2018.10.24

「感動し、夢を与える」JR九州・唐池恒二会長の『感動経営』

nmt事務局
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文化放送・The News Masters TOKYO・マスターズインタビュー。今回のインタビューのお相手は、JR九州 代表取締役会長の唐池恒二さんです。

唐池さんは1953年、大阪府のお生まれ。京都大学を卒業後、当時の国鉄に入社。1987年の国鉄民営化に伴い新たにスタートしたJR九州で観光列車「デザイン&ストーリー列車」を手掛け、次々に大ヒット。2013年にはクルーズトレイン「ななつ星in九州」を実現させ、2016年に悲願の株式上場も果たされました。

◆逆境でこそ楽天的に

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1987年、国鉄が実質的な経営破綻により解体し、7つの会社に分割された。そのうち、東日本・東海・西日本の"本州JR"3社は利益も潤沢に出せるような優秀な会社でスタートを切る一方、北海道・四国・九州の"三島JR"は大赤字でスタート。九州の場合、鉄道の売上が当時1000億ほどで、およそ300億の赤字という体質でスタートした。

予想通り、本州3社は10年以内に上場を果たしたが、「JR九州は上場できっこない」と、当時の運輸省の担当者は思っていた。当のJR九州の社員も「大変な会社に入ってしまった」と思う有様だった。

タケ「頭抱えたんですか?前を向いたんですか?」
唐池「頭を抱えたし、強烈な危機感を覚えました」

これは当時の社長はもちろん、全社員が「このままでは潰れる」という危機感を覚えたのだが、九州の人は楽天的なのか、「なんとかしよう」と前向きになった。危機感がバネになったのだ。革命の狼煙は、こうして上がった。鉄道業の改革や、鉄道以外の業種にもチャレンジした。船乗りを目指す人もいれば、百貨店に研修に行く人もいて、徐々に鉄道以外の事業が成長していった。

株式上場したいという夢と、九州に新幹線を走らせたいという夢、どちらも無理だと思っていたが、九州新幹線は2011年に開業。これで上場もいけるぞと夢が広がった。その後、2016年に上場を果たし、昨年度は最終黒字500億を計上するまでに至った。「ようやくここまで来たな」と唐池会長も胸をなでおろす。

◆外食事業を黒字化。現場に大切なこととは?

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国鉄民営化によってスタートしたJR九州で、唐池会長はさまざまな改革を断行。1993年には年間8億円の赤字を計上していた外食事業に着任して、見事2年で黒字化を達成。のちに、飲食店の東京進出まで果たすことになる。

唐池会長が外食産業に着任した当初、まともに事業として儲ける体質になっていなかった。社員には「8億円」という赤字が重くのしかかり、元気がなかった。だから社員を元気にしようと「黒字にする」と夢を語った。さらに最初の店長会議で「我々外食軍団は戦うんだ!」と敢えて言ったことで、刺激された店長数名が、一人また一人と戦う軍団として奮い立っていく。その勢いは蔓延して、組織は前向きになっていった。

どのようにして現場は息を吹き返したのか?その一つに「コスト削減は楽しみながら」という唐池会長が掲げる言葉がある。プロジェクト名は「さがみつ」「さがせ100万円、みつけろ10万円」だそうだ。

"億単位で赤字だ、1000万円コストを削減せよ"と言われてもピンとこない。でも10万円なら手が届く。現場の駅でも「こうして10万円削減できました」という声がどんどん出てくる。物は考え様ということなのだろうか。

「新入社員には掃除を」これも唐池会長の教えである。入社式で必ず「挨拶をきちっとしましょう、そして掃除をしましょう」と言う。一見、子ども扱いのようにも見えるが、掃除は仕事で最も大事なこと。今、何をしなければいけないかが見えてくるのだそうだ。もちろん、唐池会長の机も整理整頓されているとのこと。

そして、「とにかく大きな挨拶しろ」とも訴える。挨拶をしたり、キビキビしたりすることでお店に「気」が集まってくる。「気」が満ちたお店は繁盛する、「気」が満ちた会社は上手くいく、と信じている。挨拶の徹底にはそうした意味があるのだ。

◆豪華寝台列車「ななつ星」とは?

