2018.10.04

ジャングルで巣穴を掘ること20年、 農業するアリ『ハキリアリ』の研究者が発見したスゴ~イ能力とは?

nmt事務局
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文化放送・「The News Masters TOKYO」マスターズインタビュー。今回、パーソナリティのタケ小山のお相手を務めたのは、行動生態学・社会生物学研究者で九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター准教授・村上貴弘さんです。


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ハキリアリというアマゾンのアリを研究する村上さん、アリ柄のTシャツにリュックというスタイルで登場。博士というより、探検家のようだが、ジャングルでアリに噛まれつつ、巣穴を掘るフィールドワークの猛者だと思えばうなずける。タケも同じアウトドア派、旧知のような打ち解けた雰囲気で話が始まった。


どうしてそんなにアリが好きなんですか?タケは率直に聞いてみた。


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「人間以外の社会性をもつ生き物に興味がありました。鳥や小動物、魚の行動は、人と共通点が多く、なんとなく理解できてしまう。ところが、昆虫は、特にアリは、想像を絶する暮らしをしています。その中でもハキリアリは、人間以外に唯一農業をする生物。これはバカにできないぞと、研究を始めました。」


以来、20年以上、村上さんはアリの生態や社会の仕組み、進化の過程などを研究している。今は日本の大学に所属しているが、今でも年に何回か中南米のジャングルでアリの巣を掘っているそうだ。


アリと言えば、フロリダのゴルファー時代、タケ小山はさんざんアリに噛まれた経験がある。昨年そのアメリカで猛威をふるう害虫「ヒアリ」が日本にも上陸し、ひとしきり話題になった。村上さんは70回以上刺されているが、毒があるので刺されると腫れるものの、必ずしも全員が重症化するわけではないそうだ。


「昨年は日本に上陸したというので、ヒアリについて300件以上の取材依頼がありました。ヒアリはアマゾン原産で、1940年代にアメリカに上陸して大繁殖しています。外来生物は新入地で進化する傾向があり、ヒアリも、現地では弱いんですが、新天地で毒が強くなっています。駆除が難しく、アメリカでは経済被害が年間5000~6000億円、これまでに100人くらいの方が亡くなっています。」


日本に上陸して、繁殖してしまうと、在来種が駆逐されてしまい、農業被害も懸念されて一大事。自治体に駆除の指導をしたり、コンテナの業者にアドバイスしたりしているのだそうだ。ヒアリは怖い、それでもアマゾンでは弱いアリ?では強いアリっていうのは?


「熱帯雨林にいるグンタイアリは、毎朝10時半ごろがお食事タイムで、黒い動くじゅうたんのように広がって、そこにいる小動物を食べつくしてしまいます。もっと強いのがパラポネラというアリで、体長が3センチくらい、毒針に触れただけで3日くらい手が閉じられないほど腫れる猛毒を持っています。」


中南米のアリの中で侵略的外来生物に変貌したのは比較的弱いアリたちで、強い種類のパラポネラやハキリアリが外来生物になって中国や日本にやってくる可能性は低い。原産地では弱くても、ヒアリのように侵略的外来生物になってしまった昆虫には警戒が必要だ。外来生物の問題は、たびたびニュースになるが、爬虫類や魚類だけではなく、昆虫でも日本の固有種にとって深刻なのだ。


農業をするアリ「ハキリアリ」の女王は、一度の交尾で生涯に2億の卵を産む


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昆虫好きなら、図鑑などで見たことがあるかもしれない。切った葉を運ぶアリの道をたどると巣が見つかる。巣穴を掘ると白いキノコ畑が。村上さんは中米のジャングルで巣穴を堀り、アリの巣やキノコ畑を収集して、研究のために飼育している。日本では、他に多摩動物公園の昆虫園でも見ることができるそうだ。


「ハキリアリの巣には100万個体の働きアリがいて、中心は一匹の女王アリです。巣は大きいもので10メートル×10メートル×5メートルくらいあります。巣の中には、数千個の畑があって、巣は20年くらいもつんですが、その間に3.5トンくらいの大量のキノコを栽培します。


女王アリの寿命も20年くらい、カナブンくらいのサイズです。一生に一度複数のオスと交尾をして、生涯でおよそ2億個の卵を産みます。大量の精子を体内に常温保存し、小出しにして子どもを産み続けるんです。ハキリアリの食べ物はキノコなんですが、食べるのは女王と幼虫がほとんど。働きアリは3か月で死んでしまいます。そんな超ブラック企業みたいな社会で、変わらずに5000万年も生き続けている不思議な昆虫なんですよ。」


