テクノロジーの力で牛を見守る ファームノート×丸紅の挑戦

テクノロジーの力で牛を見守る ファームノート×丸紅の挑戦

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丸の内Innovation Culture Cafe 「~未来の食から見える世界とは?~」
TMIP×文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」スペシャル企画 後半

2022年5月18日に開催したTMIP×文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」スペシャル企画・丸の内Innovation Culture Cafe 「~未来の食から見える世界~」。
後半は酪農・畜産業の未来について語り合いました。

◆登壇者紹介
〇丸紅 穀物事業部事業開発課長 桑野洋平
2003年入社。穀物トレード、海外事業会社経営、M&A案件を担当。日立製作所への出向で得た経験を活かし、丸紅の食ビジネスにデジタル変革を起こす事業開発を行う。

〇デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー 坂口直樹
Future of foodをテーマに、食や農に関わるデジタル変革・社会課題解決型ビジネスに取り組む。

早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄

元乃木坂46、プロ雀士、麻雀カフェ「chun.」オーナー&店長・中田花奈

文化放送アナウンサー・砂山圭大郎



桑野:現在、全国の酪農家は1万3000戸超とされていますが、2030年には半分くらいの数になってしまうといわれています。じつはこれまでも、酪農家は長時間労働に追われることなどから、離農が進んでいました。さらに近年、エサとなるトウモロコシ、大豆、小麦などの穀物の価格が高騰。農家にとって大きな打撃となっています。

入山:酪農家がどんどん減っているんですね…。中田さん、スイーツ好きですよね。このままだとバターやクリームなどの乳製品が価格高騰して食べられなくなるかも。

中田:困りますね。スイーツだけじゃなく、カフェオレも飲めなくなってしまうかも…。

坂口:それだけではありません。牛のゲップに含まれるメタンガスは温室効果ガスとされ、大きな環境問題となっています。

桑野:ですので今、ゲップを抑制する飼料を開発したり、ゲノムの解析によってゲップを排出しにくい品種を開発したり、といったアプローチが次々に生まれているんですね。もちろんデジタル化で生産効率を上げていくことも有効な取り組みといえます。

入山:なるほど。生産効率が上がれば、牛の頭数を減らしていくことができますね。

桑野:そこで当社が協業するのが、酪農・畜産農家の生産性向上に取り組む農業ITベンチャー、ファームノートです。同社では酪農・畜産にかかわるさまざまな作業をDXしているのですが、その一環として開発したのがリアルタイムで牛の情報を収集する首輪型デバイス。
そもそも牛の搾乳を行うには牝牛を出産させなければなりません。そして、そのためには発情期に受精させる必要があります。従来は人が夜も巡回し、様子を見たり触ったりして発情期のタイミングを確認していました。しかしこのデバイスを装着すれば、発情の兆候を検知でき、人の労力削減につなげられます。

坂口:アメリカでも、デジタル化で酪農・畜産業の生産効率を上げようという動きが広がっています。アメリカの酪農・畜産農家はどんどん大規模化しているのですが、中西部などには昔ながらの小さな農家もたくさん残っているんですね。そこでデジタルを導入し、課題解決しようとしているのですが、専門家しか使えないようなユーザビリティの低いシステムも少なくないのです。ファームノートのデバイスは海外でもニーズがあると思いますね。

入山:「特定の狭い分野にカスタマイズしてしまい汎用化できない」という問題はデジタルの世界では起こりがち。現場の方が使いやすいものを提供することは大きなポイントだと思います。ユーザーの多くはデジタルに詳しいわけじゃないですから。

桑野:日本の酪農・畜産業におけるもうひとつのハードルは、収益が上がりにくく、デジタル化に投資できないこと。業界全体のしくみの問題も無視できません。競争を促し、頑張った農家さんが報われるシステムをつくらなければ。

