世の中には私たちが知らない聞いたこともない職業がたくさんあると思います。最近筆者が知った職業で「デバッガー」というものがあります。彼らは、エンジニアが開発したプログラムやゲームを実際にプレイし、バグが発生した場合にその再現方法や頻度などを開発側に報告、修正後の動作確認をする仕事です。世の中には素晴らしいプログラムやゲームがたくさんありますが、開発の裏で彼らの活躍があるのでしょう。

 

NOSIGNER代表太刀川英輔さんの職業でもある「デザインストラテジスト」も、皆さんがよく知らない職業の一つではないでしょうか。デザインストラテジストとは、デザイナーとストラテジストの両方の役割を担い、デザインで経営を変革していく人だそうです。デザイナーの仕事は想像つく人も多いと思いますが、クライアントや依頼者の要望に応じて、様々なもののデザインを考案することです。ストラテジストとは、経済動向などを分析し、投資に関する戦略や方針を立案する専門家のことです。さまざまな視点から投資環境を分析して投資戦略を立て、投資家やファンドマネージャーに提供します。つまり、デザインストラテジストとは、デザインによるアプローチで未来を描き、その未来を実現するための戦略をたて、その道筋を設計して成功に導く人ということでしょうか。

 

デザインストラテジストに求められる素質はどんなものでしょうか。まずはクライアントの要望を確実に引き出すための高いコミュニケーション能力が必要です。そしてその要望を実現するために必要な専門的な知識、最新の情報やトレンドをキャッチする力。クライアントが想像する未来を描くためのデザイン力。描いた未来を仲間やクライアントに共有するための言語化能力やプレゼンテーション能力。既存の枠にとらわれず、他の領域にも興味を持ち、新しいことに果敢にチャレンジするチャレンジ精神。そして、ゴールに導くためのリーダーシップも問われるでしょう。

彼らは日々、新しいアイデアを生み出し、それを実現していくために、また新たなアイデアを生み出していきます。今回のテーマでもあり、新たなアイデアをかたちにすることができる「進化思考」について、次回ご紹介したいと思います。

様々な社会課題や未来予想に対してイノベーションをキーワードに経営学者・入山章栄さんが様々なジャンルのトップランナーたちとディスカッションする番組・文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」8月23日の放送では、Panasonic Game Changer Catapult代表深田昌則さんと、デザインストラテジストでNOSIGNER代表太刀川英輔さんにご参加いただき、「現在の取り組み」から「進化思考でいかにアイデアを生み出すのか」について熱いトークが繰り広げられました。

 

現在の取り組み

深田　Game Changer Catapultでは、コンテスト形式で新規事業のアイデアを社内から募集し、良いものは予算化と実証実験を繰り返し、事業化を目指します。最近の注目は、先月代官山で出店した「アースミルク」で、牛乳の代わりに最近流行している植物性ミルクに注目した事業です。未来の食を考えた時、アニマルウェルフェアの考え方や、栄養や体調維持に必要な食べ物を自ら積極的に選んでいく動きがあります。家電だけではなく、生活自体を変えていくことに取り組んでいます。

太刀川　建築デザインを学んでいて、「何を作るか」ではなく「なぜ作るか」を考え出すようになりました。ストラテジストとは、企業の戦略まで含めてデザインの観点からストラテジーを考える仕事です。私はデザイナーであり、ストラテジストでもあるのですが、職業名がなかったのでデザインストラテジストを名乗ることになりました。

 

進化思考でいかにアイデアを生み出すのか

太刀川　進化思考とは、生物進化のように「変異」と「適応」というプロセスを繰り返し、誰もが持っている創造性を発揮するための思考法です。変異の仕組みと適応の仕組みが往復して、生物の進化が発生します。生物進化の構造は、エラーと選択の繰り返しです。ある種の偶然と必然が繰り返すと、勝手に種がある方向に収束し、デザインが出現します。いくつかある変異のパターンを適応していくことで、誰でもアイデアが出しやすくなります。変異とは壮大なボケで、適応は壮大なツッコミです。

 

深田　新しいアイデアを考えるとき、一人では思い浮かばない時も、誰かと会話することで形になっていくことがあります。これは、変異と適応をロールプレイみたいに行なっているのかもしれません。これが進化思考です。