2017.12.15

上手くいかないプロジェクトは欲を隠している。為末大の語るリーダー論

nmt事務局
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『マスターズインタビュー』今回のお相手は、株式会社侍の社長を務める為末大さん。為末さんは1978年、広島県のお生まれ。400メートルハードルの選手であり日本代表として活躍。2001年の世界陸上で3位に入り、スプリント種目の世界大会で日本人初のメダルを獲得しました。また、シドニー、アテネ、北京と3回のオリンピックにも出場を果たすも、2012年の日本選手権で予選落ちし、現役を引退。スポーツ界に常に一石を投じてきた為末さんが今思うこととは!?文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティ・タケ小山が迫った。


◆スポーツ選手のセカンドキャリア


為末大様   (6).JPG


タケ「現在の活動について教えて下さい。」


為末「現在の活動の半分はメディアなどの個人活動、もう半分はスポーツに関する事業を請け負っている会社としての活動です。」


イベントや新豊洲の施設の運営をこなす一方で、最近は『Deportare Partners』というプロジェクトをスタート。これは協会・選手・スポーツビジネスの担当者など、各セクションごとに分かれているものの橋渡しすることを担う役割であり、こうしたスポーツのプラットフォーム作りに邁進しているのだそうだ。


例えば、卓球のプロリーグの立ち上げチームや、メディアのチーム、選手と3者がシェアオフィスをしており、一緒になって話をすることで、色々と「これをやってみよう」というのがアイディアが出てくるのだという。


しかし為末さんは、最初から今の活動を思い描いていたのだろうか。


タケ「引退後のセカンドキャリアは、どのように考えましたか?」


為末「僕も悩んだ時期はありました。大事なのは、期待値を下げることですかね。」


自分がスター、ヒーローでいる時期があったので、電車に普通に乗るのが気恥ずかしい時代があった為末さん。しかし、ゼロからスタートするのは、覚悟が決まれば頑張れるので、その点に苦労したのだそうだ。


タケ「現役から準備しておくことってありましたか?」


為末「唯一、現役のときに言えることは、知り合いを紙に書いてみて、半分以上がスポーツ関係者だったら、アラームを鳴らしてスポーツ以外の関係者を増やせということです。」


話す内容が違って、そこから新たに見えてくるものがあるため、自分で知り合いのバランスを整えることが大切なのだそうだ。為末さん自身も、考えているつもりだったが、リアリティを持ったのは引退してからだったと振り返る。もし、本気で考えるなら、漠然とでもいいので現役、それも高校生くらいの頃から考えた方が良いとも加えた。


◆為末流リーダーシップ


為末大様   (2).JPG


タケ「現役引退後、さまざまな活動をされていますが、新しいことを思いつくのはどんな時ですか?」


為末「常に考えています。社員からは"思い付きやめてくれ"、と言われていますけど(笑)」


ただ、それでも思いついて現実的になるまで話さないのが為末流。特に、全然ジャンルが違う人と喋るとアイディアが出るのだという。例えば、以前訪れた「子ども学会」では人工知能の学者も一緒に「学ぶとは何か」と話しているのを見たが、そのとき自分の頭が膨らんでいくのを感じた為末さん。


「これはアスリートに置き換えられないか?」と感じたという。というのも陸上界には陸上界の人しかいないのが当たり前。しかし、アシモなどのロボット学者や脳神経学者、二息歩行の研究者が揃ったら各界に理解が深まるのではと考えたそうだ。


これまでに複数のプロジェクトを立ち上げてきた為末さん。その中で特に形になって喜ばれているのは、新豊洲のスポーツの施設だと語る。室内を障害がある方でも楽しめ、現在も来場者の2割は障害者。こうしてたくさんの人を巻き込んで動かしてきた為末さんの核となるものは何なのだろうか?


タケ「リーダーシップに必要なこと、何が必要でしょうか?」


為末「飲み会の作法は重要ですね(笑)。あと、うまくいかないプロジェクトは、自分の欲を隠しているものでしょうか。最初に『僕は、お金が欲しいんだ!』と言って、相手はこれが欲しいと、本音のところでお互いに話し合うのが大事ですね。あとは、"こういう人が具体的に喜ぶ"というのが見えているものの方が人を巻き込みやすいし乗りやすいという印象がありますね。」


これに関しては、経営者のみならず、耳が痛い読者が多いのではないだろうか(もちろん筆者もである)。


◆陸上界がこれからたどるべき道


為末大様   (3).JPG


選手としてだけでなく、運営としての視点も持つ為末さん。彼の眼に、現在の陸上界はどのように映っているのだろうか?


