2017.10.13

空気を変えてきた男、エステー鈴木喬会長

nmt事務局
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文化放送・The News Masters TOKYOで、経営者や組織のリーダーから、ビジネスのヒントを伺う「マスターズインタビュー」。今回の主役は、「消臭力」「脱臭炭」「消臭ポット」などで知られるエステー株式会社の鈴木喬会長。鈴木会長は1935年のお生まれで、収録日現在82歳。しかし会うなり、とても82歳とは思えない頭の回転の速さ、活舌の明瞭さを我々スタッフは目の当たりにした。インタビューを務めたのは、The News Masters TOKYOのパーソナリティーで、ゴルフ解説者・プロゴルファーのタケ小山も同様であった。(※その様子については、文化放送のポッドキャストにて、是非音源を聞いてほしい。)そんな鈴木会長のこれまでについて聞いてみた。


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◆家業、そして日本生命で鍛えた営業のコツ


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鈴木会長のビジネスの原点。それは家の跡に建てた2畳間くらいのバラックにあった。

鈴木「元々実家はディスカウントストアのような雑貨屋をやっていて、それが繁盛していました。父親は昔のツテを使って、ちり紙やせっけん、ポマードなど、商品を集めてきて、それを私が売っていました。」


そんな幼き頃の鈴木少年を見た近所のおじさんたちは、かわいそうだと思って買ってくれたそうで、当時からトップセールスマンだったという。家の手伝いをしては商才を磨いたのだ。その一方で、勉学にも励んでいた。


タケ「大学は一橋大学ですよね?」


鈴木会長の兄が置いて行った数学の本。当時はそれに夢中になっており、「戦争がなければ数学者になっていたと思う。」と当時を振り返る。一橋大学卒業後に、日本生命に入社。40歳の時、それまで無かった法人営業部門を立ち上げた。


タケ「営業のコツは?」


鈴木「社員1万人以上のところにターゲットを絞ったんです。さらに、有価証券報告書を10年分調べたり、どんな派閥があるのか等、とにかく調べて、相手より相手のことを知る。調べ上げた上で、"どうしてこうなってるんですか?"と質問をし続ける。そうすると相手は答えるしかないんです。私はあんまり喋らない。トップセールスマンは喋ったらアカンのですわ。」


また、巷で言われる営業に関する鉄則にも、鈴木会長はこう指摘する。

鈴木「"販売は断られてから始まる"ってあるでしょ?それじゃダメ。販売は断られたら終わりなんです。断られないセールスをやらないといかんですよ。」


◆成功体験を捨てろ~エステー改革~


171012エステー鈴木会長対談2.JPG


時は遡りバブル真っ只中の1988年、エステーの株価は7500円を記録。当時は、『高田馬場のソニー』と呼ばれ、有頂天になっていたという。しかし・・・

鈴木「私が社長に就任した1998年には株価は360円になったんです。」


タケ「株価が、1/20ですか!?」


これに関して、日本新記録じゃないかと思っていた鈴木会長。当時の社内には、「俺の若い頃はこうだ。」という成功体験の逆襲があったそうだ。しかし、それは景気が伸び続けた流れに乗っていただけ。業績が悪くなる一方で「しばらくすれば元に戻る。何とかなる」という雰囲気が蔓延していた。それは、バブルがとっくに崩壊した1998年まで続いていたという。


タケ「最初に社内でとりかかったのはなんですか?」


鈴木「全面否定ですわ。まず、5つあった工場を3つにしたんです。さらに取扱商品を860あったんです。それを1/3に。860あっても、一人のセールスマンが説明できるわけがないですよ。」


商品は100もあれば充分で、それでも多いそうだ。さらに、鈴木会長は物流拠点に行って大鉈を振るう。

鈴木「ほこりがついてるものは全て捨てさせました。"全部、この鈴木喬が悪い!とにかく捨てちまえ!"と」


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数字は変わらないが、無駄なものが無くなった分、利益は上がった。最初は、なかなか言うことを聞かなかったが、そういう時は何十回も言うしかない。最初に強烈な印象を与えて、「こいつはタダモノではない」と思わせる。これが、鈴木会長メソッドの一つなのだ。


◆あの大ヒット商品は、女神のお告げ!?


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業績悪化していた、1998年に社長に就任した鈴木会長。売れない商品をとにかく捨てる一方で、翌年は発売する新商品を1種類に絞った。それがのちに大ヒットするあの商品だった。反対意見を押し切った手法とは...

