【第100回箱根駅伝】「チームのバランスなどを考えて」神奈川大学・大後栄治監督、退任発表の心境とは

――今後の予定は？
「裏方の仕事もあるので、大学にはまだ残る。駅伝の指導についてはもうやらない。私は新しい物語を進んでいきたいと思う」

――指導を通して神奈川大にどういう文化を植え付けてきたか？
「神奈川大学はモノクロのようなイメージの大学だったが、卒業生たちが駅伝をきっかけに母校に少しずつ誇りを取り戻してくれたのが、一番の箱根駅伝のウチの大学が持つ意味だと思う」

――今の言葉は（神奈川大学に）残せたものか？
「おかげさまで私としては、勝つことが難しい（箱根駅伝という）大会で過去に2回勝つことができたというのは自分自身も誇りです。神奈川大学も誇りに思ってもらえていると思う」

――今大会は覚悟を持ったうえで臨んだ大会だと思うが、何か見えたものは？
「ますますわからなくなった。勝負事なので。私も大学で教鞭をとる以上、客観的・普遍的なことを研究で追いかけているが、人がやることは自然科学でなかなか説明のつかないことばかり。ますますわからなくなってきた印象があります」

――それは学生スポーツ全体か？
「人が関わることは、身体のことなどが複雑に絡み合っているのでそう簡単ではないと改めて感じた。だからこそ周到に準備しなければならない。その中で学生スポーツらしさを失ってほしくないと思ったし、そういう考え方で35年間やれたのは幸せだと思う」

――退任を決められたタイミングは？
「チームのバランスなどを考えて、箱根第100回大会をけじめとして挑ませていただいた。数年前から選手たちには伝えていた。自分も歳を取りましたし、若い時に感じなかったことを感じるようになった。50人いる部員の熱い気持ちを凌駕しないといけないと常に思いながら指導をしていたが、それがなかなか厳しくなってきた。そうならば男らしく退くべきだなと思いました」

――今後は陸上に関わる？
「未定です」

――指揮を終えた今の心境は？
「おそらく少しずつ寂しさが押し寄せてくると思います。35年間監督をやってきて、練習を含めて大きな事故がなかったことにはホッとしています。肩の荷が下りた感じです」

――2回の優勝を振り返って、どこがポイントだったか？
「練習量だと思います。勢いがありました。近年は量が逆に悪影響を与えてしまうこともあったが、『やはり日本一の練習をしよう』としました。スピードはないが安定感とスタミナで勝負して、それで勝負できた時代でしたね」

――箱根駅伝はやはり特別な舞台？
「選手も環境も全て揃わないと勝てない大会だとは思います」

――今年のチームを客観的にどう見ている？
「正直、予選会を通すので精いっぱいのチームでした。学生たちはシードをと言っていましたけど、そこまで甘くはない。きちんと揃ってやっと届くところ。なかなかそろわない状況であれば、1桁は届かないかなと思います」

――次の100年はどのような大会になっていってほしい？
「学生らしさは決して失わないでほしい。もう少し地域貢献、社会貢献に目を向けて、オープンな大会にする。支援しやすい環境にすることが大切だと思う」

――鈴木健吾選手（マラソン日本記録保持者、2022年世界陸上マラソン日本代表）のような世界で戦える選手を育成する場としての箱根駅伝は？
「注目度の高い大会ということで、トレーニングもそうだが、メンタルがかなり鍛えられる。少し前まで高校生だった選手が、どう自分をコントロールするか、どう向き合うかといういい経験になる。一流の選手になるための鍵になると感じます」