逃亡中の監督が撮影したミャンマー映画「夜明け」~鈴木BINのニュースな映画

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鈴木BINのニュースな映画

文化放送報道部デスク兼記者兼プロデューサーで映画ペンクラブ会員の鈴木BIN(敏夫)が、気になる映画をご紹介しています

ミャンマーのドキュメンタリー映画「夜明け~Lay of Hope」

ミャンマーを舞台にした作品は日本映画「ビルマの竪琴」やビデオで観たアメリカ映画「ラングーンを越えて」など何本かあるが、ミャンマー映画を観たのは初めてだった。しかも恐怖で国を支配する軍事政権から指名手配で追われる監督が撮影したドキュメンタリー映画と聞いて驚いた。軍によるクーデターが2021年2月1日に発生。国軍はミン・アウン・フライン国軍総司令官に権力を集中させ、ミンは国家行政評議会議長に就任した。抵抗する民主派へ連日続く残虐行為に国際社会がまともな手を打てない中、国軍は中国やロシアの助けを借りながら非常事態宣言を続けている。テレビもラジオも新聞もミャンマー報道の頻度が落ちていった。しかし、ドキュメンタリー映画は生きていた。香港でも民主化デモに関するテレビ報道が減ったあとドキュメンタリー映画が世界に発信され続けている。この作品の監督であるミャンマーのコ・パウ監督も同様だ。映画の力でミャンマーの現状を世界に伝え続けようとしている。コ・パウ監督は、知人の芸能人らとともに軍事政権に反対するデモに参加したことで軍事クーデター政府から指名手配を受けてしまった。匿われながら様々な場所を転々とし、現在は国境に近い民主派が支配するジャングルの中で生活をしながらテントの下に置かれたPCや編集機材を使ってドキュメンタリー映画「夜明け」を完成させたのだ。自身がどのようにここまで逃げてきたのかと言ったようなことをスマートフォンなどで撮影した粗い映像でつないだ作品だが、「本物の映像」のパワーはすさまじいも。そのコ・パウ監督が1月31日にオンラインで「夜明け」の上映会と記者会見を開いた。

私が監督に質問したのは、民主派のメンバーの顔が映像に映っていた点だ。というのも香港の民主化デモを描いたドキュメンタリー映画「理大囲城」では、顔が当局に把握されないように極力顔にモザイクをかけていたから。しかしコ・パウはそのことについてそれほど心配はしていないようだった。家族もみな今は安全な場所にいると話していて、そういった楽観的で大胆な心持ちが無いと逃げながらの映画撮影なんてことはできないのかもしれない。ちなみにこういった圧政と暴力を世界に訴えるドキュメンタリー映画は今もミャンマーの監督たちによって撮影されているのかとも聞いた。オーストラリアなど国外に脱出した監督たちによってそういった発信は続けられているらしいが、コ・パウ監督はまだミャンマー国内にいるわけなので、軍事政権や国軍の残虐さを考えると全く油断はできないはずだ。

映画ファンにとってミャンマーと言えば先述の市川崑監督によって1956年版と1985年版が作られた「ビルマの竪琴」が印象深い。「ミャンマー」と「ビルマ」は実際には訛りレベルの発音の違いでしか無いそうだが、2つの単語の持つ歴史的な意味が違う。ミャンマーに変更したのは軍事政権で、1989年に国名の英語表記をBurmaからMyanmarに改めた。その際にこの軍事政権をいち早く承認したのは日本で、外務省も国名を「ビルマ」から「ミャンマー」に変更した。外国の国名の場合は「イタリー」を「イタリア」に、「オーストリー」を「オーストリア」に変更したように法律を変えねばならない。日本が法律を変えてこの軍事政権を認めた。ちなみに当時の総理大臣は就任してまだ2週間の宇野宗佑総理で、宇野総理は就任翌日に発生した「天安門事件」でも「中国の孤立はさせない」とフランスで行われたサミットで論陣を張り、民主化運動を戦車と銃で蹂躙した中国政府を擁護した。宇野総理と言えば、女性スキャンダルで辞任した総理という印象が強いが、短い在任中にこのような重大な外交的判断をしていたことになる。ちなみに政府が「ビルマ」を「ミャンマー」に変更した後も、テレビ朝日のニュース・ステーションでは久米宏キャスターがこだわりをもって「ビルマ」と紹介していた。抑圧下にあった国民や軟禁状態にあったアウンサンスーチー氏へのエールをこめた表現だったと思う。その後民主化が実現し、アウンサンスーチー氏は国家最高顧問になった。アジア最後のフロンティアと呼ばれるようになると、衣類のタグを見ても「MADE IN MYANMAR」と入ったものが目につくようになる。オリエンタルで未開拓なムードを楽しむ日本人の観光客も増え、いつの間にかミャンマーと呼ぶことにも違和感を覚えなくなっていた。人権団体の多くも、民主化して以降はミャンマーに変更したり、ミャンマーとビルマの併記へと移行していったが、アメリカ政府や雑誌「タイム」など一部メディアは現在もビルマと呼んでいる。

この作品は、明日2月4日(土)の午後7時から東京・北区にある「北とぴあ さくらホール」で逃亡中の映画監督コ・パオ監督のドキュメンタリー「夜明け」が上映される。入場料は2500円で、このお金はミャンマーにおける民主派の活動費用になるのだという。映画を観ることで少しでもミャンマーの方々の力になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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