『消防車ってどうやって作ってるの?』<WEBオリジナル記事>

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ライターのアルパカです。今回は身近な特殊車両「消防車」について取り上げます。

パトカーや救急車、消防車、ハシゴ車等々、人を助ける特殊な能力を持った車って、何かかっこよくないですか。僕は消防車が一番好きです。
近所に消防署があるんですけど、よく見ると、色々な種類があるようです。どうやって作っているのでしょうか?



大手の自動車メーカーが作っているのでしょうか?
買おうと思ったら誰でも買えるのでしょうか?
どこで、誰が、どうやって作っているんだろう?
消防車がどうやってできているのか調べてみようと、今回は消防車を始めとする特殊車両の設計開発や製造を行っている株式会社トノックスさんに取材に協力していただきました

常務取締役 殿内崇生さん(とのうち たかおさん)に、お話を伺いました。



株式会社トノックスさんは神奈川県平塚市にあります


▲トノックスさんへ向かう途中、早速、フェンス越しに赤い車を発見!
消防車でしょうか? ワクワクしてきました。


▲トノックスさんに到着。


▲敷地内には、真っ白い車が、順番待ちの状態で所狭しと並んでいます。

目次

  1. 消防車ってどうやって作ってるの?
  2. ほかにもあるトノックスの特殊車両
  3. 受注が増えた特殊車両
  4. トノックスの新しい取り組み
  5. 株式会社トノックスとは?

消防車ってどうやって作ってるの?

消防車ができるまでの工程についてお聞きしました。


アルパカ
今回は消防車がどうやって作られているのか知りたくてお邪魔したのですが、まず、株式会社トノックスさんについて教えてください。


㈱トノックス 殿内さん
トノックスでは、みなさんの身近なところですと消防車のほかに、高速道路パトロールカーレッカー車といった特殊車両を作っています。


アルパカ
消防車ってどういう流れで作られるのですか?

㈱トノックス 殿内さん
消防車は、消防団のある自治体や、工場内の火災に備えて自衛団を持っている企業や神社などから、代理店となっている消防メーカーさんが入札で受注し、そこから弊社(トノックス)に依頼がきます。
弊社はその発注を受けて、自動車メーカーさんから車を購入し(たとえばスズキ自動車)、車の制動部分はいじらずに、車体部分を加工したり、塗装したり、荷台部分を製造加工して完成させます。
代理店を挟まずに、弊社が入札に参加したり、直接受注する場合もあります。


▲工場の敷地内に並んでいる白い車たち。
これから、どう変わっていくのでしょうか。


▲1台1台、手作業で塗装していきます。


▲赤く塗られると消防車感が出てきます。製造する会社によって赤色は微妙に違うそうです。
なお消防車が赤いのは、”道路運送車両の保安基準”という運輸省令で「緊急自動車の車体の塗色は、消防自動車にあっては朱色とする」と決められているからだそうです。


▲軽消防車は車ごとでの細かい依頼が多く、取りつけられる部品が1台1台違うそうです。
なので仕様書や設計図を確認しながら、丁寧に細かいパーツを手で組み上げてカスタマイズしていきます。


▲ほぼ完成した軽消防車
ちなみに1台のお値段は依頼内容にもよりますが、車体価格プラス150万円〜200万円前後だそうです。
ということは、車種によりますが300万円くらいで買えるのでしょうか。

軽消防車は全国では毎年200〜250台ほど作られているそうですが、そのうちトノックスさんでは年間100台程度作っているとのことです。シェア40〜50%!?


▲こちらは大きな消防車になる車たち。

トノックスさんでは消防車以外の特殊車両も作っています。
作り方は消防車と同様で、下記になります。


▲特殊車両が完成するまでの流れ。基本的ハンドメイドなんですね。


▲さて、こちらの車は高速道路で見かけるパトロールカー、正式名称道路巡回車です。人気のミニバン、日産「エルグランド」から作られています。真っ白い状態から黄色く塗られていきます。


▲表示装置や回転灯がルーフに取りつけられると、遠くからでもパトロールカーだとわかります。


▲完成。
高速道路パトロールカーには、道路管制センター内の交通管制室と通信を行うための「無線装置」、車外アナウンス用の「拡声装置」、車両上部の標識を点灯させるための「標識操作装置」が必ず装備されています。


レッカー車。車の車輪を吊り上げ、牽引する車です。
吊り上げるための、レッカーブーム(アンダーリフト・ピボットアーム)、クレーン、アウトリガー、ウインチ、補助車輪(ドーリー)などが取り付けられています。


▲こちらの、青と黄色の組み合わせのほうが見慣れているかもしれません。
警察、消防、自衛隊、日本自動車連盟(JAF)のロードサービス隊、警察署から委託を受けた車両移動業者、自動車修理業者などが、この車を所有しています。

ほかにもあるトノックスの特殊車両

消防車やレッカー車は、私たちにとって最も身近な “働く車” ですが、工場内を見ると変わった特殊車両がもっとありそうです。


アルパカ
トノックスさんでは他にどんな特殊車両を作っているんですか?