タケ「売れる商品を作らないといけないじゃないですか。商品開発へのテコ入れはどんなものを?」


鈴木「商品開発はやらないと先細りしますが、私は全くわからない。でも素人が一番強いんですわ。」


それまで毎年、60品目の新商品を考案していたエステー。「そんなものは当たるわけがない」と鈴木会長。そこで、新商品を一つに絞った。それがあの軽快な歌でお馴染みの「消臭ポット」であった。


役員や営業からは猛反発で「売れなかったら会社がつぶれる。」だけでなく、時代に逆行した、小さくてかわいいというコンセプトだったため「こんなもの売れない」とまで言われた。当時はデフレで、大きくて安いことが当たり前だったのだ。


タケ「どうやって説得したんですか?」


鈴木「説得なんてないですよ。全国の営業担当を全員集めて、"今朝、夢を見た。女神が表れて『消臭ポットでエステーは救われる』と3度言った。びっくりして目が覚めたら朝だった。朝の夢は正夢なんだ!だから、俺の言うことに間違いない!"って言ったんです。」


聴いている方は呆れて、理論闘争を諦め、反対の声は一気になくなったという。

タケ「その夢は見たんですか?」


鈴木「見る訳ないでしょ!私、目を瞑るとすぐ寝ちゃうんだもん。それくらいのことができなきゃ、世の中渡れないよね!」


◆目指すはグローバル・ニッチ・No.1


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「消臭ポット」のほか、「ムシューダ」、「脱臭炭」などのヒット商品を生み出したエステー。その背景には、鈴木会長の信念「グローバル・ニッチ・No.1」があった。

タケ「グローバル・ニッチ・No.1ってどういうことですか?」


鈴木「ニッチというのは、壁にあるくぼみのこと。世界で一番のくぼみになる。そのためには、戦場を選ばないといけないんですよ。」


例えば、花王やP&Gのような大手が参入する紙類や洗剤といった大量生産商品では戦わない。戦うのは、そうした大手が進出しない、小さなくぼみ=ニッチな市場。そうした、くぼみを少しずつものにしていって、そこを独占。これがエステー・鈴木会長流だ。他の人が目を付けないようなところしかやらない。だからこそ反対意見もあるのだ。

タケ「商品開発で大事なことは?」


鈴木「『見てわかる、聴いてわかる、使ってわかること』」


単純明快である。さらに、こう続ける。

鈴木「絶対勝てる方法は負けない戦場で戦うこと。負けそうになったらドローに持ち込むだけ。」


◆空気を変えたい、日本を元気にしたい


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2011年3月11日。日本を未曽有の混乱を陥れた東日本大震災。鈴木会長はいち早く「消臭力」のCMを世に送り出し、話題となった。あのCMの真意とは何だったのだろうか。

企業スローガン「空気を変えよう」に込められた想いとは!?


タケ「東日本大震災後、いちはやく消臭力のCMを流しましたよね?」


鈴木「皆びっくりしないで、普通の生活に戻ろうというメッセージを流し、日本中を『ワオ!』と言わせたかったんです。コマーシャルを変えようとその日(3月11日)に決めました。」


エステーには、鹿毛(かげ)さんという宣伝担当の役員がいて、あの当時、彼はCMの撮りやすさからポルトガルを撮影場所に選んだ。それを聞いた、鈴木会長はポルトガルのリスボン大地震からの復興を思い起こした。そうしたことから、あのリスボンの地は選ばれたのである。無事CM撮影は終了し、いよいよCMが流れる日になった。宣伝担当の鹿毛さんも、今回ばかりは「エライことになるかもしれません。会社が潰れるかもしれません」と怯えていた。


結果は見事大当たり。2011年の全日本シーエム放送連盟主催の『2011 51st ACC CM FESTIVAL』にてACCゴールドを受賞。世間から、そしてCM業界からも高く評価されたのであった。


時には理屈で攻め、時には理屈をひっくり返したところで攻める。短時間ではあったが、我々は80歳を超えても尚も衰えを知らない鈴木会長の硬軟二刀流の経営手腕をみた。何故このようなことを行い続けるのか?その根底には「空気を変えよう」という企業スローガンがあった。


鈴木「日本の社会の空気を元気にしたいんです。そういう途方もない馬鹿馬鹿しい会社が1社くらいあってもいいんじゃないかな。」


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年を重ねると考えや発想が保守的になりがちだ。しかし鈴木会長は、「衰え」という二文字を知らない。それどころか、話を聞けば聞くほど「次はどんな一手を?」という期待すら生まれる。そんなエステー・鈴木会長は、これからも、様々な方法で、そして様々な局面で日本の空気を変えてくれるに違いない。最後は、がっちり固い握手を交わして、タケはエステー本社を後にした。

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