『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 続く深刻な円安、日本の「終わりの始まり」か? それとも「新たな時代の幕開け」?

『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 続く深刻な円安、日本の「終わりの始まり」か? それとも「新たな時代の幕開け」?

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情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。

この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2022」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。

続く円安、なぜ起こった? 回復する?

2022年7月9日の放送では、続く円安についてメールをいただきました。

●質問メールの要約
・下がり続ける円の価値
・円安の原因は?
・回復しますか?

●メール本文はこちら!
円安が続いています。
ドルに換算すると、手元の1万円札が8500円ぐらいの
価値になってしまったらしいのですが、
日本全体ではどのくらい損をしているのでしょう。
そして、これは国の借金を増やした事への
報いでしょうか?
いつか回復しますか?
(ハッピィがエンド さん・千葉市美浜区・男性)

2022年4月から3ヶ月で、急激に円安がすすむ

収録の行われた2022年6月時点では、1ドルが136円程度。
最近の上がり方を見ている感じでは、140円に届いてもおかしくはありません。

ここ5年(2017年〜2022年)で、1ドル115円を超えたことはありませんでした。市場的にも、110〜120円程度が最もバランスが良いと言われていたのです。

それが、今年の4月ごろから急に上がりだし、3ヶ月で140円に届く勢い。

これからどうなるのか、先行きが不安ですね。

円安になると、海外旅行で損をする

まずは、円安についておさらいです。
円安とは、円の価値が弱くなっている状態のことを指します。

たとえば、アメリカへ旅行することを考えてみましょう。

ホテルや食事の代金で、合計2000ドルがかかるとします。

円が110円のときは、2000ドルは22万円
ところが円が140円になると、2000ドルは28万円です。

同じ旅行をしているのに、値段は25パーセント以上上がっているのです。
これって結構な痛手ですね。

「旅行も貿易もしないから、私には関係ない?」

では、この「痛手」が、企業のレベルになったらどうでしょうか。
10万ドル、100万ドルの単位で仕入れを行う企業は数多くあります。
円安が進むと、これまでと同じ量での買い付けができなくなることは容易に想像がつきますね。

日本は輸出産業が強く、これまでは円安を歓迎するムードもあったのですが、今回は少し様相が違います。
というのも、日本では、食料の7割近くを輸入に頼っています。また、多くの会社は原料や部品、商品等を海外から輸入しています。
円安で仕入れの価格が上がれば、商品の値上げをしなければ商売が成り立ちません。結果、生活の至るところで、物価が上がっていくことになるのです。

円安のニュースは、日本国内で生活していると、どこか他人事のように受け取ってしまいますが、実は生活に根ざした大問題でもあるのですね。

円安の要因は、ドルやユーロの金利が上がったこと

なぜ円安が進んでいるのでしょう。

そもそもは、ドルやユーロをはじめとした主要通貨の金利が上がっていることが直接の原因です。

日本も足並みを揃えて円の金利を上げられればよいのですが、続く不景気の中ではどうにもできない。
このため日銀は従来通り、低金利政策を採用しています。

ドルやユーロと円で、金利に差が生まれた。そして、日本の金利は今後もしばらく上がらない。

このことが、円安を加速させているのです。

6万円が7万2800円に?! 通貨間金利差の利用法

通過間の金利差が、なぜ円安を加速させるのか。
理由を具体的に考えてみましょう。

まずは、皆さんがドルを円に替える(=円でドルを購入する)ことを考えてみてください。
1ドルあたり120円を、500ドル分購入したとしましょう。購入には6万円がかかりますね。

このドルを運用します。
ドルの金利は2022年現在、年間で3〜4パーセント上がりますから、500ドルが4パーセント上がり、520ドルになりますね。

この時点ですでに、預貯金としてただ円を貯めているだけのときよりもお金が増えています。

さて、ここで増えた520ドルを円に戻し(=ドルで円を購入し)ます。

1ドルが、購入時と同じ120円のままだったとしても、戻ってくるお金は62,400円。
さらに、円安が進み、1ドルが130円になっていたら、520ドルは67,600円に。
140円になっていたら、72,800円に増えます。

6万円が、為替間の金利差と、円安を利用して運用するだけで72,800円になる。
運用をしている方からすれば、「円安よ、もっと進んでくれ!」ですよね。

みんなが円をドルに両替する=円安が進む

 