㈱トノックス 殿内さん
道路の路面を検査する車、トンネル内の壁や天井を検査をする車、フォークリフトなども製造しています。一点物もありますよ。ご案内しましょう。


▲路面性状検査車。
高速道路や幹線道路などの舗装面のひび割れや、ガタガタなどを最先端のレーザー計測技術、高精度センサー技術、コンピュータでの制御技術を使って調べていきます。
小回りのきくワンボックスカーから作られていて、時速80kmで走っても、1mm以上のひび割れや、±1mm以上のガタガタを検出することができるそうです。


▲トンネル検査車。
JR東日本が持っている鉄道のトンネル内を検査する車。
道路の検査技術と同じように、センサーを使ってトンネル内のひび割れなどを調べます。
センサーによってトンネルの2次元の画像データと3次元の形状データを、同時にミリ間隔で取得。またレーザー光をトンネルの内側に沿って当て、跳ね返ってきた光をカメラで撮影することで、トンネル内の画像や凹凸の情報を高精度で取得します。
なお写真の後ろに見える円形は、トンネルを模したもの。環境を再現して性能テストをしていました。


▲空港用除雪車。
雪の時季の空港でないと見ることができない希少な特殊車両です。
最大横幅7.2mの大きなブレードで広範囲な作業が行えます。


▲軌陸車。
線路も走れるので、鉄道保線や電車線工事などで活躍しているそうです。
変わった機能がついているとのことで、じっくり見させていただきました。


▲車体の下に、車輪が隠れています。
通常の電車の車輪と比べると少し小さいですが、これが線路用車輪となっています。タイヤと車輪の二刀流です。


▲車体の中心には、円盤状のジャッキが。
踏切内に停車して車体を持ち上げて回転させ、そこから線路に入るそうです。


▲ジャッキで車体を持ち上げると、大人1人の力で簡単に回転できるそうです。車庫入れが苦手な僕としては、一般車にも導入してほしい機能ですね。


▲線路内に入って、こんな感じで活躍します。
ケーブルのメンテナンスや、線路のたわみ調査、砂利入れをする車両など、いろいろな機能を持った軌陸車があるそうです。


▲フォークリフトや、パワーショベル、ブルドーザーといった建設機械車両のキャビン(運転席)も、トノックスさんで製造しています。これを車体に乗っけるんですね。


▲変わったところでは、公園や団地などを周回する宝くじ移動販売車。
全国で数台しかないそうなので、出会える確率は宝くじに当たる確率よりも低いかもしれません。
ほかにも、食品・飲料メーカーのイベント用キッチンカーなども作ったそうです。

受注が増えた特殊車両

創業70年を越える株式会社トノックスさん。
時代によって求められてきた車は違うと思いますが、最近ではどんな車が増えているんでしょう。


アルパカ
変わった注文や、ここ最近の傾向などはありますか?

㈱トノックス 殿内さん
東日本大震災以降は、災害対策に関する車両の注文が多いですね。
いくつかご紹介しましょう。


▲車体の胴体部分が、横に広がる災害支援車。
災害が発生した際に現場へ赴き、情報収集や分析、連絡、指揮などの拠点となる車両です。
総務省消防庁で管理されていて、厳しい災害現場での長期間の滞在を支援するための物資が積載・装備されています。
居住スペースにもなっていて、冷暖房、ガス給湯器、テレビ、電子レンジ、冷蔵庫、ベッド、トイレ、シャワー、給排水タンク、発電機などが備わっています。
外から見ると横に四角いものが出っ張っていますが、現場に到着してから荷台部分を横に広げることで、空間を広げています。


▲水害地で活躍する排水車。
排水ポンプや投光機、多目的クレーン、走行用エンジンを動力にする発電機などが装備されていて、普通のトラックでは入れない災害現場での救助活動を支援します。
ドイツのメルセデス・ベンツ製の作業用車「ウニモグ」という車がベースとなっているそうです。


津波対策車(大規模風水害対策車)。大きいものでは全長約10m、幅約2.5mにもなります。
水陸両用バギーやFRPボート、ゴムボート、フローティング担架、スケッドストレッチャー、ドライスーツ、胴付長靴、ライフジャケットなどを載せる、冠水した地域での人命救助に特化した特殊消防車両です。
東日本大震災での教訓を踏まえ、津波浸水地域における緊急消防援助隊の活動能力向上を図るため、全国の消防本部に配備されているそうです。

トノックスの新しい取り組み

いろいろな特殊車両を作ってこられたトノックスさん。
これまで培ってきた技術や開発力で、これから目指すものを聞きました。


アルパカ
トノックスさんとして、今、力を入れていることは何ですか?


