「アシュカル」東京国際映画祭 底知れぬ怖さのチュニジア映画

「アシュカル」東京国際映画祭 底知れぬ怖さのチュニジア映画

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鈴木BINのニュースな映画

文化放送報道部デスク兼記者兼プロデューサーで映画ペンクラブ会員の鈴木BIN(敏夫)が、気になる映画をご紹介しています

東京国際映画祭「アシュカル」
初めて体験したチュニジア映画は恐ろしきサスペンス

東京国際映画祭、チュニジア映画の「アシュカル」を観ました。北アフリカの国チュニジアと言えば、サッカーW杯で日本と戦った相手。そしてアラブの春のスタート地点となったジャスミン革命が起きた場所ですが、果たしてどのような国なのでしょうか。身動きが取れないコロナ禍にあっても、映画はその土地まで心を飛ばしてくれます。今回、東京国際映画祭に出品されたチュニジアとフランスの合作映画「アシュカル」は、とっても怖いサスペンス映画でした。

映画の舞台は、チュニジア共和国の首都チュニス郊外のジャルダン・ド・カルタージュという地域の実在のマンション群です。ジャスミン革命で23年間独裁政治を続けたベンアリ大統領がサウジアラビアに亡命し、上流階級向けに建設中だったマンション工事も中断となリました(本当の話)。そして今回の物語の舞台は、ほぼ廃墟と化したそのジャルダン・ド・カルタージュのマンション群なのです。埃っぽい道とやや無機質な建物、夜景に映える高速道路のコントラストがノワール感満点。どこか韓国映画(しかも怖いサスペンス系)でスクリーンに広がる景色と似ている気がしました。そしてストーリーも、ハードボイルドな韓国映画もびっくりの怖さです。工事が中断したままのいかにも何か起きそうなマンション建設現場で、焼死体が発見されます。


このシーン怖すぎ!

捜査にあたるのはベテランの男の刑事と若い女の刑事。この組み合わせと言い、タバコを吸うシーンのハマり具合と言い、フレンチノワールそのもの。映画で使われる言葉は、アラビア語にフランス語に英語と、地中海の国際都市ならでは。そして物語はとてもミステリアスです。黒焦げとなった死体にはガソリンをかけられた痕跡が無いのです。人間が自然発火したとしか考えられない奇妙で不可思議な事件が何度も続き、刑事たちの精神状態も追い込まれてゆきます。映画を観る我々もまたこのチュニスのサイバーチックな空間で繰り広げられる不思議なノワール世界に引きずり込まれてゆくのです。警官汚職の問題とも絡まってストーリーは複雑になってゆきますが、悪夢を見ているような、寓話を聞いているような、実に不思議な感覚の映画です。陰鬱な場所なのに、ひょっとして自分もこの場所にも来たことがあるのではないかと思ってしまうようなデジャブ感覚も湧いてきました。私も映画の中の犯人の思惑にはまってしまったのかもしれません。

 映画祭に合わせて来日したユセフ・チェビ監督によると、この作品は黒沢清監督の「CURE」の影響を受けているそうです。思い起こせば確かにCUREを観た時に感じた底知れぬ怖さと、その怖さの中に入っていきたくなる没入感を思い出しました。 若いユセフ・チェビ監督はこの作品が長編デビュー作だそうです。日本の監督の影響を受けて中東から新しい才能が開花しているなんて、実に素晴らしいことですね。    鈴木敏

 

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