20年も子どもを産み続ける女王アリは、最初から特別なのか?タケは興味を惹かれる。


「いい質問ですね、実は女王を決める遺伝子などは、発見されていません。どの幼虫が女王になるかは、働きアリが与えるキノコの量でコントロールしているようですが、決め手はよくわかりません。働きアリも10種類ほどいて、役割で大きさや形が違うのですが、幼虫の時に与えるキノコの量で変わってくるらしい...ことはわかっています。」


興味深い研究対象ではあるが、南米では農業害虫で、オレンジや葉物野菜、コーヒーの葉に被害があり、膨大な予算を割いて駆除しなくてはならない大問題なのだ。ところで、そのキノコはどんな味なのか?タケが気になって聞いてみると・・・


「まずいんですよ(笑)食べてみたんですが、かび臭くて。おいしかったらよかったですね。ちなみに女王アリはピーナッツのような味で、食べられます。多産の象徴で縁起がいいので、引き出物などに贈られるようですね。中南米ではハキリアリは悪者ですが、研究者としては、研究を平和的な駆除に還元したいですね。ハキリアリはサクラが嫌いなので、サクラに含まれる『クマリン』という物質を畑にまくなど、農薬を使わない方法を提案するとか、考えていきたいと思っています。」


農業をする不思議なアリは、アリ語を喋る


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村上さんの専門、行動生態学というのは、生きている生物を観察することで、社会の仕組みなどを解明する学問だ。その中でも、今力を入れているテーマがある、その内容を聞いて、タケは耳を疑った。なんと、ハキリアリが喋るというのだ。村上さんは門外不出のアリ語の音声をタケに披露した。注意深く聞いていると、数種類の音がする、それぞれに意味がありそうな気がしてくる。


「例えば『いい葉っぱを切っているよ』とか『この葉っぱはあんまり好きじゃない』など、アリの状況によって出す音が違います。良い葉の情報では、アリが集合し、いまいちだと別のところに移動する、保育係が出す音、攻撃されているときの警戒音など、明らかにコミュニケーションに利用されているんです。アリがどういう行動でどういう音を出すか、15種類ほどの音をサンプリングして、辞書を作っています。特に女王アリの声は他と全く違う音質です。女王の『止まれ!』を聞くと働きアリは『やばいぞ』という感じで凍り付き、動きを止めてしまいます。他にも『埋まったから助けて』という音は、あまりよろしくないですが(笑)アリを埋めて確かめました。これは、真面目な研究なんですよ。」


女王アリが発するアリが動きを止める音など、アリの言葉を解析できたら、アリと人間の関係性を変える可能性があるそうだ。農地にアリが入らないようにするなど、音が防虫に使えるかもしれない。そのためにも、研究を進めていきたいと語った。


「昨年は苦しい一年でした。ヒアリは好きで日本に上陸したのではなく、人間が連れてきたのですが、害虫となれば駆除するしかない。でも薬で殺すのではなく、他にも排除する方法があるんじゃないでしょうか。例えば昆虫が反応する音や匂いを使って、平和的に解決できることを願っています。」


持続可能な社会のための決断科学


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ところで村上さんは、今九州大学の決断科学部という学部に所属している。耳慣れない学問だが、どんなことをするのだろうか?


「科学が発展することが、社会にどう役立つのか、持続性はあるのかを考える学問です。人間はまだ20万年しか生きていないけれど、ハキリアリの研究も、農業を軸にした社会を5000万年も維持しているのかを解明することで、そういった生態学の研究成果を世の中に還元することを目指しています。」


自然科学だけではなく、文理を問わずに医学・工学、社会学などの研究者が集まり、どんな決断をすると、どういう結果になるのかなどの事例を積み上げ、よりよい未来を決断するためにどうするかを研究している、総合的で新しいアプローチの学問なのだそうだ。アリの組織にももちろん学ぶところが大きい。


「例えば、アリは他利行動をとる生物です。他の個体のために自分の行動を選ぶ、3か月で死んでしまう働きアリが飲まず食わずで働き続けるのも、そういうことです。その行動も強いリーダーに統率されているのではない。女王はいますが、規律は各個体がもっていて、それぞれの働きアリが自分の軸で自発的に動いている。命令されて動いているわけではないんです。アリに倣うと、持続性がある組織を作るには、トップダウンではなく、個々が規範を高めて動くことが重要、個々の教育が大事だということかもしれませんね。」


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ハキリアリは日本人にはなじみがない虫だ。しかし生態を知ると、なんだかかわいく思えてくる。しかも、アリの研究は人間との親和性が高く、人間社会に還元できる事例が数多くあるそうだ。タケは、最後にもう一度女王アリの「止まれ!」を聞かせてもらった。またいつか、村上さんのユニークなアリ語研究、先々の成果を聞くのが楽しみだと思った。
(アリ語を聞いてみたい方はpodcastで!こちらをクリック→The News Masters TOKYO Podcast


【番組情報】
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)

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