2017.8.04

ブランドで人々を幸せにしたい ~ネスレ日本高岡社長が見つめる"新しい現実"

nmt事務局
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文化放送「The News Masters TOKYO」のマスターズインタビューで、今回スタジオにお迎えしたのはネスレ日本社長の高岡浩三氏。神戸大学経営学部卒業後、外資系企業であるネスレ日本に新卒で入社し、生え抜きでトップまで上り詰めた高岡氏の仕事との向き合い方やリーダーシップ論は、今まさに現場で日々汗を流すたくさんのビジネスパーソンにとってより良い未来への大きなヒントになるだろう。スポーツマネジメントを学んだゴルフ解説者のタケ小山が、ズバリ!高岡氏の"仕事術"に迫ります。


◆"逆算"からのスタート~「ブランドで人を幸せにしたい」


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ネスレ日本社長の高岡氏と言えば、2013年に出版された『逆算力』(日経BP社)を思い浮かべる人も多いだろう。「なぜ、逆算なのか?」改めてご本人に聞いてみた。


「小学5年生の時に父親を42歳で亡くすという経験をした。と同時に祖父も同じ年齢でこの世を去ったことを知って、42歳という年齢を"ゴール"と意識するようになりました」と高岡氏は語る。


「42歳で人生が終わるかもしれない。そう考えた時に、ではあと何年あるのか?それまでに成し遂げたいこととは何か?そのためには、いつまでに何をやる必要があるのか」――そんな風に考える習慣がついたという。人より短いかもしれない人生なら、人のスピードの2倍、3倍で進んでいこうと決意し、実際にその通りに動いた。それが時代のスピード感とフィットしたことで、大きな成果を出せる仕事につながったのだろうと振り返る。現在は、42歳を無事通過して57歳になった高岡氏だが、やはり今も常にゴールを設定した上で逆算して考える。自分が何のためにここに生まれて、何を成し遂げて死んでいくのか。「いつまでに、どういうことを、どこまで実現したい」という具体的な目標設定を持つことが大切だという。


「今思えば、それが親父から息子への遺言だったのかなと感じています」。


大学卒業後に外資系企業であるネスレ日本を選んだ理由の一つも、逆算力が働いたからだ。「当時は外資系を選ぶ人は少なかった。人気があったのは関西地盤の商社や銀行。でも、そのころの日本の企業は年功序列が当たり前で、42歳で自分のやりたいことができる地位に就くのは難しいと思った。外資系は実力主義なので、時間に関係なくやっていけるのではないか」と考えたという。


もちろん、それだけが理由ではない。「私たちの時代はブランドがすごい魅力を持っていて、みんながブランドに憧れていた」。バブルはまだ訪れてはいなかったが、確実に日本経済がぐんぐん成長していた70年代後半から80年の初め頃。背伸びをしてでもブランド物を持ちたかったし、それによって幸せを感じられるという経験は当時を知るものには懐かしい記憶だろう。


「僕も覚えていますよ」と、タケ。「どんな車に乗るか?を友人たちと楽しく競い合ったりもしましたね」。
それを受けて、高岡氏はこう続ける。「ブランドがそれほどにも人を惹きつける、ワクワクさせる。その力っていったい何か?と思ううちに、ブランドでたくさんの人を幸せにできる仕事がしたいと考えるようになりました」。


◆ブランドに人格を~「キットカット」が広く長く愛され続ける理由


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ネスレにはたくさんの有名なブランド商品がある。高岡氏が40代になって担当した「キットカット」もその一つだ。

「当時は、テレビでCMを打てば売り上げが伸びるという時代ではなくなっていました」。知名度はすでに十分ある。商品名を連呼しても売り上げは伸びない。だが、一方で気づいたことがあった。「例えば、テレビで白衣を着た人がワインのポリフェノールが体にいいというようなことを話すと、売り場の棚からワインがごっそり無くなるということが起こっていました」。この現象の理由を考えた時に、宣伝とPRの違いをつかんだという。「ラーメン屋の店主がいくらうちのラーメンはおいしいと言っても、それは信用できない。でも、友達があの店うまいよと言えば食べたくなる。それと同じです」。


そこで思いついたのが「広告ではなくてブランドにニュースを作る」ということだった。「ニュースは、みんな誰かにしゃべりたくなりますよね」とニッコリ笑う高岡氏。「なるほど!」と、思わず身を乗り出すタケ。「でも、いったいどんな風に?」