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(画像提供)JR九州

唐池さんが手がけた豪華寝台列車「ななつ星in九州」は総工費30億円をかけ、2013年にデビュー。チケットの平均倍率は10倍と今でも人気を誇る。唐池さんは2年後に九州新幹線の開業を控えた2009年6月に社長に就任し、この豪華寝台列車構想を打ち出した。なぜこのタイミングだったのか?それには、前述の夢が関係していた。

唐池会長は就任1週間で、部長を集めて「九州に豪華寝台列車を走らせたい」と宣言した。なぜかというと、先ほど述べた2つの大きな夢のうち、「九州新幹線」は2年後の2011年に叶うことになっていた。「夢が実現するということは、夢が無くなるということなんです」唐池会長は言う。

当時、鉄道以外のホテル業や流通業、小売業は順調に拡大を続け、次なる夢がどんどんと生まれていた。しかし、鉄道事業は九州新幹線の次の夢がなかったのだ。「鉄道事業に次の夢を持たせたい。ならば、世界一の列車を作ろう。豪華寝台列車だ」と。

タケ「ヒントになったものはあるのですか?」
唐池「マレーシアからバンコクまで走る"イースタン・オリエンタル・エクスプレス"です」

実際にそこに乗りに行って分かったのは、「何もしないで何も考えずに車窓を眺めるのが最高だ」ということ。そのためには、車両をしっかりデザインして、車窓を眺める時間を極力長くした。テレビを置かず、接客サービスは対面とデジタルを一切排除した。

「ななつ星」のテーマは「新たな人生にめぐり逢う、旅」ここにも唐池会長の強い思い入れがある。

乗客は60代の夫婦が多い。今までの人生を振り返りながら、これからの人生を考える絶好の時間になる。それと同時に、夫婦2人で3泊4日一緒にいることで、配偶者のことを考える機会になる。自分の人生、配偶者の人生にめぐり逢う。さらに、客室乗務員や地元の人と触れ合う。

「だから、『新たな人生にめぐり逢う、旅』なんです」唐池会長は力強く語った。

◆JR九州と他との違いとは?「観光列車は物語を語れ!」

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一般には観光列車だが、「ななつ星」を始めとした列車をJR九州では「デザイン&ストーリー列車」と呼ぶ。全部で12本あり、ネーミングは唐池会長、デザインは水戸岡鋭治氏がすべて手がけている。

他の列車と違うのは、一つ一つに素敵なデザインがあるということと、一つ一つに物語が付随していること。加えて、地元の素材をふんだんに使っていること。だから、「自分たちの列車」といった意識が芽生え、地元の人が愛着を持って応援してくれる。列車を通じて、地域と乗客とJR九州がコミュニケーションをとっている。これがJR九州のデザイン&ストーリー列車の成功の素なのだ。

「その秘密は子ども」と唱える唐池会長。
「どういうことですか?」とタケが訊く。
それを受けて、「私は、鉄道があんまり好きじゃないんです。さらに言うと、鉄道マニアも好きじゃない」と仰天発言が飛び出した。

JR九州の社内にはもちろん鉄道マニアもいれば、鉄道マニア向けの施策もある。記念乗車券はマニアの人が買いに来て、九州で発売すると、だいたい1000枚は売れる。言い換えれば1000枚しか売れない。仮に列車の座席が30なら、30日ちょっとで飽きられてしまう。だからこそ、「デザイン&ストーリー列車」もマニアを無視して作る。それは、女性や家族や子どもをターゲットに、どう喜んでもらえるかという発想でやっていくからであり、だからこそ大きな成功につながったのだ。

◆唐池会長の信念

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唐池会長は9月に「感動経営~世界一の豪華列車『ななつ星』トップが明かす49の心得」をダイヤモンド社から出版。そこで語られている「信念」についてタケが迫った。

タケ「企業経営で一番大事なことは?」
唐池「"誠実"だと思いますね。これまで多くの一流企業、大企業が経営に行き詰ってきました。産地の偽装や不具合のトラブル...それが破たんの原因なのかというと、そうではない。その後の対応がおかしかった」

事件や事故はどうしても起きてしまう。だが、それをしっかり解決すれば問題は収束する。ところが、隠ぺいをしたり、ウソをついて発表したりすると、会社の信用がなくなる。一番怖いのは、会社の信用がなくなることなのだ。

タケ「信念は何ですか?」
唐池「キーワードは『夢・気・感動』です」
タケ「感動とは?」
唐池「トップの人はベースに感動があり、凡人が気付かないようなことに気付きます。感動する人こそ、人に感動を与えることができる人なのです」

唐池会長が、日本の企業で一番の感動商品だと思うものは、ソニーのウォークマンだという。当時のカセットレコーダーは録音も再生もできた。ところが、ウォークマンは再生しかできないが、持ち歩けるほど小型化した。ソニーのトップの人が「こういうのが欲しい」と言ったから生まれ、そしてそれがヒットした。

「"気付き"から"感動"して、"感動するもの"を作っていく」

良い仕事は、誰かを感動させる。料理人は感動させたいと食材を選び、調理に工夫を重ね、食器を選んで提供する。役者も感動させたいと演技力を磨く。上司と部下の関係も同じで、上司は夢を与えてついてこさせ、部下は上司を「感動させたい」と思い仕事をする。感動は循環していく。

自分は、夢を貰い、そして人に与えられているだろうか?自分の職場は「気」に満ちた環境だろうか?さらに、自分は気付きから感動できるものを作っているだろうか?タケもスタッフも、仕事の一挙手一投足について改めて考えさせられ収録を終えた。

文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)こちらから聴けます!
→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)

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