どうすれば円の価値は下がるのでしょう。

通貨の価値は、大きく二つの理由から決まっていきます。

一つ目は、市場に出回っている通貨の量。

これは、スーパーで売られている野菜の価格と同じ原理。
出回る数が増えれば安くなり、出回らなくなると高くなるのです。
暖冬で野菜の収穫量が増えると、野菜の価格が下がりますよね。あれと同じです。

円を売ってドルを買う人が増えると、市場に出回る円の量が増えます。
すると、円の価値はますます下がる、つまり円安が進みます。

そんなわけで、投資家たちの思惑に従って、円安はどんどん進んでいくのです。

国の信用力の低下でも、円安が進む

二つ目の原理は、「国の経済的な信用力」です。

信用力の低下によって通貨価値が下がった例として記憶に新しいのは、ベネズエラです。
経済政策の失敗など数々の要因が積み重なり、経済が破綻したベネズエラ。
経済が不安定で、今後経済が上向きになる見込みも立たない国の通貨は、所有する価値が低い。
こちらも野菜と同じで、質が悪ければ価格が下がるというわけですね。

結果、世界から見たベネズエラの通貨価値が下がり、輸入に大変なお金がかかるように。
結果引き起こされた物価の値上がりは、経済破綻前の100万パーセント以上とも言われています。

これを日本で例えるなら、これまで100円で購入できていた商品に100万円を出さなければ購入できなくなったということ。
一方、給料は上がらないわけですから、当然、購入できる商品は極めて限られます。

さらにコロナが追い討ちをかけ、国民の多くが生活に困窮する事態になりました。

2022年の円安を無条件に肯定できない理由とは

ひるがえって、日本政府は現在、借金を約1000兆円抱えています。
これだけのお金を借りてこられたのは、日本に経済大国としての信頼があり、返済できるだろうと誰もが思っていたからこそ。

ただ、こうも不景気が続けば、日本経済への不信感がいやまします。

もしも、日本が借金を返済できない国だと判断されてしまったら。
それどころか、本当に返済ができなくなってしまったら。

日本政府の発行する通貨が、持っていてもそこまで価値のない通貨だと世界から判断された場合、円安の進みは止まらなくなってしまうことでしょう。

円安、一時的なのか、ずっと続いていくのか?

今回の円安に関連するニュースで不安を覚える人が多いのは、不景気が続き、さらにこれを脱却する道筋も見えないからなのかもしれません。

もちろん、今回の円安が、ウクライナでの戦争や、一時的なマーケットの動きによって引き起こされた一過性ものだと考える人もいます。

ただ、個人的には、円の価値がいつまでも下がり続ける=円安がいつまでも終わらないシナリオも、考えられるとは思っています。

貧しい国って、どんな国?

さて、このコラムの最後に・・・。

もしかすると日本はこれから、経済的には貧しい国になっていくのかもしれません。

そこで私が皆さんに考えていただきたいのは、「豊かな国」とは何か? という、そもそもの問題なのです。

もしかすると人によっては、たくさんの消費ができること、大量の物に囲まれていること、要するに、バブル期のような豊かさを、豊かだと考えることもあるかもしれません。

でも、気候変動の問題も深刻になる世の中では、もう少し違った意味での「豊かさ」も検討されなければいけないと思うのです。

もちろん、ベネズエラのように「明日食べるものにも事欠く」といった、直接生命に関わるような貧しさは避けなければなりません。

ただ、

・自然の中で過ごすなど、お金のかからない趣味を持つ
・使わなくなったものは、捨てずに誰かとシェアする
・使い捨ての商品をできるだけ使わない

といった暮らしに心地よさや幸せを感じられるなら、世界有数の経済大国でなくとも、十分に充実した生活を送れるのではないか・・・とも思うのです。

まとめ

今回は、続く円安について考えてみました。

まとめると、

・円安は、投資家の思惑で進む
・円安になると物価が上がり、生活は苦しく
・円安が止まるかどうか、現時点では分からない
・日本の経済国家としての信用が問われているのかも

ということですね。
メールをお寄せいただき、ありがとうございました。

大垣尚司 プロフィール

第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。

1959年、京都市生まれ。
東京大学法学部卒業後、日本興業銀行に入行。
1985年米国コロンビアロースクール大学院修士課程修了。
アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン代表取締役社長などを経て、現在は、青山学院大学法科大学院教授、立命館大学客員教授・金融ジェロントロジー/金融・法教育研究センター長を務める。

2006年、「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人移住・住みかえ支援機構)代表理事に就任。

家とお金に関するご質問、お待ちしてます

番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.net まで。

※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください。

お知らせ

パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。

住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。

賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。

制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。

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