なんと!そこで生まれたのが「キットカットはきっと勝つ」というかの有名な受験生応援キャンペーンだったのだ。もともとは九州で「きっと勝っとお」(九州の方言で「きっと勝つよ」の意)とゲン担ぎで購入する人が多く、受験シーズンの売り上げが好調だということを知ったのがきっかけだったという。このキャンペーンは大成功を収め、売り上げも利益も大幅に拡大。しかも、それ以来十数年が経った今も効果は続いている。「こんなに長く続くプロモーションはこれまで誰も経験したことはなかった」。


ただ、この成功は単に偶発的に生まれただけのものではない。「ブランドをつくるとき、私たちはブランドに人格を与えます」と高岡氏は語る。


「キットカットには、もともと"Have a break, Have a KITAKAT."というコンセプトがあった。この"break"の意味は国によって違う。日本では、「ストレスからの解放」がそれに当たると思った。困っているひとやストレスで緊張している人の傍にいて勇気づけてあげられる、そういう人格を持ったブランドであって欲しいと考えていました」。


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原点にあるその想いが、受験生応援につながり、東日本大震災の後には三陸沿岸地域の支援にもつながった。「困っている人のそばにいたい」という人格は、他のチョコレートには真似のできない、「キットカット」だけが得ることのできた強力なブランドイメージである。「長く愛されている理由は、そこにあるのだと思います」。


◆21世紀のイノベーションとは~「ネスカフェ アンバサダー」という挑戦


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目標の一つとして「マーケティングを広めるために力を尽くしたい」と高岡氏は考えている。「これは、社会に対する貢献という分野での目標です。日本は今後、少子高齢化によって国の力は縮小していくことになる。しっかりと稼ぐ方法をマーケティングから学ぶことが必要だ」という。


「ネスカフェ アンバサダー」という業界の枠を超えて大きな話題となったイノベーションを起こし、大成功を収めたプロジェクトを立ち上げたのも、高岡氏である。「ネスカフェは大きなブランドに育ち、カテゴリー内シェアは70%を占めるまでになったが、これ以上拡大するのは難しいだろうと思った」。また、家庭では多くのひとに飲まれている「ネスカフェ」が、一歩外に出ると会社やレストランではほとんど目にしないということにも気づいていた。当時、ネスレには、一杯ずつのカプセルに入ったコーヒーと、それを抽出するマシンがすでに商品としてあった。「このマシンをオフィスに置いていただければ、缶コーヒーよりも安い価格でおいしく、かつ手軽に飲んでもらえる」と高岡氏は考えたが、問題はその仕組みの構築だった。


ここで、日ごろから考え、学び続けていたマーケティングがおおいに活きることとなった。

オフィスに一人、「ネスカフェ アンバサダー」という立場の人を作り、その人にマシンのメンテナンスやコーヒーカプセルの定期購入、代金の徴収・支払いなどをお願いする。「ただ、給料も払わずにそんなことをやってくれる人がどのくらいいるのか、全く読めなかった」ので、「北海道でテストを行いました」。


その結果は驚くべきもので、一週間で1500人の応募があった。なぜ、無給で面倒なことを引き受けてくれるのか?その理由の大きな一つが「みんなから感謝されるのが嬉しい」と知ったとき、わかったことがある。「自己実現を求めている人がこんなにも多い」ということである。


マーケティングの神様的存在フィリップ・コトラーが言うところの「自己実現の欲求を満たしていく」ということに、ビジネスモデルがつながった瞬間だった。


現在では30万人を超える「ネスカフェ アンバサダー」がいる。単純計算で、約500万人以上が毎日「ネスカフェ」をオフィスで楽しんでいることになる。「オフィスでのコミュニケーションが活発になって雰囲気が良くなったというようなお話もいただきます」と嬉しそうに語る高岡氏は「21世紀はインターネットで解決する時代です」と続けた。「今という時代が抱えている問題をインターネットで解決していくことを考えないといけない」。


◆リーダーにとって最も重要なこととは


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新入社員で入った会社で順調に成果をあげてついには社長になった高岡氏だが、「社長になりたいと思っていたわけではない」という。そう言った後で「でも、実は新入社員の時の抱負として社内報に『社長になる』と書いていたそうです」と笑う。


「え?それはどういうことですか?」と突っ込むタケに、高岡氏はこう答えた。

「やりたいことがあったから、やりたいことをやるためにはそれなりのポジションになる必要があるとは思っていた。やりたいことがまず先にあって、それを達成するための手段としてトップになろうと考えていたのでしょう」。


