、今日最も重要なニュースを的確に把握し最新情報を伝え続けています。

 文化放送報道記者として国会、官邸を担当し、日夜取材活動で活躍する山本香記者が放送でお伝え出来なかった話題を取材後記としてお届けします。

 

大急ぎの根回し

 

ウクライナのゼレンスキー大統領が20日、広島空港に到着した。

来日はゼレンスキー大統領の強い要望を受けてのことだが、4月末に対面参加の希望が伝えられた際、日本政府内には戸惑いが広がった。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長が、ゼレンスキー大統領にサミットに参加したらどうかと提案し、G7首脳にも事前に伝えていたこともあり、G7メンバーからの承諾はそう難しくなかった。

しかし今回のサミットは、ロシアと経済、軍事的つながりを持ち、欧米とは中間的立場をとるインドなどグローバルサウスと呼ばれる新興国、途上国を招待している。

ゼレンスキー大統領を交えたセッションで、何を議題に話し合うのか?ロシアとの利害に関わる議論は避けなければならない。そうでないと「欠席」を通告される恐れもあるからだ。

もう一つ、日本政府には頭を悩ます問題があった。

7年に一度回ってくる議長国。いわば岸田総理にとってひのき舞台でもある。

ゼレンスキー大統領が来日すれば、それだけ世界の注目度はアップするが、反対に岸田総理がかすんでしまいかねない。相当な根回しが必要だが時間がなかったという。

 

 

顔を立てる

 

最大の懸案事項は、招待国への対応だった。

インドやブラジルなど招待国の顔を立てるため、日本政府がとった対応は、ゼレンスキー大統領の会議への参加を初日ではなく、最終日に持ってくること。扱う議題は「平和と安定」と無難なものに切り替えた。

それだけではない。本来ならサミット閉幕後に出す首脳コミュニケを、2日目の夜に急遽出した。

極めて異例のことでコミュニケの和訳も間に合わず、英文だけでも先出ししたのは、このタイミングで出さなければいけない事情もあった。

ゼレンスキー大統領を交えた最終日の会議の内容をコミュニケに反映させないことで、招待国を刺激することを避けるとともに、各国への配慮もあったからだ。

ただ、拡大会合での席をゼレンスキー大統領の隣にインドのモディ首相が来るように配置したのは、ロシアとの付き合いが古いインドとウクライナの距離感を縮めようとする日本政府側の心配りがあったのかもしれない。

 

 

平和記念公園を訪れ、原爆資料館の視察、慰霊碑への献花という一連の行事も、G7首脳は19日の開幕日に、招待国首脳や国際機関関係者は最終日の21日に予定を組んでいた。

本来ならゼレンスキー大統領も招待国に含まれるため、行事も招待国らと一緒にということになるのが普通だが、単独で岸田総理がエスコートした。

世界から注目を浴びるゼレンスキー大統領とのツーショットをという狙いが透けて見える。

 

調整難航

 

 

ゼレンスキー大統領の来日が決まったが、どうやってくるのかが最後まで難航した。

19日、政府関係者からアメリカ機で岩国空港に着陸。時間は20日の午後10時台と聞いた。

しかし直後に、到着時間が早まるとの情報。ゼレンスキー大統領が日本に到着次第、会談したいと希望しているためだという。まさか、深夜にトップ会談を行うことは常識的には考えられないからだ。

中国上空を通過できないアメリカ機と比べて、通過できるフランス機の場合、7時間ほど早く日本に来ることができることから最終的にフランス政府が用意した専用機での移動となったようだ。

ゼレンスキー大統領は、広島空港に午後3時半ごろ到着。その後、精力的に各国首脳と会談を行っていた。

 

正直者

 

 

ゼレンスキー大統領が対面参加するかもしれないという話は、サミットが近づくにつれ、様々なところで話題に上っていた。

日本政府はサミット開催前日の18日、初日の会議にオンライン参加する予定が、ウクライナ側の希望で21日のオンライン参加に変更になったという発表の張り出しを行った。

これを受けて国際メディアセンターにつめる記者らは、来日するのではないかとざわついた。

18日夜の岸田総理のぶら下がり会見で、対面での参加はあるのかとの記者の質問に「21日にG7首脳とのウクライナセッションを新たに設けてゼレンスキー大統領がオンラインで参加する、こういったことになったとー聞いています。現状はー張り出しの通りということであります」と、目を少しキョロつかせ、なんとも歯切れの悪い発言に、会見終了後、記者の間からは「総理はとぼけるのが下手だな」、「あれでは来るって認めているようなものだ」というやり取りが起きていた。

翌19日には各社、「ゼレンスキー電撃来日」と報道していたにも関わらず、その夜のぶら下がり会見でも「オンライン」と言い続けていた岸田総理。とぼけるのは下手でも安全上の問題でギリギリまで来日を認めなかった。

 

ほころび

 

 

サミットは21日閉幕し、岸田総理が平和記念公園で原爆ドームをバックに記者会見を行い、締めくくった。

日本政府が気にしていたゼレンスキー大統領に話題をすべてさらわれるのではないか、地元広島での晴れの舞台がかすむのではないか、そんな心配も杞憂に終わった。気をもんだ招待国の評価も上々のようだ。

1つだけ心配の種があるとすれば、ブラジルの反応だという。

G7、招待国首脳と相次ぎ会談したゼレンスキー大統領だが、ブラジルのルラ大統領とは会談しなかった。

ルラ大統領は「会談の予定があり、待っていたが時間になってもゼレンスキー大統領は来なかった」と明かした。

一方のゼレンスキー大統領は「日程上の都合」とした上で、記者から失望したかと問われた際には「失望したのはルラの方だと思う」と述べていた。

 

中国、ロシアとの距離感を詰めるブラジルだけに、あえて避けたのか。他国どうしの問題とはいえ、今回のサミットで日本が心を砕いた「調和」に水を差すきっかけにならないことを祈る。

 

 

 

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