タケ「陸上界の現在の課題を言うとすると何でしょうか?」


為末「それは稼ぐことですね。スポーツ界は補助金が入っています。しかし、2020年まではその額が膨らみますが、その先は激減すると思います。だから、2020年までにどうやって自前で稼げるようになっているか。それが2020年以降生き残れる協会になるかどうかを決めると思います。」


人気があるうちに、陸連が自前で稼ぎ、補助金の比率を小さくする。今は放映権やスポンサー契約を収入源にしているが、他にもグッズの販売など色々ある。アメリカのスポーツビジネスには、日本ではやっていない領域がまだまだあり、その分稼げる可能性は十分にあるのだそうだ。もちろん、これは陸上以外のスポーツにも言えることだ。


しかも陸上選手を見ると、男子100mの桐生選手や、リオオリンピックでリレーをとったメダリストもいるまたとないチャンス。さらに為末さんはこんなことも教えてくれた。


為末「ひとつ、海外でいいなと思ったのは、100mの決勝が10分くらいあったんです。」


数10秒で終わる競技なはずなのにと疑問を感じる人も多いだろう。しかし、その決勝はショー化していたのだ。


選手の紹介はスポットライトを浴びせて行い、スタート前の緊張の瞬間には心臓の音が「ドクンドクン...」と鳴る演出。静寂が広がるスタジアムに、スタート合図が鳴り響き、ゴールまで導かれるようにレーンがパッとライトアップされる。その10分間は見ていて全く飽きなかったそうだ。


選手はいつも通りだが、演出の面でいろんな見せ方をする可能性・領域を感じたのだという。さらに為末さんはこう続ける。


為末「スポーツは遠くから見た方が良いものと、近くで見た方が良い物二つあって、陸上は圧倒的に後者なんです。」


100m走は時速40km、走り高跳びは電話ボックスの高さ、三段跳びは渋谷のスクランブル交差点の距離など、どれも近くで見た方が良い。けれど、競技場の中からでは遠いのが現状。その考えから、丸の内のど真ん中での「ストリート陸上」を開催したのだそうだ。そして、それをきっかけに、最後は競技場に来てほしいと願っているのだという。


今までムーブメントを起こしてきた為末さんならではの発言である。さらに、その注目度を上げるために欠かせないのは、強い選手の存在。その点について為末さんはどのように考えているのだろうか。


タケ「日本の陸上界が強くなるにはどうしたらいいでしょう?」


為末「アメリカのサンディエゴのオリンピックセンターで練習していたことがありますが、そこにはアメリカ人以外が3~4割いました。」


日本ではなかなか、考えづらい光景である。その真意は、「高いレベルの人がいれば周りもレベル上がるから。」なのだとか。強い選手が自然に生まれることと、強い選手を育てるシステムを作ることでは、システムを持つ方がもちろんレベルの高い人が集まり、その分強い選手も生まれやすい環境となる。例えるなら、錦織選手がもう一回生まれることを考えるより、IMGを作った方が良いということ。どの国から来ても強くなれるシステムがあれば、結果として日本の選手も強くなるという原理なのだ。


◆2020年に向けて


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デザイン、工費、建設期間など、数多くの問題を抱え続ける新国立劇場について、為末さんはどのように考えているのだろうか?


タケ「新国立競技場の問題、どうお考えですか?」


為末「陸上競技場として残らないのは寂しいなと思います。とはいえ、陸上界がまとまって意見を出したかという点もあります。僕みたいなアウトサイダーは意見を言いましたが、陸上界全体がまとまって『これなら受け入れられる』という意見を出しても良かったという気もするんですけど。」


さらにタケはたたみかける。


タケ「やはり専用競技場欲しいですか?」


為末「欲しいですね。スイスのローザンヌっていう所には、ほぼ陸上専門の競技場があるんです。観客席の作りから100m走を上、もしくは選手の背中から見られる場所もあります。」