㈱トノックス 殿内さん
そうですね。これからの社会に役立つような、自動運転車小型EVなどの製造や開発に取り組んでいます。

《自動運転車》

▲こちらは自動運転バスです。
定員30人ほどのEVバスの前方部分に、高性能センサーが取りつけられています。
緊急車両でもEVシフトや自動運転化が進むことを見据え、新たな時代に対応したカスタマイズのノウハウをいち早く蓄積する必要があると考えたそう。


▲前にも横にも、カメラがたくさん!
2023年4月に解禁された自動運転レベル4(限定地域での完全自動運転)。実用化に向けて、長野県塩尻市で自動運転の走行試験も行っています。
まずは地方自治体向けのバスとして、さらにタクシー向けなど異なるタイプの車両も含めて、2025年までに300台規模の生産を目指しています。

《超小型EV》


METAxさんと協同開発を進めている1人乗りのEV電動のマイクロ・ユーテリティ・ビークル『クロスケ』(XK)です。
写真は、超小型EV技術研究組合(METAx)Project leader 竹村 洋之さん(左)と、株式会社トノックス 常務取締役 殿内 崇生さん(右)。
高齢化や人口減少などにより急激な変化を迎える社会に、身近で使いやすい超小型EVを提案。宅配や食品デリバリーなど、小さい荷物を運ぶ車両として、多くの人の暮らしをより豊かにしたいという目標があります。
殿内さん曰く「EV開発エンジニアが造りあげる本物のEV」。2026年頃の量産を目指しています。


▲運転席に座らせていただきました!
1人乗りなのでハンドルはセンターです。なんとこの車、車検がいらないんだとか。
車体は軽自動車より一回り小さい規格になっています。
・軽自動車 長さ3.4m 幅1.5m
・クロスケ 長さ2.5m 幅1.3m 

《コンバージョンEV》

▲最後にご紹介するのはコンバージョンEV
コンバージョンEVとは、従来のエンジンを電気モーターに置き換えた電気自動車のこと。
騒音問題、環境問題、燃料の高騰、部品の不足などが原因で維持が難しくなってしまったクラシックカーを再生し、活用するための選択肢として注目されているそうです。
その第一歩として、トノックスさんではランドクルーザー60(写真)のEVコンバートに取り組んでいます。


▲エンジンや燃料タンクを取り外し、電池を載せて生まれ変わらせます。
「古くてもいいクルマに手を入れて長く乗る」。それが殿内さんの狙いです。このリユースはSDG’sに繋がりますね!

株式会社トノックスとは?

本日は取材にご協力いただき、ありがとうございました。
では最後に、株式会社トノックスさんをご紹介しましょう。

株式会社トノックスさんは、神奈川県平塚市に本社と工場を持つ、特装車・架装トラック専門の車体架装メーカーです。工場は、横浜、静岡県の菊川にもあります。
平塚工場では軽乗用車から、バスやトラックなどの大型車両までの幅広い車種に対応し、年間で3,000台以上を生産しています。

1950年に「殿内製作所」として横浜で創業し、日産自動車の協力工場として自動車車体の製作。ダットサントラック、ライトバン、日産パトロールカーなどの生産を始めました。
その後、初代の日産フェアレディやシルビアなどを生産。当時はまだ機械化できなかった時代で、叩いて板金していたそうです。


▲初期の日産フェアレディ。日本を代表するスポーツカーですね。


▲こちらは初期の日産シルビア。カッコイイ! この状態ならすごい値段がつきそう。

1973年に、本社を平塚市に移転。
各自動車メーカーが量産体制に移っていく中で、トノックスさんは特殊車両の製造へと舵を切りました。
そして10年ほど前から、消防車や高速道路パトロールカー、ガス会社の緊急車両や災害対策車などを中心に製造しています。

現在は、ボディのさび止めコーティング以外は、ほぼ手作業で行っています。
「オートメーション化は進めていきたいが、まったく同じ車を作ることが少なく、個々にカスタマイズを要する発注が多いので、どうしても手作業が増えてしまう。でもそのおかげで技術力が上がる。それが我が社の財産」だそう。
今後は、将来を見据えた自動運転やEVのノウハウを、さらに高めていくそうです。

災害大国ニッポン、そして高齢化や高速道路の老朽化が課題となっている我が国を、トノックスさんは支えてくれているんですね。引き続きお世話になります!

株式会社トノックス
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