ドイツ、メルケル首相の引退、そして日本のリーダーに求められるもの~9月28日 ニュースワイドSAKIDORI

ドイツ、メルケル首相の引退、そして日本のリーダーに求められるもの~9月28日 ニュースワイドSAKIDORI

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16年間ドイツの首相を務め今期で引退するアンゲラ・メルケル首相の後継を決めるドイツ連邦議会下院選挙の投開票が26日行われ、中道左派の社会民主党が第1党に、メルケル首相が所属するキリスト教民主社会同盟が第2党になった。どちらの党も過半数に届かなかったため、両党は、第3党に躍進した緑の党と第4党の自由民主党との連立交渉をはかることになるが、交渉は長期化する見込みだ。ところでドイツのみならずヨーロッパのリーダーとして、国際政治の舞台に立ち続けたメルケル氏とはどのような政治家だったのか?

1967年ドイツに移住し、1971年からベルリン在住。2年前にはドイツ国籍も取得し、今回初めて国政選挙の投票に臨んだ元ベルリン自由大学准教授で哲学博士の福澤啓臣氏が「斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI」にベルリンから電話で生出演した。最近、日本でもメルケル氏を賛辞する記事が目立つが、福澤氏によると、ドイツ国内でもメルケル氏は非常に高く評価されているという。ドイツのテレビでは、政治家の人気のバロメーターを発表する番組が放送されているが、番組アンケートでメルケル氏はずっとトップに君臨し続けてきた。なぜそこまで高い支持を維持できたのか?福澤氏いわく「彼女の素晴らしさは、その誠実さ、国民の悩みに対してのエンパシー(思いやりの心)、そして何より、いろんな意見をまとめる調整能力やそこに辿り着くまでの忍耐力に長けている」ことが挙げられるのだという。いずれにせよ非常にバランス感覚に富んでいる政治家であることは間違いない。その調整能力の高さから、ドイツに良い意味での「妥協の政治」を根付かせたとも言えよう。一方、対外的には、アメリカや中国、ロシアに対してはっきりものが言える政治家だった。メルケル氏で今も語られるのは、自分の恩師であるコール首相(当時)の闇献金疑惑を正面から指弾したことだ。最終的に検察の手が入り、コール首相は献金をした者の名前を話すことがないまま、国民から見放されて惨めな引退を余儀なくされた。ここで斉藤一美キャスターがリスナーから寄せられたメールを紹介した。それは、メルケル氏の政治姿勢とは正反対の日本の有り様に対する指摘であった。保存すべき文書を廃棄、黒く塗ることが常態化。派閥や多数派におもねる一方、国家にとっての不利益になることは質さないし、正さない....。日本の新たなリーダーに求められるものは、メルケル氏のような誠実さと国民に対して何も隠さない姿勢ではないだろうか?原稿執筆時点では自民党新総裁がまだ決まっていないが、「彼女は自分が犯したミスをきちんと国民に対して謝ってきた。だから国民は彼女を信頼してきたのだ」と福澤氏は締めくくった。日本のニューリーダーは、自分のミスを正直に謝れるのか、そして国民に正直であり続けることができるのだろうか。

この後、火曜コメンテーターの小西克哉氏はこのように語った。
「ドイツが戦後初めてヨーロッパのリーダーとなったのがメルケル政権下のことだったが、当初、イギリスやフランスはドイツに対して不信感、警戒感を持っていた。それに対してピースフル・ライズ、平和的に台頭し、ドイツは自由主義の雄になった。これがメルケル首相の時代だった。メルケル氏は統制が厳しい東ドイツで生まれ育って、その経験が今の彼女を作っているのだと思う。私は壁の中で生まれたのだから壁を作らないと言った。これはすごく象徴的な言葉だ」
「ニュースワイドSAKIDORI」続いてリモートで出演した政治学者の姜尚中氏は次のように解説した。「メルケル首相は中道左派の最良の部分を持った人。吉田茂元首相は、日本には見えない38度線があると言った。それは憲法を改正するかしないかというように日本では右と左で意見がかなり極端な場合が多かったからだ。それに対しドイツはナチス・ドイツの過去があり、分断国家として、スターリンによって支配された東ドイツの苦渋に満ちた歴史がある。結局、与党であれ野党であれ、中道左派になるか中道右派になるかの違いだけで、日本のように極端にはならなかったのが大きい。そこを彼女は上手く舵取りした。16年間、彼女が政権を維持し続けてこられたのは、彼女の実力だけではなく、運も味方したのだと思う。そのひとつが(福澤氏の話にもあった)コール首相のヤミ献金問題。こういうことを敢えてやったのは、単なる同胞愛とかじゃなくて、もっとマキャベリスティックな面(目的達成のためには、どのような手段も許されるという考え方)も兼ね備えていたからだと思う。2つめは、シュレーダー政権が国内の経済改革、ネオリベラリズム(新自由主義)をやり、散々な結果で2005年に退陣しているが、これによってメルケル氏がネオリベ的なものに手を染めずに済んだということ」
メルケル氏もずっと順風満帆だったわけではない。特に移民政策では、国民の支持を失いかけた。しかし新型コロナウイルスという危機に直面した際、国民に正直に語りかけたことで求心力を取り戻したと言われる。姜尚中氏はこのように解説した。「国家のために国民があるのではなくて、国民のために国家がある。だから国民に語り、理解してもらう言葉が政治家には必要となってくる。政治家は言葉が命という考えがドイツ国民に浸透しているので、彼女の求心力が回復したのではないか?」 では日本のニューリーダーには何が求められるのだろうか?「国民に対する説明責任を果たすための言葉が必要だ。そのためには議会を通じて丁々発止で交渉をやりながら落とし所を考えるという中道の和合的なテクニックが必要。しかしながら今の日本の政治家にはそれがない。政治は政策過程だけではなくて権力過程から成り立っているわけで、やはり権力を握らなければダメ。だから実力者に向かって「権力を下さい」と言ってるようではたかが知れている。メルケル氏はコール氏を葬るくらい権力獲得の意思が明らかだった。それくらいの意思を示して欲しい」 
この記事がアップされた時点で、すでに自民党の新総裁が決まっているはずだ。自分の言葉で語り、自分の力で権力を奪いにゆくリーダーは誕生したのだろうか?

『斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI』は平日午後3時30分~5時50分、文化放送(AM1134KHz、FM91.6MHz、radiko)で放送中。
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