当然、サッカーにはサッカーの観戦の仕方があり、陸上には陸上の観戦の仕方がある。そういう意味では陸上専門の競技場を陸上界がひとつだけ持って大事にするというのもアリだと考えているそうだ。


2020年に向けて、為末さんの先にあるのは東京オリンピックだけではない。


タケ「東京パラリンピックのお手伝いもされていますね?」


為末「義足の開発ベンチャーの『サイボーグ』っていう会社のお手伝いをしています。」


それを履く選手のトレーニングを見ているという為末さん。その中に、日本選手は3人、アメリカの選手が1人。世界最速の義足と世界最速のパラリンピアンの支援をしようとしているのだ。オリンピアンとパラリンピアンの実力差は、今は微妙なところだが、いずれ義足の方が早くなるとも断言した。そういう意味で2020年は、さらに新たな楽しみを我々に与えてくれそうだ。


タケ「日本陸上界が強くなるには?」


為末「アメリカのサンディエゴのオリンピックセンターで練習していたことがありますが、そこにはアメリカ人以外が3~4割いました。」


日本ではなかなか、考えづらい光景である。その真意は、「高いレベルの人がいれば周りもレベル上がるから。」なのだとか。強い選手が自然に生まれることと、強い選手を育てるシステムを作ることでは、システムを持つ方がもちろんレベルの高い人が集まり、その分強い選手も生まれやすい環境となる。例えるなら、錦織選手がもう一回生まれることを考えるより、IMGを作った方が良いということ。どの国から来ても強くなれるシステムがあれば、結果として日本の選手も強くなるという原理なのだ。


◆2020とその後


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「2020年まで何をどうするか?」が、大命題としてある現在の日本。しかし、注目を浴び続けたアスリートの現役引退後のキャリアが大切なのと同じように、2020年に世界から注目を浴びた日本のスポーツ界にとって、その後に必要なこととは何なのであろうか。


為末「スポーツ界が変わっていくっていう必要もある気がしますが、ひとつは自前で稼いで選手や役員に報酬を払うこと。さらにもうひとつは、社会の方から、『スポーツって社会に何をしてくれるの』と問う時代が2020年以降来ると思います。」


2020年までは熱狂の中にいるが、そこから先は、具体的にスポーツがあって良かったと思わせて欲しいという要望が出てくると見込んでいる。そのための取り組みは今後欠かせないそうだ。為末さんは、さらにこう続ける。


為末「一番良いのは世界中からパラリンピアンが2020年まで毎年、日本でプレパラリンピックをやって、羽田・成田、宿泊施設、競技場など、どこが問題かっていうのを集約して、それをイチから変えて行ったら、2020年には世界で一番バリアフリー進んだ社会になりえます。そうなると、パラリンピックやって良かったってなると思うんです。」


「一大バリアフリー国家構想」とでも言うのだろうか。高齢化が進んでいる日本ならではの国のあり方ではないだろうか。


為末「そうなるならそうなるで、僕は『寛容な社会』というコンセプトが気に入っていて、誰が来ても寛容に受け入れてもらえるような施設や意識を日本でブランディングすれば、日本は別の形で一目置かれるようになると思うんです。」


64年の時のように「これをきっかけに経済大国に...」というのはどう考えても難しい。「違う形の尊敬のされ方」の模索する方が今の日本には合っているのだという。最後にタケ小山がこの質問。


タケ「為末さんの今後の目標は?」


為末「人間の心を理解するのに興味があります。また、現役時代、ずっとプロ選手がビジネスクラスに乗るのを見ながらエコノミーで移動していたので、日本の陸上の代表をビジネスに乗せてあげたいって思いがあります。スポーツ産業が大きくなって、それなりに稼げるように手伝っていきたいです。」


かつて日の丸を背負った侍は今、日本そして世界の陸上界の未来を背負っている。もちろん、問題はどれも一筋縄ではいかない。それこそ社会・組織・利権...といった様々な超えるべき、ハードルがいくつも存在する。しかし、既存の考えに縛られない深い知見とトップアスリートとしての経験があれば、どんなものでも超えられるのではないだろうか?為末さんにはそう思わせてくれる、説得力と行動力を備えているのである。


為末大様   (8).JPG


文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:小尾渚沙(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)

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