いちばん最初にリーダー的役割を担ったのは、30歳の頃。粉ミルクのプロジェクトリーダーを任されることになった。年下ばかりを部下に集めて、7~8人のチームを立ち上げた。「若かったから、失敗もたくさんありました」。このプロジェクトは2年半の試行錯誤の末に「日本での販売はNOであると決断して報告する」という結果となった。「NO」ということは、自分で自分の仕事を無くすこと。サラリーマンとしてキャリアに傷がつくかもしれないという覚悟もしたという。だが、結果としてはそうはならなかった。それどころか「あのときNOが言えたから、社長になれたのかもしれない」と思い返すこともあるという。当時のネスレには「その国の社長に、その国の人はなれない」というルールがあったが、高岡氏は、初めてそのルールを破ってネスレ日本の日本人社長になったのである。


今回、そんな高岡氏にぜひ聞きたかったことの一つがリーダーシップ力に関する考え方であった。「高岡さんの考えるリーダーの資質って何ですか?」とタケが尋ねる。

「リーダーに必要な資質については、たくさんの本が書かれている。よく言われるように尊敬されるような人格や情熱などは当然求められるものでしょう」と言った後で、「でも...」と続ける。

「一流のリーダーになるために必要なのは、勝ち方を知っているということです」ときっぱり。成果を出せない、勝てないリーダーには誰もついていけない。「勝ち方を知っているということが非常に大事です」。


◆新しい現実から新しいビジネスは生まれる


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最後にタケが聞いたのは、
「高岡さん、今後はどんなことで勝っていくぞ、と思っていらっしゃるんですか?」


高岡氏が見つめる未来は、タケならずとも気になるところだ。

「日本は長寿国ですが、健康寿命とはまだ10年程度のギャップがあります。高齢化社会を生きる上での人々の願いは、健康に長生きがしたいということ。そこにネスレが役に立ちたいと願っています」。
その想いから始めたのが、「ネスレ ウェルネス アンバサダー」という新しい仕組みだ。「栄養不足を気にしてサプリメントを服用している人は多いが、ほとんどの方は実際に自分に何が足りないかを正確に把握しているわけではない。個別に診断して足りないものを見つけ、それを添加した「ドルチェ グスト」の抹茶カプセルを提供して、不足している栄養をおいしく楽しく摂ってもらうということを実現していきたい」。それに加えて認知症の予防に役立つ脳トレを提供するなどのサービスも導入している。「食品会社だから食品だけをやるというのは、今の時代には通用しない」。原点に大きな志があるからこそ、様々な垣根を飛び越えてアイデアが広がっていくのだろう。


普段から会議で繰り返している言葉があるという。「新しい現実を見つめよう」と。


「少子化で消費も落ち込んでいくと言われていますが、そんな状況だからこそのチャンスもきっとあるはずです」という高岡氏。「人口は減少しているが、世帯数は伸びている。例えばコーヒーも、以前のように家族みんなでたくさん淹れて飲むのではなく、一人ずつ一杯ずつの需要が高まっている。だから、一杯ずつ包装されたカプセルとボタンを押すだけのマシンが受け入れられた。新しい現実に合わせたソリューションをこれからもどんどん提供していきたい」。


「新しい現実を見つめると、新しい問題が見えてくる。それを解決するのがマーケティングであり、ビジネスです」。


ゴルフの男子トーナメントの主催も3年前から始めた。「世間では、プロゴルフのトーナメントは女子の方が人気です。だからこそ、あえて男子でニュースを作るという狙いです」。


「ネスレマッチプレーレクサス杯は賞金額も日本最高なんですよね!」とタケ。
「はい。1億円の賞金、しかもマッチプレー。世界に出て勝っていける日本人プレーヤーを作りたいという志も当然あります。それらがすべて話題となってニュースになる」。宣伝効果はかなりの数字を挙げているということで、「十分にリターンがあります」と笑う。

今年からは帝王トム・ワトソン氏をアンバサダーとして招聘。「彼は世界で勝つことを知っているひとなので」というのがその理由だという。


まず、根本には大きな志がある。そして、逆算力によって細分化された具体的な目的に落とし込んで、ひとつずつ確実に実現していく。「勝ち方を知っている」と堂々と言い放つ高岡氏はいったい見えないところでどれほどの努力を重ね、考え続けているのだろうか。
今回のインタビューでその片鱗に少しは触れられたような気がするが、ますます目が離せない高岡氏の活躍を今後もずっと応援しながら追い続けていきたいと心に誓うタケであった。


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