入山:農協さんがこれまで果たしてきた役割は大きいですが、今の時代を考えると別の役割も必要になってくるのかもしれませんね。

坂口:農業も法人化が進んでいるので、業界もすこしずつ変化してきています。デジタル化による固定費を回収できるよう、大規模化を進める必要はあるでしょうね。

入山:これから世界の人口が増えると動物性たんぱく質の需要も拡大します。最終的には培養肉、あるいは代替肉という選択肢もあるでしょうけれど。実際、海外のセレブのなかには「地球環境のためにステーキを食べない!」という人も増えていますよね。でも、おいしいステーキを食べながら、環境負荷を抑えるアプローチを考えたほうが人間の幸せにつながるんじゃないかな。

坂口:農業には環境負荷を抑制する余地がまだまだ残っていると思いますよ。たとえば農地に二酸化炭素を吸収させたり、飼料の配合を変えて窒素を抑える、といった取り組みも始まっています。牛が排泄する大量の糞尿をバイオ発電に使うなどし、「カーボン・オフセット」をめざす動きもあります。生産工程をトータルで見たときの温暖化ガス排出量を抑えようというわけですね。いわゆる “ネットゼロ”の牛乳もアメリカでは流通し始めており、カーボン・オフセットが活用されています。

入山:ネットゼロ牛乳、つまり排出量ゼロミルクですね。面白い!

桑野:先ほどもお話したように、ファームノートでは給餌をはじめ、さまざまな作業をDXしています。北海道・中標津の自社牧場にはスタッフは1、2名しかいませんし、労働時間も午前8時~午後5時と短い。東京など離れたところに住む人に牛のオーナーになってもらい、デジタル牧場に飼育を委託する――といったことも、近い将来可能になるかもしれません。

入山:テクノロジーの力で持続可能に、かつ気軽に牛や豚を育てられるようになると、酪農・畜産業に参入する若い人も増えるかもしれませんね。僕もヒツジとか飼ってみたいですもん(笑)! 今日はみなさん、貴重なお話をありがとうございました。



文化放送が運営するポッドキャストサイト「PodcastQR」では、浜松町Innovation Culture Cafe以外にも社会・ビジネスに関する番組が多数ありますので、ぜひお聞きください。
エピソード一覧はこちら

 

<入山章栄のキーワード~「インスティテューショナル・アントレプレナー」>

「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)より

〇「インスティテューショナル・アントレプレナー(institutional entrepreneur)」は1988年に発表されたニューヨーク大学ポール・ディマジオの論文を皮切りに、2000年代以降、研究の進んだ理論です。

〇同質の企業、人、組織で固められたフィールドにはそれぞれ特定の慣習があります。古い慣習にはしばしば非効率なものがありますが、フィールド内にいる人はなかなかそのことに気づきません。彼らにとってはごくあたりまえのことだからです。

〇しかし、常識とは「幻想」にすぎません。そのことに気づいて変革を起こした人、すなわちインスティテューショナル・アントレプレナーだけが常識を塗り替えることができます。

〇ファームノートや丸紅は、旧来の酪農・畜産業のパラダイムをひっくり返そうとしています。もちろん、簡単なことではありません。業界のエコシステムそのものが変わらなければデジタル化は進まないでしょう。ファームノートがもつテクノロジーの力、そして商社のネットワーク力を掛け合わせることで新しい常識が誕生するのではないでしょうか。

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「丸の内発のイノベーションが世界を変える」を合言葉に、すでに100以上の大企業と団体が参画するTMIP。大企業×スタートアップ×官×学がダイナミックに連携し、グローバルマーケットに向けたイノベーションの創出を支援します。丸の内エリアでの実証実験のサポート、マッチングなど支援内容は多岐にわたり、セミナーや、サークル活動を通じた交流も活発です。多様な人々が集い、知恵やリソースを出しあうことで日々創発が生まれるイノベーションのプラットフォーム。
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TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)

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// 2022.04.28追加